OneDriveやSharePointではだめなのか? 脱ファイルサーバ先を徹底比較
デジタル化の促進とデータ量の増大により、従来型のファイルサーバの限界に直面する企業が増えている。その解決策として注目されるのがオンラインストレージサービスだが、どれを選べばよいのか。最新動向をふまえた選定ポイントや運用のコツを解説する。
デジタル化の進展とデータ量の急増により、従来型ファイルサーバの限界に直面する企業が増えている。その解決策として注目されているのがオンラインストレージサービスである。代表的なサービスには、「Microsoft OneDrive」や「Google Drive」といったコミュニケーションプラットフォームに統合されたものから、「Box」や「Dropbox」など、コンテンツ管理を主軸に進化してきたものがある。企業の目的や運用状況に応じて、最適なサービスを選定する必要がある。
本記事では、脱ファイルサーバをしたい企業がおさえるべきオンラインストレージの最新動向やサービスの選定ポイント、運用の工夫について、JBCCのコラボレーションエバンジェリストである齋藤晃介氏に聞いた。
OneDriveやSharePointではだめなのか? オンラインストレージの利用実態
齋藤氏は、JBCCフィールドエンジニアやクラウドサービスの企画やプロモーション担当を経た後に2017年より働き方改革をテーマとしたコラボレーションエバンジェリストとして活動を開始。顧客に合った脱ファイルサーバ先を提案する「ファイルサーバーワークショップ」の講師を務めている。
企業内データの約8割は、文書やプレゼン資料や画像、動画といった非構造化データが占めていると言われている。これらのデータを効率的に管理、活用することは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上での重要な課題となっている。
こうした背景から、オンラインストレージサービスへの移行が加速している。この背景には、従来型のファイルサーバ運用における複数の課題がある。
例えば容量の問題が深刻だ。画像や動画など、扱うデータのサイズが年々大きくなっており、多くの企業でファイルサーバの容量が逼迫している。これはバックアップ処理にも時間がかかるようになり、最終的にはBCP対策も十分に取れなくなるという悪循環を引き起こす。
また、働き方改革やデバイスの多様化も、従来型ファイルサーバの課題をさらに深刻化させている。テレワークの普及により、社外からのアクセス需要が急増している他、スマートフォンをはじめとする多様なデバイスからのアクセス対応も求められている。
さらに深刻なのが、部門ごとのNAS(Network Attached Storage)乱立の問題だ。齋藤氏は、次のように警鐘を鳴らす。
「部門ごとに独自にNASを購入し、バックアップも取らずに重要なデータを保管しているケースを見たこともあります。これにより、データ漏えいや消失のリスクが生じています」
こうした課題を解決する手段がオンラインストレージサービスだ。ある程度の規模の企業では、社内ネットワークをスキャンして未管理のストレージを検知する仕組みを導入しているケースもあるが、そうした対策のない企業では、現場の判断で独自にストレージを導入してしまうケースが後を絶たない。データガバナンスの観点からも、全社的なストレージ戦略の見直しが求められている。
企業におけるオンラインストレージサービスの利用状況は、製品によって大きな開きがある。キーマンズネットの調査によると、企業での利用率はOneDriveが68.1%と最も高く、Box(27.1%)、Google Drive(24.8%)、Dropbox(4.3%)と続いた。この結果について、齋藤氏は次のように分析する。
「企業の情報基盤として『Microsoft 365』を使用している企業が多いため、その機能の一つとして『OneDrive』や『Microsoft SharePoint』(以下、SharePoint)を利用するケースが多いのだと思います。一方で、Boxは日本市場で着実にシェアを伸ばしています。日本企業の商習慣や製品のコンセプトが合致していることが背景にあるようです」
では、Microsoft 365を導入済みの企業が、なぜBoxやDropboxといった専用ツールを選択するのか。その理由の一つが、管理のしやすさにある。例えばMicrosoft 365のSharePointをファイルサーバとして使用する場合、ポータルサイトの中のファイル管理機能として実装されるため、運用が複雑になりがちだ。サイトごとにアクセス権があり、そのサイト内のデータにもアクセス権を設定する必要があるため、管理者の負担が大きい。
また、SharePointでは外部共有の設定がサービス全体で行われる仕組みとなっており、フォルダ単位での設定が難しい。BoxやDropboxでは、フォルダごとに外部共有の可否を制御できるため、セキュリティを確保しつつ柔軟な運用が可能だ。
業種による選択傾向も見られる。製造業では、CADデータなど大容量ファイルの取り扱いが必要なため、1ファイルあたりの上限が2TBと大きいDropboxを選択するケースがある。建築関連企業では、現場ごとの写真や図面データを業者間で共有する必要があり、従来はNASで管理していたようなケースでもDropboxへの移行が進んでいる。
一方、セキュリティ要件の厳しい業界では、アクセス制御の柔軟さとセキュリティ機能の充実を評価して、Boxを選択する企業が多い。Boxはセキュリティやアクセス制御が柔軟かつ強固で、この点が日本企業に評価されている。
主要サービスの特徴と選定のポイント
オンラインストレージサービスの選定において、機能面での比較は重要なポイントとなる。ここでは、特にBoxとDropboxに焦点を当てながら、主要サービスの特徴と選定時に押さえるべきポイントを解説する。
Boxの法人向けプラン概要(2025年1月現在)
プラン名 | 月額料金(1ユーザー)(年払い、税込) | ストレージ容量 |
---|---|---|
Business | 1881円 | 無制限 |
Business Plus | 3135円 | 無制限 |
Enterprise | 4620円 | 無制限 |
Enterprise Plus | 6600円 | 無制限 |
Dropboxの3人以上のユーザー向けプランの概要(2025年1月現在)
プラン名 | 1ユーザー・月あたり料金(年払い、税込) | ストレージ容量 |
---|---|---|
Business | 1650円 | チーム全体で9TB〜 |
Business Plus | 2640円 | チーム全体で15TB〜 |
Enterprise | 要問い合わせ | ビジネスに合わせてカスタマイズ |
両サービスの違いは多岐にわたるが、選定のポイントの例として以下が参考になる。
1ファイルあたりのアップロード容量上限
Boxは、「Business」で5GB、「Business Plus」で15GB、「Enterprise」で50GB、「Enterprise Plus」プランで150GBまでのファイルをアップロードできる。
Dropboxは、デスクトップアプリを使えば2TBまでのファイルをアップロード可能だ。
セキュリティ機能
両サービスともに高度なセキュリティ機能を備えているが、その実装方法に違いがある。具体的な違いとしては、以下が挙げられる。
- アクセス制御: Boxは詳細なアクセス権設定が可能で、フォルダやファイルレベルでの権限設定ができる。Dropboxも基本的な共有設定は可能だが、Boxほど細かな制御はできない。
- IPアドレス制限: BoxはIPアドレスによるアクセス制限が可能。Dropboxにはこの機能がないため、SSO経由でのアクセス制御が必要。
- ランサムウェア対策: DropboxはBusiness Plusプラン以上で標準機能として提供。Boxでは「Box Shield」というアドオンとして提供され、Enterpriseプラン以上で利用できる。
共有機能
Dropboxは、デスクトップのエクスプローラー上で右クリックしてファイル共有URLを発行できるなど、外部共有がより直感的に行える。一方、BoxやOneDrive、Google Driveは、外部共有時にはWebでの操作が必要となる。
認証機能
選定にあたっては、これらの機能の違いに加え、既存システムとの連携や、社内のIT環境との親和性も考慮する必要がある。特に認証システムとの連携は、多くの企業で重要な検討項目となっている。各サービスともSAML認証に対応しており、「Okta」や「Microsoft Entra ID」(旧称Active Directory)との連携が可能だが、具体的な設定方法や運用面での違いを事前に確認することが望ましい。
コストパフォーマンスで比較すると?
コスト面から見ると、「Google Workspace」やMicrosoft 365の一部として提供されるストレージサービスが安価な選択肢となる。特に、すでにこれらのサービスを導入している企業にとっては、追加投資を抑えられる利点がある。外部からのアクセスニーズが限定的な場合は、必ずしもBoxやDropboxのような専用サービスを全社導入する必要はない。
「全社でオンラインストレージを導入すると、人数が増えるほどコストが加算されます。実際の運用では、外部共有や社外アクセスが必要な部門だけに専用サービスを導入し、社内向けのメインストレージはIaaSを利用してファイルサーバとして運用するというハイブリッド構成も有効です」と齋藤氏は説明する。
BoxとDropboxのAI機能
生成AI機能については、両社共に機能強化を進めているものの、導入には慎重な検討が必要だ。
「Box AI」は、ドキュメントの要約や質問への回答が可能な「Box AI for Documents」「Box Notes」で生成AIを活用し、メール文や会議のアジェンダ、物語のアウトラインなどの文章を作成する「Box AI for Notes」、画像に関する質疑応答をAIが実行する「Box AI for Images」、複数のコンテンツをまとめてAIで検索・要約する「Box AI for Hubs」などを提供。ただしAI機能を利用するには「Enterprise Plusプラン」(月額6,600円)の契約が必要で、かつ全ユーザー導入が必須となるため、コストが問題となる。
一方、Dropbox AIは、業務効率化を支援するAI機能を提供する。具体的には、ファイルの要約、ToDoの作成、コンテンツの検索などをAIがサポートする。例えば、「Dropbox AI for Files」では、PDFやドキュメントの内容を要約したり、質問に対する回答をAIが生成したりすることで、情報収集の時間を短縮できる。また、会議の議事録からToDoを自動生成するなど、作業の効率化に貢献する。
Dropbox AIは、複数のSaaSと連携させ、社内で利用するSaaS内のコンテンツを横断検索するような機能を持っている。Box内のコンテンツを検索するBox AIとは対照的なアプローチだ。
ただ、Box、Dropboxともに「Microsoft 365 Copilot」のAIアシスタントと連携するロードマップを打ち出しており、主要AIベンダーとの連携は強化していく方針のよう。
なおDropboxでは、Box AIのように特定のプランに限定されず、より幅広いプランでAI機能を利用できる。ただし、利用する機能によっては追加費用が発生する可能性があり、詳細な料金体系は公式Webサイトで確認が必要だ。
齋藤氏は各サービスの生成AI機能について、「多くの企業では日常業務の大半がMicrosoft 365で実施されているため、メインのAIアシスタントとしてCopilotを活用し、それを補完する形で各サービスのAI機能は使うのが効果的ではないでしょうか」と語る。
移行を成功させるために
オンラインストレージサービスへの移行には、計画的なアプローチが欠かせない。データの総量そのものよりも、小さなファイルが大量に存在する場合、移行に想定以上の時間がかかることがある。この課題に対しては、段階的な移行アプローチを採用することが有効だ。
まず少数のユーザーでオンラインストレージの契約を開始し、既存のファイルサーバと並行して運用を始める。
データを段階的にコピーしながら業務を継続し、同期の差分が少なくなったタイミングで完全に切り替える。この方法によって、業務への影響を最小限に抑えつつ、確実かつ効率的な移行が可能となる。
移行時の重要なポイントは、アクセス権限の設定とルール作りだ。「Microsoft Entra ID」などの認証システムとの連携を活用しつつ、社内用と外部共有用のデータを明確に区分けし、共有時の承認フローなど、詳細な運用ルールを策定する必要がある。
特に従業員500人を超えるような大企業では、こうした移行作業をシステムインテグレーターに依頼することも有効だ。例えばJBCCでは、要件定義からフォルダ構成の設計、データ移行、運用ルールの策定まで、包括的な支援サービスを提供している。移行期間は企業の規模やデータ量によって異なるが、一般的に半年から1年程度を見込む必要がある。
インタビュイー紹介
齋藤晃介(さいとう こうすけ)氏 JBCC株式会社に2000年入社。フィールドエンジニアやクラウドサービスの企画やプロモーション担当を経た後に2017年より働き方改革をテーマとしたコラボレーションエバンジェリストとして活動を開始。「ITの魅力を誰にでもわかるように伝えたい!」をモットーに現在はセミナーの講師・ワークショップのファシリテーター・Youtubeへの出演など社内外で活躍中。
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