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小柳建設がPCのキッティングやトラブル対応の作業をゼロに  「持たない、運用しない」選択の舞台裏

小柳建設は、PC管理にかかる工数を大幅に削減することに成功した。同社はなぜPCの維持管理を手放す決断ができたのか。

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 新潟県の建設会社である小柳建設は、積極的なデジタル化を推進し、業務効率化を図る企業だ。社長のリーダーシップのもと、勤怠・給与をはじめとする基幹システムのクラウド化やチャットツールの導入など、業務プロセスの改革を進める一方で、Microsoftとの協業によるMRデバイスを活用した建設現場のデジタル化にも取り組んできた。

 しかし、こうした取り組みの中で、PC管理業務に多くの時間を割かれていることが大きな課題となっていた。そこで同社は、社内PCをサブスクリプションで利用し、調達や運用を外部に委託。これにより、PC管理業務にかかる工数を大幅に削減することに成功したという。PCのサブスク化には、コストをはじめとする多くの検討事項があるが、小柳建設はなぜPCの維持管理を手放す決断ができたのか。

 統括経営管理部兼Innovation推進部 部長(CIO)を務める和田博司氏に、その理由と得られた効果について聞いた。

業務時間の8割を費やすPC管理業務を何とかしたい


小柳建設 和田博司氏

 小柳建設は1945年に設立された、新潟県三条市に本社を置く建設会社だ。強みの1つは浚渫(しゅんせつ。川や池などの水底をさらい土砂などを取り除くこと)関連の独自技術で、皇居のお堀の浚渫といった高難易度案件を数多く担当している。そしてもう1つの強みはMR(複合現実)技術を生かしたソリューションで、2017年には日本マイクロソフトとともに「Holostruction」をリリースした。これは、建造物の3次元モデルや建設関連の各種デジタルデータを、MRデバイスを使って現実の空間上に重ねて表示するもの。完成前の建設現場をリアルに可視化することで、建設業の安全性、生産性、透明性を高められるのがメリットだ。


Holostructionは建物を可視化することで、建設現場の課題をいち早く発見したり、離れた場所にいる工事関係者同士のイメージを共有化したりできるソリューションだ。

 同社は約10年前からデジタル化を本格的に推進してきた。その変革を主導したのが、2008年に金融業界から転身し、2014年に3代目社長に就任した小柳卓蔵代表取締役社長(CEO)だ。小柳氏は入社当初、建設業界の生産性の低さに強い課題意識を持ち、生産効率の向上を通じて従業員の働きやすさや待遇を改善し、企業の魅力を高めることを目指した。その方針のもと、次々と改革を実行したという。

 デジタル化推進の中心的な役割を担い、「Holostruction」プロジェクトにもPMOとして参画する和田博司氏は、当時の状況をこう振り返る。

 「私が中途で入社したのは2015年です。当時はデジタル専門の部署がなく、私は総務部に配属され、社内インフラ係のような位置付けで働き始めました。しかしその後、社長のリーダーシップによってデジタル化が急ピッチで進行しました。基幹となるシステムをフルクラウド化し、社内コミュニケーションはメールからビジネスチャットに切り替わり、名刺管理や請求書管理、契約フローなどもデジタル化しました。そうした中、社内DXの担い手であるInnovation推進部が新設され、私が責任者となったのです」(和田氏)

 同社のInnovation推進部は、一般的な情報システム部とはかなり様子が異なる。現在所属しているメンバーは和田氏も含めて5人だが、過去に情報システム部門を経験したことのある人は半分以下。イメージとしては、「経営企画部門+DX推進部門」のような位置付けだ。そのため、同部に求められているのは、社内の幅広い業務課題をデジタルで解決する方法を編み出すことだという。

 「2021年にそれまでデジタルのチカラを使って行ってきた働き方改善を具現化した新社屋『加茂オフィス』が完成するなど、ハード面についてはデジタル化が進んだと思います。一方、従業員のITリテラシーについてはまだまだ伸び代がありますし、各部門がデジタル化に投じている予算とパフォーマンスのバランスがとれているのか確認もしなければなりません。そうした『デジタル化の最適化』が、私たちにとって最優先の使命だと思っています。

 こうしたミッションを推進する中で、同社はかつて社内システムの維持や管理に多くの工数を割かれ、業務時間を圧迫されていた。特に負担が大きかったのがPC管理だ。PCの更新時には、機種選定、購入手続き、キッティング、配布、トラブル対応まで多くの手間が発生していた。

 「当時はPCの維持、管理に業務時間の8割を費やし、デジタル化の推進に充てられるリソースは2割程度しかありませんでした。この課題を解決するため、2016年に従業員用PCを購入からレンタルへと切り替えました」(和田氏)


加茂オフィスの階段は吹き抜けになっていて、映像を見ながらプレゼンや議論が可能。このように、新オフィスにはデジタルを活用した仕掛けが数多く施されている

雑務にかかる人件費とサブスク料金を比較し、導入を決定

 PCをレンタルに切り替えたことで、機種選定の検討や購入手続き、トラブル対応にかかる手間が大幅に削減され、Innovation推進部は本来の業務に集中しやすくなった。その結果、社内のデジタル化が加速した。

 また、以前は新入社員の入社時期にPCの導入コストが集中していたが、レンタルによりコストが平準化されたのも大きなメリットだった。ただし、PCに関わる作業の一部は依然として残っていた。

 「従業員が入社するたびに、キッティングしたPCを準備して手渡さなければなりませんでした。また、導入時にトラブルが発生し、Innovation推進部に問い合わせが来るケースもそれなりにあったのです。建設業界では多くの従業員が現場で働いています。時には遠隔地にいる従業員にPCを配布したり、電話でトラブル対応をしたりする機会が珍しくありません。そのためPCをレンタルに切り替えても、維持・管理の手間はある程度かかっていました」

 こうした業務をさらに減らし、コア業務に集中したい――。そう考えていた時、横河レンタ・リースから「Cotoka for PC」の提案があったと和田氏は振り返る。

 Cotoka for PCは、法人向けのPCサブスクリプションサービスだ。横河レンタ・リースが従業員と直接やり取りし、機種選定からキッティング、職場や個人宅へのPC配送、サポートまでを一括して代行する。このサービスを導入すれば、セキュリティリスクを抑えながら、情報システム部門の負担を大幅に軽減できる。

 「PCの維持・管理から完全に解放されると知り、私たちに最適なサービスだと感じました。一方で、通常のレンタルPCと比較すると、Cotoka for PCの月額利用料は高めでした。そこで、キッティングやPCの受け渡しにかかる人件費をコスト換算し、Cotoka for PCの導入による追加費用と比較したところ、両者のコストはほぼ同水準であることが判明しました。だったら、外注する方が絶対にいいと考えたわけです」(和田氏)

 Cotoka for PCの導入が始まったのは、2024年6月。そして、同年8月にはほぼ全てのPCがCotoka for PCに切り替わった。

 「まずはコストを試算し、経営層に提案して承認を得ました。その後、当社で採用しているMicrosoftのクラウドプラットフォーム『Microsoft Azure』上で、Cotoka for PC運用が問題なくできるか、高性能マシンが必要な設計業務にはどのような対応が適切かといった点を検証。そして、導入決定から約3カ月後、社内にある約250台のPCのうち、設計用マシンを除くほぼ全てを Cotoka for PC に切り替えました」

 なお、現時点では、設計業務に対応できる高性能PCはCotoka for PCのラインアップに含まれていない。今後、高性能マシンが追加され、コストパフォーマンスの面で導入が妥当と判断できれば、設計用マシンの切り替えも検討する考えだ。

横河レンタ・リースが「質問のフィルター役」になる点もメリットの一つ

 Cotoka for PCに切り替えたことで、キッティング作業は「Windows Autopilot」で自動化された。また、Cotoka for PCに含まれるアプリケーション配布管理ツール「Flex Work Place AppSelf」のおかげで、エンドユーザーが自ら新しいアプリケーションをインストールできるようになった。その結果、PC更新時にInnovation推進部が抱えていた工数は大幅に削減できたという。

 「それまで契約していたPCレンタルの期間とCotoka for PCの契約期間が重なる期間を最小限に抑えるため、切り替え作業は短期間で進めました。横河レンタ・リースにはタイトなスケジュールでの対応を依頼しましたが、柔軟に応じていただきました。また、Windows Autopilot の導入に際しては不安もありましたが、こちらの質問に対して迅速かつ的確に対応していただき、大変助かりました」

 今回の切り替えに際し、従業員向けの勉強会は特に実施していない。エンドユーザーが必要な操作は簡単で、事前に用意されたマニュアルの存在を伝えるだけで、問題なく利用できているという。

 Cotoka for PCによって得られた最大のメリットは、キッティング作業からの解放だ。小柳建設では今春、新卒社員だけで10人程度を迎える。中途入社者や異動者がいる中で、従来はキッティング作業に年間数十時間を要していたが、現在はその負担がゼロになった。

 また、従業員のPCが故障した際、以前は本社に持ち込み、Innovation推進部 がキッティングを施した上で交換品を手渡す必要があった。しかし現在は、従業員がCotoka for PCの画面で申し込むだけで、交換品が自宅や現場に直接配送されるようになった。

 従業員からの問い合わせが減ったことも、Cotoka for PCのメリットだった。

 「以前はInnovation推進部に、『PCの電源が入らない』といった初歩的な質問が寄せられ、対応に時間を費やしていました。でも今は、Cotoka for PCのサポートがこうした質問をいったん受け付け、解決してくれるのです。一方、従業員からの質問の中にはInnovation推進部にとって重要な気付きとなるものもあり、それらについてはサポートから情報を共有してもらいます。横河レンタ・リースさんが『質問のフィルター役』を果たしてくれるのは、利用者側にとってうれしい点ですね」(和田氏)

 Innovation推進部では今後も雑務を外注化し、社内のデジタル化に打ち込む方針だ。現在注力しているのは、データ活用とAIへの取り組み。また、従業員のITリテラシーアップにも引き続き取り組むという。

 「横河レンタ・リースさんでは、PCやアプリケーションの有効活用術などを教える『Cotoka Channel』を提供していらっしゃいます。こうしたサービスを使いながら、全社のデジタル力を底上げできるよう頑張りたいと思っています」(和田氏)

(取材協力:横河レンタ・リース)

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