話題の「AIエージェント」は仕事をどう変えるのか? SlalesforceのCIOが語る
AIエージェントに関する話題が各所で話題になっている。Salesforceのファン・ペレス氏(最高情報責任者兼エグゼクティブバイスプレジデント)がAIエージェントを使った働き方について語った。
AIエージェントに関する話題が各所で話題になっている。Salesforceのファン・ペレス氏(最高情報責任者兼エグゼクティブバイスプレジデント)がAIエージェントを使った働き方について語った。
ペレス氏は、大手物流企業であるUPSに32年間勤務し、CIO(最高情報責任者)やエンジニアリング責任者を務めた後、3年前にSalesforceに入社した。このインタビューにおいては、SalesforceのAIエージェントを含めてさまざまな話題について議論が交わされている。
話題の「AIエージェント」は仕事をどう変えるのか?
――Salesforceの前CIOは、前職で列車を時間通りに運行する業務を担当していた。一方、現在のCISOであるあなたは荷物を時間通りに配送する業務を担当していた。UPSにおけるどのような経験が、Salesforceでの仕事に生かされたのだろうか。
ペレス氏: 回答として、幾つかの内容が思い浮かぶ。1つ目は、大規模な組織をサポートできるIT組織の重要性だ。これはSalesforceが私に興味を持った理由の1つでもある。UPSでは、世界中でビジネスを展開する企業全体を支える技術を管理する大規模なIT部門を運営していた。USPはFortune 50に数えられる非常に大きな企業であり、航空事業を運営するような部門もあり、その全てにおいて荷物を時間通りに配送するために複雑な業務を担っていた。
2つ目として、Salesforceは賢明で、ビジネスを成長させるには最先端の技術が必要であると理解していた。まずはSalesforceに直接関連する範囲に技術を導入し、その後に他の技術を実装しながら企業全体の成長を支援できる体制を整えた。これらの施策には、綿密なデータ戦略の立案や企業で使用する技術の更新、企業のニーズに合わせたIT運用モデルの確立などが含まれている。AIに関する領域では、導入のためにIT組織の体制が整っているかどうかも重要だ。
――あなたは「生成AIは、1990年代にインターネットが大規模に登場したときと同様に大きなインパクトをもたらす」と述べている。同様の意見を述べる人物は多い。例えば、The New York Timesのカーラ・スウィッシャー氏(ジャーナリスト)や、他のベンダーの技術リーダーも同様に述べている。その理由を教えてほしい。
ペレス氏: 私はこれまで多くの異なる製品に携わってきたが、技術を活用してさまざまなことを実現しようとしても、組織に対する価値を生み出すまでには至らなかった。しかし、生成AIは、人々が報告書やデータから洞察を得て行動を起こすために費やす時間を大幅に削減できる能力を備えていると信じている。つまり、最終的には、顧客サービスの改善や生産性の向上、効率の改善に取り組むための時間が増えるのだ。
生成AIが全ての業務に対応するわけではない。生成AIは従業員の業務をより効果的なものにし、ビジネスの改善のためにより多くの時間を活用できるようにするイネーブラーになるだろう。
――先ほど、あなたが構築するIT体制において、Salesforceの技術が第一にあると述べていたが、それは当然のことだと考える。大規模言語モデル(LLM)や、Salesforce以外の生成AIツールなどの他の技術をどのように評価し、導入しているだろうか。
ペレス氏: 何を試すにしても、どのような技術を開発するにしても、最終的に大規模に導入するためには、自社のビジネス戦略と方向性が一致していなければならない。これはフィルタリングのメカニズムである。この種の決定をする際の私の最初のフィルターは「これが自社の戦略と一致しているかどうか」だ。
次に「これが組織にとって明確な価値を生み出せるものかどうか、サービスや品質を向上させるかどうか」を確認する。それらをクリアできるものであれば、次の質問として「目的を達成するための技術が自社にあるかどうか」を考える。答えがイエスであれば、「目的の達成を支援できるパートナーが存在するかどうか。もしくは、実行のためのスキルが自社にあるかどうか」を考慮する。これらが明確になれば、私たちは次のステップに進む。
最後の質問に対する答えがノーであっても、他の3つの質問に対する答えがイエスであれば、私は、チームと共に行動を起こし、チームのスキルを向上させるか、または私たちを助けてくれる適切なパートナーを見つけることに責任を負う。
――SalesforceはAIツールの投資対効果をどのように測定しているのだろうか。
ペレス氏: 生成AIが登場したとき、CEOはCIOに対してAIを導入するよう大きなプレッシャーをかけ始めた。私たちはAIソリューションを導入し始めたが、ビジネスに新しい技術を導入する際に一般的に行う厳密なプロセスを経ずに進めた。しかし現在は、企業が新しい技術を導入する際の通常のプロセスに沿った対応ができる状態に戻りつつある。私はSalesforceが提供するAIを信頼しており、そのAIをビジネスプロセスで活用するつもりだ。また、他の技術についても、安全で効果的で価値あるものを確実に導入するために、通常の評価プロセスを再び導入し始めている。
生成AIソリューションの価値を測定する能力も向上している。最近では、プロダクションに移行したコード行数を測定した。直近の実行では、プロダクションに移行した6万行のコードのうち、約26%がAIコード生成ツールを通じて生成されたものであった。このデータは私自身のCIOダッシュボードで測定しており、私のグループおよび企業全体でAIソリューションをどのように採用しているかを把握している。また、節約された時間や他のタスクへの再分配時間の測定も始めている。26%という数値を全ての業務に適用することはできないし、それは正確でも適切でもない。しかし、2025年に実施すべき特定の業務については26%という数値を利用できる。そのため、2025年の計画や予算を策定する際には、AIの利用による一定のコスト削減を予算に組み込み、その分を社内の他のイニシアチブに振り向ける予定だ。
――シャドーITの派生形である「シャドーAI」という概念を提起し、それをSalesforceのCIOとして語ることには特に興味深い背景がある。ジェネレーティブAIのガバナンスにおいて、どのような方針を採用しているのか?
ペレス氏: 長年にわたり、「組織全体のITを中央集権化すべきかどうか?」という議論を続けてきた。ITを完全に中央管理するべきなのか、ある程度分散化して、特定のグループがIT部門の監督の下で独自のITを構築できるようにするべきなのか。それとも完全に自由にして、その結果を見守るべきなのかを考察してきた。
全てを自由にしてしまうと、データ管理やセキュリティ、IT投資の整理が困難になり、大きな問題となる。結果として、会社に大きな価値をもたらさないものに莫大なコストを費やすことになる。
AIについても、私はこれと同じだと確信している。企業内でAIがどのように導入されているのか、エージェントやその他のAIソリューション、LLMの設置、AI提供企業との契約などを把握する仕組みがなければ、非統一で分散したAIソリューションが乱立する「シャドーAI」の世界に陥る可能性がある。そうした世界では、IT部門が顧客データや企業データの使用状況、モデルの内容を把握できず、プライバシーや著作権の管理も行き届かなくなる。このような状況になると、追加コスト、法的リスク、投資家への影響、顧客や従業員へのリスクといった形で、最終的に企業に大きな痛みをもたらす。
だからこそ、AIの管理とサポートにおいて組織化されたアプローチが重要だと考えている。
Salesforceでは、この問題に対処するために「AI評議会)を設置している。この評議会は現在「Agentforceセンター・オブ・エクセレンス」へと発展を遂げつつある。適切なグループ全体と連携し、プロジェクトや組織のニーズに対する可視性を確保し、最も重要なプロジェクトをサポートしながら、同時に責任を持って取り組むようにしている。
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