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マッチングアプリ「タップル」運用の裏側 AIでデータ分析を高速化した話

マッチングアプリを運営するタップルでは、データ抽出作業を専門チームに一任していたが、少人数体制のため対応スピードに課題を抱えていた。そこで同社はAIを活用し、誰でもSQL文を生成して使える仕組みを作った。

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 マッチングアプリ「タップル」を運営するタップルは、データ分析業務においてリソース不足に陥っていた。業務上欲しいデータの抽出は、人数が限られたBIチームに一任され、意思決定や新規施策の立案などのスピード感を損なうボトルネックになっていた。

 そこで同社が構築したのが「SQL Agent」だ。BIチーム以外のメンバーもSQLを使ってデータ抽出できるようにすることで、業務の改善を目指した。

「データがすぐ欲しい」BIチームの現場の声にどう応えたか

 タップルの原和希氏(機械学習エンジニア)は、当時抱えていた課題について次のように説明する。

 「新たな施策を展開する際、ビジネスメンバーはBIチームにデータ抽出を依頼していた。ただし、BIチームは規模の大きな組織ではないため、対応できる量やスピードに限界があった。SQL Agentを導入してデータに基づく意思決定や施策立案のスピードを改善しようと考えた」

 同社は2025年4月に、自然言語をSQL文に変換して実行するAIエージェント、SQL Agentを社内向けにリリースした。

 「ビジネスメンバーがSQLを容易に実行できるツールを社内展開した。ビジネスメンバーが欲しいSQL文をチャットで説明することで、SQLが生成、実行される。ツールはSQL作成の方針やサブクエリの説明もする。これによって生成されたSQLを理解しやすくなる」

 SQL Agentを活用したデータ抽出には次の3つのパターンがある。

 一つは、ビジネスメンバーがSQL Agentを使いって単独でデータ抽出をする場合、もう一つはビジネスメンバーがSQL Agentで抽出したデータをBIチームがレビューして必要に応じて修正する場合、そしてBIチームがSQL Agentを使ってデータ抽出を効率化する場合だ。BIチームの負担を軽減し、データ抽出のパターンを増やすことに成功した。

自社に合ったSQL Agent作りの工夫

 原氏によると、SQL Agentには自社のワークフローに合うよう3つの工夫が施されている。

 1つ目はアーキテクチャの工夫だ。最新の手法を取り入れつつ、シンプルに始めることを意識したという。タップルはデータソースが小規模であったため、ミニマムスタートが合っていた。

 「まずは導入して、効果や課題、AIエージェントに求める機能を把握していった。そして、品質向上のためにデータを蓄積するとともに、実際にエージェントを試した従業員のフィードバックを確認し、段階的に機能拡張をしていった」(原氏)

 タップルのSQL Agentでは複数のAIを使うことで最終的な出力の品質を向上させる仕組みを採用している。SQL文は「Google Gemini」が生成し自ら修正するが、同じプロセスが他社製のAIでも実行され、複数のSQL文が作られる。これを比較評価して最終的に選ばれたものが実行される。

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SQL文生成、実行のプロセス(「Google Cloud Next Tokyo」での投影資料、筆者撮影)

 2つ目はコンテキストの工夫だ。メタデータの整備や、マッチングアプリで使われる「マッチ」や「フリック」といった用語、ビジネス知識が、データ上でどのように表現するかを説明して、AIに渡すことで、精度向上を狙った。カラムやテーブルの使い方をLLMに教えるためにサンプルSQL文も作ったという。

 3つ目はSQL Agent専用のテーブルを用意したことだ。当初はデータウェアハウスのテーブル全体を参照できるようにしていたが、カラム数が多く品質が低下する問題があったという。利用頻度が高いテーブルをピックアップしたり専用のマートテーブルを作ることで参照できる対象のデータを絞り、品質を向上させた。

ドメイン知識やメタデータの言語化の重要性

 原氏は、一連の開発を通じて得た気付きとして、ドメイン知識やメタデータを言語化する重要性を挙げた。一度言語化してメタデータとして持っておけば、SQL文を作るエージェントがベンダーからリリースされても再利用できる。

 「特定の知識や業務プロセスを言語化することで、知識の汎用(はんよう)化や属人化の排除につながる」

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(「Google Cloud Next Tokyo」での投影資料、筆者撮影)

 タップルは引き続きSQL Agentの高品質化、高度化を目指していく。

 「今後は、新たに判明した課題に対処していく。対象テーブルの不足によるエラーの発生への対処、メンバーによる質問の粒度の違いをAIがフォローアップできる環境の構築、正確性の保証が目下の課題だ。これらを解消すると、社内プロダクトがさらに効果を発揮するだろう」(原氏)

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