AIエージェントはまだまだ課題だらけ? Dataiku、AIプラットフォームに周辺機能を一気に実装
AIのビジネスへの活用が期待される中で、Dataikuではより日常的に業務でAIを利用する「Everyday AI」の実現に取り組んでいる。新たにAIエージェントのサポートを開始した同社の戦略を、日本法人取締役社長の佐藤 豊氏が説明した。
Dataiku Japanは2025年5月14日、データ分析や生成AIの活用をサポートする「ユニバーサルAIプラットフォーム」にAIエージェントの構築と制御機能を導入したと発表した。
企業のAI導入を妨げる5つの壁
Dataikuは2018年から「Everyday AI」というビジョンを掲げ、AIが日常業務の中に深く浸透する世界を目指してきた。現在はこのビジョンの実現に向けた次のステップとして「AIエージェントの日常化」に挑戦している。
Dataiku Japanの取締役社長でカントリーマネージャーを務める佐藤 豊氏は、企業におけるAIの導入には「技術」「ツール」「組織」「人材」「ガバナンス」の5つの壁があると指摘する。
技術の壁は、急速に進化するAI技術への追従が困難であり、既存システムとの統合も複雑になっているという課題のことだ。ツールの壁は、データ分析や機械学習、生成AIなど、異なるツールが乱立して連携が難しく、現場がカオス状態になりやすい問題のこと。組織の壁は、部門間の連携不足、特にIT部門とビジネス部門の断絶などだ。
人材の壁は、AIやデータに関する専門人材が不足しており、AIリテラシーの格差も大きいという問題を指す。数人の専門家に依存する体制では、AI活用は持続不可能だ。最後に、データプロダクトの本番運用が増える中で、AIプロジェクトの統制やコンプライアンスがより重要かつ複雑になっており、これがガバナンスの壁となって現れる。
さらに佐藤氏は、企業全体でAI活用するためには組織構造も重要であり、特に「ハブ&スポークモデル」が有効だと提唱する。このモデルでは、中央(ハブ)がAI戦略や共通基盤、ガバナンスを担い、現場(スポーク)がビジネス課題に即したAI活用を担うことで、創造性を生かしつつ「責任あるAI」の展開を可能とする。
ハブ&スポークモデルの実現にはデータとAIの強固な基盤が不可欠となる。そのニーズに応えるとしているのがDataikuの「ユニバーサルAIプラットフォーム」だ。ビジネスユーザー自身が技術を意識することなく日常的にAIツールを作成・管理して、業務に活用できる環境を提供するという。
「AI Agent with Dataiku」がAIエージェントの導入を加速させる
企業のAI導入を推進する中で、Dataikuが現在特に注目しているのがAIエージェントへの対応強化だ。佐藤氏は「AIエージェントはビジネスを根本的に変革する可能性を秘めている」と語る。
しかし、実際にAIエージェントを活用するためには多くの課題がある。多くのAIエージェントは機能が限定的でビジネス部門の多様なニーズに対応しきれていない。データの正確性が欠けていて実用に耐えないケースもある。複数のエージェントが混在する大規模なシステムでは、これらのさまざまな問題が複雑に積み重なって、連鎖的な障害を引き起こす恐れがある。
こうした課題に対応するためにDataikuが提供するのが、ユニバーサルAIプラットフォーム上でAIエージェントの大規模な構築と運用を実現する「AI Agent with Dataiku」だ。
具体的には、ノーコードとフルコードの開発環境を統合する「Visual & Code Agents」、プロバイダーやユースケースを横断して一元的にLLMにアクセスできるようにする「LLM Mesh」、LLMの接続や連鎖プロンプトに柔軟にガードレールを設置できる「Safe Guard」、単一のエントリーポイントから複数のエージェントとの対話を可能にする「Agent Connect」といったコンポーネントによって、AIエージェントの開発やオーケストレーションを支援する。
エージェントの監視や評価、予算管理を自動的に実行する「Quality & Cost Guard」や、入力から出力までのエージェント内部の挙動を可視化して監査やデバッグを可能にする「Trace Explorer」といったコンポーネントもあり、開発者はAIエージェントを継続的に改善し、最適化を図れる。ガバナンス管理には、エージェントが使用するツールの品質と検証を確保できる「Managed Agent Tools」や、エージェントとLLMを詳細にレビューして適合性を評価できる「GenAI Registry」などが役立つ。
段階的なアプローチで確実にAI活用の成熟度を高める
佐藤氏は、AI Agent with Dataikuの差別化要因として、中立性を保ちながら企業全体を統合管理できる点、業務に応じた徹底的な最適化が可能である点、そして中央でのガバナンスを強化できる点を挙げている。その強みを生かしながら、「最終的には企業のデータをしっかりとしたAIエージェントとして業務プロセスに実装することを目指している」と語る。
ただし「日本市場においてこの目標を達成するためには、企業のAI活用の成熟度を高めていかなければならない」とも指摘する。それには、企業文化と現在の成熟度に合わせた段階的なアプローチが必要となる。最初のステップとして利用可能なデータを把握して統合、可視化し、次に機械学習の導入によって根拠ある推論を可能にする。続いて、生成AIの特性や出力を理解し、統合的に活用する段階へと進む。この3つのステップを踏むことで、最終的にAIエージェントを業務に実装し、確かな価値を創出できる。
「人がやる作業を単にエージェントに置き換えるだけであれば、このようなステップは必要ないかもしれません。しかし、データから確実な価値を得てビジネスに生かしていくためには、この3つのステップを理解し、AIエージェントをブラックボックス化させないということが重要です」(佐藤氏)
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