75%の企業は失敗する? 情シスがAIエージェント導入に向けて考えるべき「2つのこと」:CIO Dive
ある調査によると、企業の3分の2がAIエージェントの活用を模索しており、AIエージェントを利用するためのシステム構築に75%の企業は失敗するという。AIエージェントの導入に備えて情報システム部門はどのような備えをすべきなのか。
2025年、企業のテックリーダーはAIエージェントを優先課題として掲げている。この技術には大きな期待が寄せられており、AIエージェント導入に向けて事業を整え始めている企業もある。
75%の企業は失敗する? AIエージェントへの期待と懸念
コンサルティング大手のAccentureでAI領域の責任者を務めるアルナブ・チャクラボルティ氏は、「CIO Dive」の取材に対して「今日の世界において、AIエージェントなしに、AIに関する議論は完結しない」と語った。AIエージェントを重視する動きは学術界やベンダー、ユーザー企業に顕著に広がっている。
企業はAIエージェントが備える自律型の機能に大きな期待を寄せているが、実際の導入に先駆けて情報システム部門はどのような環境を整備すべきか。本当に懸念すべきことは何か。
Accentureの分析によると、2022〜2024年にAIエージェントに関する研究論文が爆発的に増加した。調査会社のForresterによる市場分析では、新たなエージェント型プラットフォームを提供するベンダーが約400社存在することが判明している。
一部のアナリストは、「生成AIに関連するガバナンスの強化やプロセスのモダナイズに多くのリソースが投じられていることから、AIエージェントの導入によって企業は価値を早期に得られる」と予測している。
一方、他の専門家はセキュリティ面における懸念を指摘し、「導入に向けた準備不足や基盤の未成熟さは大きな障壁になる」と警鐘を鳴らしている。共通認識として言えるのは、成功が保証されているわけではないということだ。
コンサルティング企業であるBoston Consulting Group(BCG)のテクノロジーおよびデジタルアドバンテージ部門に所属するウラジミール・ルキッチ氏(グローバルリーダー)は、次のように語った。
「初年度は過剰に期待されるかもしれないが、2025年中に興味深い成果が幾つか出るだろう。同時に、大きな失敗が起こる恐れもある」
企業は、生成AIが約束する価値の実現に苦労している(注1)。BCGのデータによると、AI導入の取り組みに対して大きな価値を感じている経営者はわずか4分の1にすぎない(注2)。アナリストは、このような「過剰な興奮」からの目覚めが、AIエージェントの導入を進める上で障害になると予測している(注3)。
準備が遅れており、これまでの生成AIが生み出した成果にバラつきがあるにもかかわらず、企業のAIエージェントに対する関心は依然として高い。BCGの調査では、既に3分の2の企業がAIエージェントの活用を模索していることが明らかになった。
家庭用電化製品のメーカーであるSharkNinjaも、AIエージェントの流れに乗る企業の一つだ。同社は、より広範なリプラットフォームプロジェクトの一環として、SalesforceのAIエージェント「Agentforce」の試験的な運用を進めている。
SharkNinjaのヴェリア・カルボーニ氏(最高情報責任者)は、次のように述べた。
「この大規模なプログラムに備えるために、私たちは2024年から大規模な準備を進めてきた。実際のところ、AIエージェントの導入は、私たちが進めているさまざまな取り組みとの親和性が非常に高い。なぜなら、全てのプロジェクトにおいて、製品や消費者の基盤となる知識やデータが必要であるためだ」
SharkNinjaは2025年の後半にAIエージェントの活用を拡大する予定だ。導入の重点は、顧客の問題や製品に関する問い合わせへの対応、返品管理、購入プロセスの案内といった主要なユースケースに置かれている。
現時点では、SharkNinjaはビジネス全体の成功に向けた基盤作りに引き続き注力している。
「これは私たちにとって大規模な改革であり、決して単なる技術プロジェクトではない」(カルボーニ氏)
AIエージェント導入を推進する要因
初期の生成AI製品は多くのユーザーを引き付けた(注4)。話題を盛り上げ、導入における障害を軽減し、アクセスを拡大し、技術に慣れさせるという戦略が功を奏した。ベンダーは同様の方法でAIエージェントの導入も広がることを期待している。
Microsoftは2024年、セキュリティ制御の強化やAIエージェントの開発の簡素化などの多くの機能を追加し(注5)、導入を促進した。AWSやGoogle(注6)(注7)、SAP(注8)、Slack(注9)、Salesforceなどもそれぞれ独自のAIエージェントを展開している(注10)。
マーケティング部門や営業部門は、顧客に対してAIエージェントの導入を強く推進している。Salesforceのマーク・ベニオフ氏(CEO)は、同社のAIエージェントである「Agentforce」専任の営業担当者を最大で2000人追加する計画を2024年12月に発表した。同氏によると、Salesforceはわずか1週間でAgentforceに関連する200件の契約を成立させたという。さらに数千件の案件が進行中であることから、AIエージェントに対する関心が高まっていると考えている。
IT分野を専門とする調査会社HFS Researchのダナ・ターナー氏(プラクティスリーダー)は、「CIO Dive」に次のように語った。
「ベンダーは仕事の一環として、AIエージェントに関する盛り上がりを煽っている。多くの人が『生成AIがあらゆるものに組み込まれる』という話に飽き、次の新しい話題に飛び付く」
プロフェッショナルサービス企業やコンサルティング企業も、AIエージェントの分野に参入し始めている。Accentureは2025年1月の初めに、12種類の業界別のエージェントソリューションを発表し(注11)、同年の年末までに100以上のエージェントソリューションを展開する計画を立てている。
Accentureは2025年1月に発表した「annual tech trends report」(年次テクノロジートレンドレポート)の中で(注12)、次のように述べた。
「私たちは、顧客が自律型のAIエージェントと自由に対話し、オンデマンドで購入したり、AIエージェントだけが提供できるカスタマイズや関連性の高い体験を享受できたりするようになってほしいと考えている。その自律性は信頼によって促進される必要がある」
Accentureは報告書の中で「まず社内でAIエージェントを試験的に運用することが、企業にとっての最適な導入方法になるだろう」と述べた。各業務に特化したAIエージェントを活用することに企業が慣れれば、ユースケースはさらに拡大する。同社は、「2030年までに企業におけるITシステムのメインユーザーはAIエージェントになる」と予測している。
Accentureでは、約600人のマーケティング担当者が自律型エージェントを活用し、キャンペーンの企画やその他の日常業務に役立てている。現在同社は、コンテンツ制作用のエージェントの試験的な運用も進めており、2025年2月にはより広範囲に展開する予定だ。
他社と同様に、コンサルティング会社のKPMGもAIエージェントへの移行を開始している(注13)。
KPMGの米国アドバイザリー部門でエコシステムの責任者を務めるトッド・ロール氏は、次のように語った。
「AIエージェントから提供されたインサイトに基づいて、手を動かさなければならないというわけではない。AIエージェントは、インサイトや知識に基づいて実際に行動を開始してくれる存在だ」
ロール氏によると、AIの進化によって実用的なAIエージェントがようやく実現しつつあり、これが関心を集める要因の一つになっている。企業がワークフローにAIエージェントを組み込むことで、複数のアプリケーションを使用する際に生じる導入課題を軽減できる。
「AIエージェントの役割は、より洗練された形でAIを活用するところにある。これにより、ROI(投資利益率)の観点から利用状況や生産性を実際に向上させ、それらに対する可視性を高めるのだ」(ロール氏)
基盤を整備せずにAIエージェントを導入すると何が起きる?
CIOは慎重に行動し、透明性を確保する必要がある。
特に、ベンダーとの取引において、ユーザー企業は新しいツールや機能が何をするかを明確化しろとベンダーに要求すべきだ。ベンダーのマーケティングは常に正確であるわけではない。
「生産中のAIエージェントの目標や運用メカニズム、自律的行動の範囲を分析する徹底的なレビューを実施した」とForresterのVPであり、プリンシパルアナリストであるクレイグ・ル・クレア氏は「CIO Dive」への電子メールで述べた。「基本的に、ほとんどのエージェントはエージェンティックではない。これは未来のものであり、まだ存在しない。」
ForresterはAIエージェントを「自律的な能力を持つもの」、エージェンティックシステムを「少なくとも2つのLLMエージェントを統合する高度なフレームワーク」と定義している。ル・クレア氏は、ベンダー間の技術スタックの違いやガバナンスの問題、動機の違いなど、標準化の欠如が(同じ名称で呼ばれる技術の定義が)一致しない原因だと述べる。
「クライアントデータやアプリケーション固有のワークフロー、および独自のデータスタックを活用する事前パッケージ化されたエージェントワークフローを提供することで、これらのベンダーはエコシステム内でより強固なロックインを作り出すことができる」とル・クレア氏は指摘する。
幸いにも、CIOやテクノロジーバイヤーは生成AIがガートナーのハイプサイクルにおける「過度な期待」のピーク期だった2024年に購入スキルを磨いた。一部のリーダーは、AI技術とそのリスクに対する持続的な注目が、次の段階に進む企業にとって有益だと予測する。
「ガバナンスポリシーを設定することにさえ苦労した人々もいた」とSkillsoftのCIOであるオルラ・デイリー氏は述べている。「繰り返し強化する必要があるが、今は少なくともガバナンスポリシーを設定できるレベルの認識がある。現在は適応可能なポリシーとガードレールが存在している」
適切な基盤を持たずに迅速に採用すると、連鎖的な影響を引き起こす可能性がある。Tray.aiの調査によると、ITプロフェッショナルの約9割は、AIエージェントを展開する前に組織の技術スタックで何らかのアップグレードが必要になると考えている。
エージェンティックアーキテクチャを開発しようとする企業にとって、その取り組みは予想以上に難しい可能性がある。Forresterは、エージェントを構築しようとする企業の75%が2025年中に失敗し、コンサルティング会社に助けを求めることになると予測している。
「この分野は非常に速く進化している」とForresterのシニアアナリストであるローワン・カラン氏は述べる。「顧客の期待を超えて再び前のめりになるだろう」
セキュリティへの大きな懸念
多くのCIOが最も懸念するのはセキュリティだ。エージェントとエージェンティックアーキテクチャの導入により、攻撃者の脅威面が拡大する。Gartnerは、2028年までにエージェントAIの悪用が企業が受ける攻撃の原因の4分の1を占めるようになると予測する。
「独立して意思決定するAIエージェントが存在する場合、そのリスクは非常に高くなる」とCollibraのCEOであるフェリックス・ヴァン・デ・マエレ氏は述べる。「AIエージェントによる意思決定のために必要なコントロールや信頼度は非常に高くなるが、今日の組織はまだそこに達していない」
CIOは、採用が進むにつれて労働力や顧客に対する潜在的な悪影響を避けることも考慮する必要がある。完全に自律的なAIシステムの構築は未だに進行中であり、人間が依然として主導権を握っている。
「人々はAIエージェントの能力や可能になることに興奮しすぎて、人間という“要素”を忘れがちだ」とダハー氏は述べている。「これらのシステムを導き、活用するのは誰なのかを覚えておく必要がある。そのためには全体的な教育の強化が必要だ」
出典:AI agents spark interest, concern for businesses in 2025(CIO Dive)
注1:2 years after ChatGPT’s release, CIOs are more skeptical of generative AI(CIO Dive)
注2:From Potential to Profit: Closing the AI Impact Gap(BCG)
注3:2 years after ChatGPT’s release, CIOs are more skeptical of generative AI(CIO Dive)
注4:The rise of generative AI: A timeline of triumphs, hiccups and hype(CIO Dive)
注5:Microsoft readies Copilot Studio for agentic AI(CIO Dive)
注6:AWS takes a swing at Microsoft, aims Q at Windows workloads(CIO Dive)
注7:Google dips into enterprise-ready agentic AI with Agentspace(CIO Dive)
注8:SAP expands Joule copilot capabilities, adds collaborative AI agents(CIO Dive)
注9:Slack adds agents, workflow builder as AI capabilities expand(CIO Dive)
注10:Salesforce introduces Agentforce 2.0, unveils pre-built use cases(CIO Dive)
注11:Nvidia enters the agentic AI fray with Llama Nemotron LLMs(CIO Dive)
注12:AI: A Declaration of Autonomy(Accenture)
注13:KPMG pilots AI agents(CIO Dive)
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