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“テレワーク禁止令”時代に音声コミュニケーションはどう変わったのか

数年前からオフィス回帰という言葉が流行し、恒常的なテレワーク体制からオフィス勤務の割合を増やすケースが増えている。オフィス回帰のトレンドが一層強まる中で、企業の音声コミュニケーションはどのように変化しているのか。その実態を探った。

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 キーマンズネット編集部は2025年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「生成AI/データ分析」「コミュニケーション/コラボレーション」「IT人材」「VMware移行問題」「PC事情(AI PC/Windows 11)」「レガシーモダナイズ」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2024年10月25日〜12月6日、有効回答数427件)。

 第4回のテーマは「音声コミュニケーション」だ。数年前からオフィス回帰という言葉が流行し、恒常的なテレワーク体制からオフィス勤務の割合を増やすケースが増えている。2024年1月には、米国のトランプ大統領が、連邦政府機関でのテレワークを原則的に禁止する大統領令に署名したことが話題になった。

 オフィス回帰のトレンドが一層強まる中で、企業の音声コミュニケーションはどのように変化しているのか。その実態を探った。

調査サマリー

  • 企業におけるオフィス回帰が進んでおり、「恒常的なテレワーク」は2023年の23.7%から15ポイント減少し、「恒常的にオフィスワーク」は9.2ポイント増えた
  • クラウドPBXを導入済、または検討中という回答が11.2%
  • クラウドPBXのシェアの1位はTeams Phone」。3位の「Zoom Phone」をおさえて、ある製品が2位に浮上

オフィス回帰で音声コミュニケーションはどう変わったのか?

 音声コミュニケーションの手段が変わろうとしている理由として、働き方の変化が考えられる。現状の就労形態について尋ねたところ、全体では「恒常的なテレワーク」が8.7%、「テレワークとオフィスワークのハイブリッド型へ移行」が35.6%、「恒常的なオフィスワーク」が33.7%、「テレワークだったが、現在はオフィス勤務」は13.8%だった。

 これを2023年の結果と比較すると、「恒常的なテレワーク」は23.7%から15ポイント減少し、「恒常的にオフィスワーク」は9.2ポイント増えた。この結果からも、企業におけるオフィス回帰が進んでいると分かる。

 従業員別に結果をみると、従業員数が多い企業ほどテレワークやハイブリッドワークの割合が高いことが分かった。大企業はさまざまな勤務形態を用意することで、多様で優秀な人材を採用、定着させる狙いがあると考えられる。

クラウドPBXの導入率は?

 テレワークの普及とともに、音声コミュニケーションは、従来の固定電話(ビジネスフォン)とオンプレミスPBXから成る電話システムからの脱却が叫ばれたが、オフィス回帰でこのトレンドが逆行するわけではない。企業によって働く場所の選択はさまざまで、その結果、どこにいても誰とでも意思疎通できる手段がより一層求められている。

 しかし、アンケート調査によれば音声コミュニケーション基盤のうち、最も多かったのが従来型のPBX(構内交換機)で、35.6%だった(図1)。クラウドPBXの割合は8.2%、IP-PBXは16.2%だった。従業員規模別では、501人〜1000人、1001〜5000人、5001人以上の企業で、クラウドPBXの割合が約11%だった。


図1 企業の音声コミュニケーションの手段(従業員別)

 なお、テレワーク実施率と音声コミュニケーションの状況を掛け合わせた結果においては、テレワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークを実施している企業において、クラウドPBXやIP-PBXの利用率が高かった(図2)。つまり、従業員数の多い企業ほど、ハイブリッドワークの割合が高く、クラウドPBXやIP-PBXの利用率が高いと分かる。


図2 企業の音声コミュニケーションの手段(勤務形態別)

 従来のレガシーPBXの刷新時には、コストや工事の手配、音声系ネットワークからデータ系ネットワークへの移行時の組織的な壁、コミュニケーション手段が変わることでのユーザーの負担などさまざまな壁がある。こうした壁を乗り越えるだけの人的リソースや予算があり、また多様な働き方を許容して人材の採用や定着を図りたい大企業を中心に音声コミュニケーションの刷新が進んでいるということが分かる。

 固定電話の台数を聞いたところ、従業員数が多いほど、1人1台以下で保有している現状が分かった。5001人以上の組織では5000台以上(1人1台に相当する)が19.3%だが、10台以上100台未満が6.8%、10台未満が5.7%であった。つまり5001人以上の組織のうち、約1割はほぼ固定電話を廃止しており、新しい音声コミュニケーション手段を取り入れている可能性がある。この傾向は1001〜5000人規模の組織では22.1%とさらに高い(図3)。


図3 固定電話の利用状況

中堅企業でもクラウドPBXの検討が進む

 関連して、クラウドPBXの導入予定を聞いたところ、時期にかかわらず11.2%の企業が導入を検討中を答え、導入済みの11.7%とほぼ同等の割合になった。従業員別では、大企業ほど導入済みが多いが、「導入検討中」の割合は1001〜5000人で15.6%、次いで101〜50人の企業で13.5%で、中堅企業の中でも検討は進んでいることが伺える(図4)。


図4 クラウドPBXの利用状況

 なお、導入済みと検討中の企業に、クラウドPBXに求める要件や機能について聞いたところ、「テレワーク対応にも対応できる柔軟性」「社外からの電話をPCやスマートフォンで発着信したい」「PCやスマートフォンで内線通話をしたい」「代表番号や部屋番号を使ってPCやスマートフォンでは着信したい」といった希望が上位に挙がった(図5)。


図5 クラウドPBXに求める要件

 オフィス以外での連絡手段としては、携帯電話やビデオ会議サービスなどを使うことも考えられるが、この方法では上記のような要望に全て応えることが難しく、オフィスで代表電話を受ける電話番が必要だったり、テレワーク中の従業員への取次ぎに時間がかかったりする場合もある。

クラウドPBX、製品別導入ランキング

 クラウドPBXを「導入済み」「導入予定」とした回答者に、利用しているまたは利用を予定している製品について、17製品の中から選択式で尋ねた。その結果をまとめたのが図6だ。


図6 利用中の音声コミュニケーション製品

 最も多かったのは「Teams Phone」(21.4%)、次に「Webex Calling」(12.2%)、「Zoom Phone」(10.2%)だった。

 Teams Phoneは組織の規模が大きいほど回答割合は高く、「5001人以上」(27.6%)、「1001〜5000人」(36.4%)だった。逆に「100人以下」(9.5%)、「101〜500人」(10.0%)と小規模な組織に弱い。

 Webex Callingは、「100人以下」の企業では0%、「101〜500人」では15.0%、「501〜1000人」で16.7%、「1001〜5000人」の企業では13.6%、「5001人以上」では17.2%と幅広い規模の組織に受け入れられている。なお、同製品は2023年調査時には7.4%と7位で、一気に2位に浮上した。

 Zoom Phoneは特に「101〜500人」で20.0%と最も高い割合を示すが、「100人以下」で4.8%、「501〜1000人」で0%、「1001〜5000人」の企業で13.6%、「5001人以上」で6.9%と、Teams PhoneやWebex Callingを追いかけるかたちだ。

 4位以下は「ひかりクラウドPBX」(10.2%)、「Arcstar Smart PBX」(9.2%)と続いた。

クラウドPBXの不満は?

 最後に導入済みのクラウドPBXについて、満足度を聞いた。図4で導入済みと回答した読者に満足度を聞いたところ、最も高い割合を示したのが「おおむね満足している」(68.0%)だったが、「やや不満」(12.0%)と「不満」(2.0%)という回答もあった。

 「満足」とした回答者にその理由を聞いたところ、固定電話やスマートフォンではできない音声コミュニケーションを評価する意見の他、音質や安定性について満足している声が寄せられた。

<満足した理由>

端末ごとに、電話番号のライセンスがかかるのが想定外であったが、リプレース+保守に比べて安くできた

安定している

<不満の理由>

運用コストが高くつく

慣れるまでは時間が必要

VPN接続時に音声が切れる

不安定

テスト利用時に比べて、やや音質が落ちた。最大音量にしてようやく会話が成立する。

 「不満」とした回答者にその理由を聞いたところ、音声コミュニケーション製品によっては機能が不足していたり、使い勝手が悪かったりすることが伺えたが、2023年の回答と比較して、音質や安定性に対する不満のコメントが圧倒的に減少したことが印象的だ。クラウドPBX製品は各社ともに音質や安定性の確保に力を入れており、製品によってそこまで差が出なくなっている現状がある。

 クラウドPBXに求める機能要件は組織の規模や業務形態によって異なる。最適な製品を選ぶには、音声コミュニケーション製品の仕様だけでなく、想定した利用方法における使い勝手について十分な検討や検証が必要になりそうだ。

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