企業のデータ活用、7割は順調も16%は停滞 成否を分ける要因とは?【2025年調査】:データ活用とBIツールの利用状況(2025年)前編
データを有効活用できるか否かが経営を左右する大きなファクターになる一方で、日本のデータ活用状況は諸外国と比べてまだまだ低い。キーマンズネットの調査「データ活用の現状とBIツールの利用状況に関するアンケート」から、企業におけるデータ活用の実態と課題を紹介する。
通信インフラの高度化やデジタルサービスの普及もあり、世界的にデータ流通量が飛躍的に増大している。データを有効活用できるか否かが経営を左右する大きなファクターになる。一方で「情報通信白書 令和5年版(総務省)」によると、日本企業で顧客情報などのパーソナルデータを「活用できている」とする割合は51.8%で、中国や米国、ドイツなどの諸外国との比較ではまだまだ低い。
キーマンズネットでも定点観測を続けている「データ活用の現状とBIツールの利用状況に関するアンケート(実施期間:2025年7月31日〜8月18日、回答件数:178件)」より、前編では企業におけるデータ活用の実態と課題を紹介しよう。
7割は順調でも16%は停滞 成否を分ける要因とは?
自社におけるデータ活用の取り組み状況について、「データを活用している」とする回答が47.8%と約半数となった。「データ活用の取り組みを検討中」(18.5%)や「データ活用に取り組む予定」(11.8%)も合わせると30.3%になり、全体的にデータ活用に積極的な企業が増加傾向にある(図1-1)。この結果を従業員規模別でみると、1001人を超える大企業帯で6割以上が「データを活用している」反面、101〜1000人の中堅企業帯では4割、101人以下の中小企業帯では2割と従業員規模が小さいほど取り組みが遅れている傾向がある。
全体の3割であったデータ活用を検討、予定しているとした人に、現状の進捗(しんちょく)を聞いたところ「検討を済ませ、テスト運用中」(28.1%)や「テスト運用が完了し、実運用に向けて準備している」(10.1%)、「検討を済ませ、テスト運用に向けて準備している」(9.6%)など、半数は着々と準備を進めている。ただ「実運用の準備でつまづいている」(16.3%)との回答もあり、実際に組織にデータ活用を根付かせる上で課題に直面する企業も少なくないのが現実のようだ。
成功と失敗を分ける要素 明確な差は「風土」
データ活用に取り組む際、何が障壁となっているのだろうkか。取り組み状況別にシステム面と人材面で生じがちな課題を聞いたところ、前者では「データを活用している」「データ活用に取り組む予定」「データ活用の取り組みを検討中」のそれぞれで、上位に「データ分析ロジックの構築」や「データの保存、保管」、「データの加工」や「データの取得」が挙がった。データの収集と蓄積、加工、分析を一貫して実行するための基盤構築に、どの企業も苦労することが多い様子だ(図1-2)。
一方、人材面では「データを活用している」と「データ活用に取り組む予定」「データ活用の取り組みを検討中」で明確に差が見られたのが、「社内のデータ活用ツールを扱える人材がいない」や「データよりも勘や経験を重視する風土が高い」ことであった。これらは特に「実運用の準備でつまづいている」ケースにおいて高い傾向にあり、データ分析基盤を構築できたとしても現場でツールを扱えない、もしくは扱う文化が浸透していないといった理由で活用が進まないケースが少なくないようだ。加えて「分析ツールを利用するためのスキルが不足している」は、どの企業においても課題のトップに挙げられており、引き続きデータ活用推進のための人材確保や従業員のスキルアップが急がれる。
業務データを生成AI開発、運用に活用するケースが急増
企業における生産性向上に寄与する取り組みとして生成AIが注目されて久しいが、業務データを自社用の生成AIの開発や運用に活用するケースも増えている。2024年8月に実施した同調査との比較では「活用していない」(32.9%)が前年44.3%から11.4ポイント減少し、一方で「検索データベースとして活用している」(24.7%)が7.9ポイント、「学習データとして活用している」(18.5%)が9.3ポイントとそれぞれ増加(図2-1)。全体では43.2%と半数近くが業務データを自社用の生成AI開発に活用している。
生成AIの活用を見据えたデータ基盤も「すでにある」(27.5%)が約3割で、「準備中」(29.2%)と合わせると全体の過半数を占めることからも、今後自社の業務データを生成AIと絡め活用していく動きが主流となっていくと予測できる。
意外と知らない? 成功事例から読み解くデータ活用術
全体の約半数でデータ活用に取り組んでいる状況だが、そもそも企業がデータ活用に取り組む目的や求める成果はどのようなものだろうか。調査の結果、最も票を集めたのは「商品やサービス品質の向上」(44.4%)で、「事業戦略の策定」(37.1%)や「顧客および市場調査、分析」(30.9%)、「経営の意思決定」(30.3%)や「売上分析」(27.0%)が後に続いた。
前調査比では上位項目に違いは見られなかったが「顧客および市場調査、分析」と「経営の意思決定」が順位を上げニーズが高まっている。顧客ニーズを常に捉えサービス品質を向上させることはもちろん、ニーズの変化に合わせた戦略・戦術の修正といった迅速な意思決定を目的を掲げる企業も多い。
それでは実際どのような成果が生まれているのか。最後に、フリーコメントでデータ活用企業に成果事例を聞いたので幾つか紹介したい。
まず"商品やサービス品質の向上"に関連しては、「音声データや動画データ、ログデータを集約し活用することでサービスの品質向上に寄与した」や「データ解析により配送関連の業務フローの改善につながった」「製造設備からのデータを取得分析して品質向上を図った」などが寄せられた。また「顧客からの受注額推移の可視化により、需要予測がある程度できるようになった」や「生産実績から正確なリードタイムを算出」「販売データを基にした顧客資産の把握と入替提案」「顧客データを社内横断的に分析することで、新たな商談につながった」のように受発注や販売データを分析することで、業務効率化や売上アップに生かすことができたとの声があった。
次に多かったのは事業戦略の策定や経営の意思決定に生かしたケースで「数字が見える化できて的確な判断ができるようになった」や「経営戦略が明確化できる」が挙がった。特に「予算実績の早期確認ができる」や「財務実績データとの照合により精度が上がった」のように、定量データに基づいて現状把握と予測できることで「方向性や決定事項に根拠がでる」「客観的な状況を把握することができた」との評価も多かった。中には「黒字の課とそうでない課を見える化した」や「従業員の稼働時間を管理し、空き人的リソースを見える化することで不要な派遣社員の雇用を削減した」など生々しい実行例も寄せられた。
その他、意外と多かったのは「報告資料、解析資料の作成時間短縮」や「業務時間の削減とミスの低減」といった、データ活用を進めたことで業務時間やストレスの軽減につながったとする意見だ。見落としがちだがこうした点も、運用が根付いた先に期待できるメリットだろう。
以上、前編では企業におけるデータ活用の現状を紹介した。後編では、データ分析の専門ツールであるBIツールの利用実態について、調査結果を基に深堀していく。
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