GPT-4oやMetaのAIよりも無名のAI言語モデルに業界が注目するワケ:832ndLap
大手企業が覇権を争うLLM市場に、2025年初夏、新たな“伏兵”がひっそりと登場し、AI業界の注目を集めているという。
「ChatGPT」や「Claude」「Gemini」といった大手企業のLLMが覇権を争う中、中国発の「DeepSeek」の登場は業界に大きな衝撃を与えた。低コストかつ高性能という特性から“伏兵”とも呼ばれ、AI業界に一石を投じる存在となった。
そして2025年初夏、再び伏兵と呼ばれる新たなLLMが登場し、話題となっている。大々的なプロモーションも、大手テック企業の支援もなく登場したこのモデルは、AI業界関係者の注目を集めている。その理由とは。
DeepSeekに続いて注目を集めている大規模言語モデル(LLM)とは、「Mistral Medium 3」だ。これはフランスのAI企業Mistral AIが2025年5月7日に発表したモデルで、企業向けの利用を見据えたコストパフォーマンスに優れた設計が特徴だ。
注目すべきは、「Mistral Medium 3」がOpenAIの「GPT-4o」やMetaの「LLaMA 4 Maverick」といった、他の最先端LLMを上回る性能を持つとされている点だ。この件については、Mistral AIが自社サイトニュースとして詳しくレポートしている。
公開されたベンチマークによると、「Mistral Medium 3」はAnthropicの「Claude Sonnet 3.7」とほぼ同等(90%以上)の性能を発揮し、GPT-4oやLLaMA 4 Maverickよりも高い評価を獲得している。一方で、100万トークン当たりの利用コストは入力0.4ドル、出力2ドルと非常に低く、コスト効率の面でも優れている。
さらに、「Mistral Medium 3」は最大12万8000トークンという長大なコンテキスト長を持ち、長文のドキュメントや複雑なデータセットの処理に適している。マルチモーダルに対応することから、テキストだけでなく画像入力も可能で、画像キャプションの生成やテキスト抽出、視覚的な質問応答といった機能も実現している。
また、企業向けに設計されているため、クラウドやオンプレミス、仮想プライベートクラウドなど、さまざまな環境での導入が可能だ。既存の企業システムとの統合もサポートされており、ソフトウェア開発や科学技術、カスタマーサポート、ドキュメント分析など多岐にわたる用途が見込まれている。
Mistral AIはこのモデルをエンジンに採用したAIアシスタント「Le Chat Enterprise」も同時に発表した。こちらは企業のセキュリティポリシーに応じたカスタムAIエージェントの構築が可能だ。「Microsoft SharePoint」や「Google Drive」などのドキュメント管理システムと連携した運用も視野に入れている。
Mistral AIのレポートでは、Mistral Medium 3のユーザー評価も紹介されている。コーディング用途においては、Claude Sonnet 3.7や「DeepSeek 3.1」にはやや劣るものの、GPT-4oとは互角、「Command-A」やLLaMA 4 Maverickには優位との評価を受けている。
さらに、Mistral Medium 3とLLaMA 4 Maverickを比較し、人間による実使用でコーディングとマルチモーダル、そして英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、アラビア語の使い勝手を検証したところ、全てのカテゴリーでMistral Medium 3が優れているという結果が示された。
このモデルは、Mistral AIの公式プラットフォーム「Mistral La Plateforme」をはじめ、AWSの「Amazon SageMaker」、IBMの「Watsonx」、Microsoftの「Azure AI Foundry」、Google Cloudの「Vertex AI」など、各種クラウドサービスでの採用が進んでおり、今後さらなる普及が期待される。
ある意味で伏兵的存在のMistral Medium 3だが、単なる高性能・低価格のLLMにとどまらず、企業にとって十分に選択肢となり得る価値あるモデルとして、今後さらに注目を集める可能性が高い。コストパフォーマンスに優れ、実務でも有用なLLMの登場は、多くの企業にとって歓迎すべきニュースだ。今後の動向に注視したい。
上司X: フランスのスタートアップ企業が開発したLLM「Mistral Medium 3」がスゴいかもしれない、という話だよ。
ブラックピット: コストが安くて高性能。いいじゃないですか。
上司X: まあ、そうだな。
ブラックピット: 生成AIというと、米国の大手IT企業の独壇場という印象がありましたが。
上司X: 中国発のDeepSeekが登場して、ちょっと潮目が変わった感じだな。
ブラックピット: Mistral Medium 3はフランス発のLLMですもんね。
上司X: ああ。Mistral AIは正直そこまで注目されている企業ではなかった。ただ今回のMistral Medium 3で、だいぶ注目されるだろうな。
ブラックピット: 日本でも世界にとどろく生成AI、LLMを開発する企業がバーンっと登場してほしいものですね。
上司X: 日本の大手IT企業もただ手をこまねいているわけではない、と思いたいな。海外のLLMを自社サービスに取り込むだけでなく、独自のLLMを開発してほしいと思うのは決して俺やキミだけではないはずだぜ。Mistral Medium 3に続くようなLLMが日本からも「伏兵」として登場することに期待したいものだよ。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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