大阪ガスがNotionで月2000時間の情報共有作業を削減した方法
大阪ガスでは、ファイルサーバやメール、チャットなどさまざまなツールでの共有プロセスが煩雑で、ドキュメントを探すといった本質的ではない作業に時間を取られていた。この課題に対し、NotionやNotion AIの活用を工夫することで、情報共有にかかる時間を大幅に削減できたという。
「さまざまなファイルに情報が分散している」「情報のバケツリレーで生産性が低下してまう」――こうした情報共有、管理の悩みが多くの企業から聞かれる。
大阪ガスでも同様の課題があった。ファイルサーバやメール、チャットなどさまざまなツールでの共有プロセスが煩雑で、ドキュメントを探すといった本質的ではない作業に時間を取られていたという。その課題解消のため2023年に導入したのが、メモやタスク管理、ドキュメント管理、データベースなどをまとめた「オールインワンワークスペース」の「Notion」だ。今では、Notionに情報を集約し、Notion AIのアシスタント機能も活用することで、共同作業の生産性を大きく向上させた。
同社のDX企画部ビジネスアナリシスセンターでインフラエンジニアリングとシステムエンジニアリングを担当している鎌苅亮汰氏(DX企画部 アーキテクト)に、それまでに抱えていた課題やNotionを選んだ理由、導入時の工夫、得られた効果などについて聞いた。
ファイルサーバやメールでの送付、アクセス権限管理……社内外での情報共有のプロセスが煩雑
大阪ガスは、国内外におけるエネルギー事業を手掛ける企業だ。Daigasグループではエネルギー事業に限らず、都市開発や情報ソリューション、材料ソリューションの分野にも進出している。
データ利活用により経営課題を解決するチームであるBACは近年、テレワークの比率が高まったこと、また社外SES(システムエンジニアリングサービス)企業との協業の中で、社内外のエンジニア同士で情報共有をする機会が増えたことで、従来の情報共有の方法に限界を感じていたと鎌苅氏は話す。
「社内外のエンジニア同士で情報を共有する際、従来はドキュメントをファイルサーバにアップしたり、メールやSlackなど部署によって異なるツールでやり取りしたりしていました。送付時には、どのメンバーにどこまでのアクセス権を与えるかを設定する必要があり、手間を感じていました。また、ドキュメントを探すことに時間もかかっていました」
そこでBACでは、新たな情報共有のやり方を模索し始めた。その際に3つの軸を重視した。1つ目は、情報の共有や管理がシンプルに手間なくできること。2つ目は、1つの統一されたツールで情報共有できること。そして3つ目は、プログラムの処理の流れや概要を記したシーケンス図や、システムの構造を示したアーキテクチャ図などを描けることだった。
「Googleの『Workspace』やMicrosoftの『GitHub』といった他社サービスとの連携性がやや低いと感じました。また、他の競合サービスも幾つか検討しましたが、3つの要件を全て満たしているのはNotionだけだったので、特に迷うことなく導入が決まりました」(鎌苅氏)
約50人で試用を開始 Notionの何が便利なのか
Notionの採用が決まったのは2023年のことだ。まずはビジネスアナリシスセンターおよび協働している社外SESの約50人がNotionをパイロット導入した。その際はまず、販売代理店の担当者に、基本的な使い方のレクチャーを受けたという。
Notionは、プロジェクト管理機能や、メモや議事録、資料などを作成する機能、格納された情報をデータベースとして持ち、さまざまな形式で表示、加工ができる機能などを持つ、オールインワンのコラボレーションツールだ。Notionでは、「ページ」が情報を整理、保存、共有するための基本的な単位で、「ページの中にページを作成する」といった階層化によって整理できる。ページのリンクを共有することで、複数人での同時編集や閲覧が可能で、チームでの共同作業にも有効だ。
Notionはさまざまな用途で使えることが特徴だが、ビジネスアナリシスセンターおよび協働している社外SESはまず、プロジェクトの進捗(しんちょく)管理など、基本的な使い方を試すことからはじめたという。
「それまでのファイルサーバではフォルダ単位でドキュメントを管理していたので、ページ単位で管理するNotionに違和感を覚えた人がいたかも知れません。ただ、いち早くNotionに慣れたメンバーがテンプレートページを作り、そこにさまざまなドキュメントをアップし始めると、他の人にも利用が広がりました。あまり少人数でスタートすると普及の加速度がつきませんし、逆に大人数だと混乱が大きくなる危険性もあります。数十人規模で始めたのは適切な規模だったのかもしれません」(鎌苅氏)
ビジネスアナリシスセンターのメンバーには、ITリテラシーや情報感度の高い人が多い。そうした層がまず使い勝手を試し、Notionの使いやすさが口コミで広がり、周囲の部署にも利用が広がったという。特に積極的だったのは若い世代だ。ここ1〜2年の新卒入社者は学生時代にNotionを使っていたケースが多く、そうした従業員はNotionにすんなり適応できた。また、ビジネスアナリシスセンターでもNotionを普及させるため、便利なTipsや成功事例を共有したりユーザーからの質問に答えるワークショップを適宜開催したりしている。
それまでファイルサーバで共有していたドキュメントのうち主なものは、導入初期にNotionへ移行した。それ以外は、必要なタイミングで都度Notionに取り込んでいる。なお、「Microsoft Word」やPDF形式のドキュメントはNotionのページに埋め込むことが可能だ。「Microsoft PowerPoint」はインポーターが用意されていないので、いったんPDFに変換してから取り込む方法が推奨される。
AIで議事録作成の手間を低減 おすすめの使い方3選
Notion導入によって同社の情報共有は大幅に効率化された。社外との情報共有時に、フォルダごとにアクセス権を付与して都度メールで送付するのではなく、あらかじめNotionのページごとにアクセス権を設定し、メンバーをページに招待する方法に変わった。これによって、情報共有のプロセスが圧倒的に楽になったという。さまざまなドキュメントを一元管理できるようになったため、必要な情報を見つけ出す時間も短縮できた。
他にも、Notionによって幾つもの業務を省力化できた。大きく変わった仕事として議事録の作成と管理がある。あるチームでは、Notionを使って事前にアジェンダを作成し、会議中に各自がそのページに直接メモを書き込むフローにした。プロジェクトにひも付く資料なども全てドキュメントにしてNotionに集約し、必要な情報に即座にアクセスできるようになった。
文章の要約や校正などを支援するAIアシスタント『Notion AI』を使って議事録作成の工数を低減したことも特筆すべき事例だ。
「従来は議事録を自力で要約し、上司や同僚と内容のすり合わせをしてからファイルサーバにアップする手順でした。ところが今は、会議のメモをNotionに入力しボタンを押すだけで、『Notion AI』がその内容を要約してくれます。同じページに上司から直接確認や修正のコメントをもらうことで、フィードバックのために別のツールを使う必要もありません。情報共有のスピードが格段に上がりました。要約の精度も日を追うごとに上がっていると感じています」(鎌苅氏)
Notion AIを使う際には、AIが理解しやすい文章を書くことが大切だと鎌苅氏は話す。チームメンバーが議事録を読む場合は、背景情報などをある程度省いても話の文脈を理解できる。一方で、AIに対しては、できるだけ具体的な情報を与える必要がある。
「多少手間がかかることもありますが、そのメリットは大きいです。チームには、経験豊富なベテランだけでなく、新しく加わったメンバーもいるでしょう。明確で具体的な文章は、特に組織に参加したばかりのメンバーにも理解しやすく、スムーズなオンボーディングに役立ちます」(鎌苅氏)
鎌苅氏がNotionで重宝している機能は主に3つあると語る。1つ目は、Notion AI「Q&A」機能だ。これはNotionに蓄積された情報を基に、AIがユーザーの質問に回答する機能。ワークスペース全体の情報を参照するだけでなく、「@メンション」を利用して参照、検索するページやデータベースを指定できる。参照した情報源は提示されるので、ハルシネーション(AIが事実とは異なる情報をもっともらしく回答すること)の危険性も少ない。
2つ目は、ページ編集時に自動で Notion AIの編集や要約、翻訳などの機能を呼び出せる「AIプロパティ」だ。中でも鎌苅氏のお気に入りは要約機能で、「10回の会議内容をまとめて要約して、議論の変遷やメンバーの発言を可視化する」といった使い方をしているそうだ。
3つ目は、ガントチャートとWBS(Work Breakdown Structure)。各タスクの日付や依存関係をドラッグアンドドロップで修正できる点が、「『Microsoft Excel』より便利だ」という。
「Notionには他にもたくさんの活用法があります。現在、試しているのは『Notion AIを使った回答自動化』の作成です。各組織にはPDF化されている製品マニュアルがたくさんあり、それらをNotionに取り込んでデータベース化し、ユーザーの疑問にすぐ返答できる仕組みを考えています。AIが、既存のマニュアルの内容だけでなく人による回答も継続的に学習するという構想です。社内のヘルプデスク業務の中にはかなり効率化を期待できる業務も存在するのではと期待しています」(鎌苅氏)
Notionに情報を集約して、月2000時間を削減
大阪ガスでは現在、社外と共同で業務を行うメンバーを中心に約500人がNotionを利用している。上記で紹介した議事録やプロジェクト管理での情報の他、社内ルールやマニュアルといったあらゆるデータをNotionに集約し、社内ポータルとしてBACで利用中だ。1カ月あたりに作成、編集、閲覧されるページ数は約8万ページに及ぶ。
「1つのドキュメントを作成、編集して共有したり、必要な情報を探し当てたりするための時間は、平均して5分程度は短くなったと分析しています。また、8万ページのうち10人以上に共有されているのは約3割で、つまり約2万4000ページが『アクティブなページ』という計算です。5分×2万4000ページ=12万分=2000時間ですので、当社ではNotionの導入効果を『月2000時間の作業削減』と見ています」(鎌苅氏)
これは情報共有のみに焦点を当てた導入効果だ。それ以外にも、Notion AIなどによって多くの業務が省力化されている。
さらに、ナレッジをNotionにまとめる習慣が根付いたことで、企業文化そのものに良い影響が出るのではないかと、鎌苅氏は考えている。
「現代では多くの企業が、人手不足に頭を悩ませています。また、ベテランの経験や技術を次世代に引き継ぐことも大きな課題です。その点でNotionは、使いやすい仕組みやAIなどによってナレッジの蓄積、共有を進めるためにとても有効なツールだと感じます。そうして『ナレッジ共有文化』が根付けば、企業にとっては大きなメリットがあるのではないでしょうか」(鎌苅氏)
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