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データ分析の基礎を無料で学ぶ サンプルデータで始める実践ガイドこれから始めるデータ分析

内閣官房と経済産業省提供する「地域経済分析システムRESASウェブサイト」は、会員登録不要かつ無料で、日本の産業に関するデータを可視化し閲覧できる。RESASで何ができるか、実際に触って確かめた。

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 データ分析というと、自社で業務を遂行する中で発生する営業データやセンサーデータ、販売データなどをいかに価値転換するかという話になりがちです。一方で、国や自治体が公開するオープンデータも、活用次第で大きな価値を生み出す情報源となります。

 例えば、新たに店舗を出店する場合、立地選定には滞留人口や競合店の分布といったデータが欠かせません。営業で注力すべき地域を選定する際には、エリアごとの人口構成(性別や年齢)、POSデータに表れる消費傾向、さらには特定業種の拠点分布などの情報が役立ちます。

 ですが、これらのデータを自分の足で確認して回るのは大変です。そこで、今回はオープンデータプラットフォーム「RESAS」(リーサス)をサンプルデータとして活用し、日本全国のデータを見る方法を紹介します。

無料のサンプルを使ってデータ分析の基礎を学ぶ

 「地域経済分析システムRESASウェブサイト」は内閣官房と経済産業省が2015年から提供しているオープンデータプラットフォームです。2025年3月に新システムに刷新されています。

 マーケティングや産業構造の分析などに使えるデータを、会員登録不要かつ無料で可視化して閲覧できます。分析項目は多岐にわたり、7つの大カテゴリー、「マーケティング」「観光」「人口」「産業構造」「地域経済循環」「農林業漁業」「医療・介護」が用意されています。

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「地域経済分析システムRESASウェブサイト」

 メニューから「滞留人口メッシュ分析」や「生産分析」などの項目を選んで、対象の地域や業種を指定すれば、可視化されたデータを閲覧できます。

泡盛の消費地、大阪で人が集まるところ、米の価格変動、不動産屋の分布を見る

 マーケティングカテゴリーでは、POSデータを基にした「生活用品分析」や「生産・消費地分析」「滞留人口メッシュ分析」「事業所立地分析」などができます。

 「生産・消費地分析」では特定の地域で作られた商品がどこで消費されているのかが分かります。例えば「沖縄県」「焼酎(乙類)」を指定してみると、日本地図に沖縄の焼酎を消費している地域がマークされます。この分類にはいわゆる「泡盛」が含まれます。

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沖縄県で作られた焼酎(乙類)がどこで消費されているか

 これを見ると、三大都市圏ではよく飲まれているようですが、消費の割合は高くて2%程度で、実際には78.362%が沖縄県で地産地消されていることが分かります。これを商機と捉える人もいるかもしれません。逆に東京都で消費されている焼酎(乙類)はどこで生産されたものかを見ることもできます。沖縄県は1%を切っており、最も高いのは霧島酒造がある宮崎県の35.595%だと分かります。

 「滞留人口メッシュ分析」では特定の地域と期間において、どんな属性の人がその場に滞留しているかを可視化できます。メッシュサイズは250mが標準で、政令市や東京23区では125mでも見れます。試しに、大阪府の大阪梅田駅から難波駅の間のエリアを見てみましょう。ここは商業ビルが立ち並ぶエリアです。ここで期間指定をせず、全ての属性の人々の滞留人口を見てみると、駅を中心に道をなぞるように人がとどまっていることが分かります。

 ここで、年齢層を60代以上にしてみると、駅周辺の狭いエリアのみに集中しており、ビル街にはほとんど立ち寄っていないことが分かります。ここに60代以上向けの店舗を構えるのは難しいかもしれません。同様に20代以下もビル街にはそこまで多くなく、駅周辺の広いエリアに集まっていることが分かります。これが30〜50代に絞ると、ビル街と隣の御堂筋エリアが真っ赤になります。

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大阪梅田駅から難波駅周辺のエリア。左側は30〜50代、右側は60代以上の滞留人口

 「生活用品分析」では、さまざまな商品の消費動向を時系列データとして見れます。例えば、米の購入金額(1000人当たり)を見てみると2019年から緩やかに下降していたのですが、2024年8月に急激に伸びていることが分かります。このころは「令和の米騒動」など言われた時期です。購入単価も2023年末には約1500円だったのに対し、2024年11月には2千円台後半まで値上がりしています。

 このようなイレギュラーを後から観測するだけでなく、グラフをよく見てみると、例年12月に米の購入点数が上がることも分かるため、需要に備えて在庫を確保するのにも使えます。

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毎年12月と「令和の米騒動」の時期に、購入金額が上がっている

 「事業所立地分析」では、特定のエリアにどんな業種の事業所があるかを確認できます。例えば、不動産会社の事業所が密集しているエリアを探して、不動産業向け製品の営業に向けてリサーチに行くのもあり得るかもしれません。東京都練馬区周辺を見てみると、やはり駅周辺に集中しており、特に練馬駅と石神井公園駅の周辺には複数の事業者が集まています。千代田区などになると、駅から離れているところにもまばらにあるため、このエリアへのアプローチは大変になりそうです。

自動車製造の拠点を見てみる

 地域経済循環カテゴリーでは「生産分析」「分配分析」「支出分析」などができます。生産分析では市区町村単位で、特定の産業の生産額をヒートマップとして可視化されます。例えば、東海地方で輸送用機械の生産額を見てみると、愛知県豊田市が13兆円越えで圧倒的ですが、近くにある西尾市も2兆円規模あります。こちらはアイシン機工のような自動車部品製造業者が複数ある地域ですね。

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豊田市が圧倒的だが、浜松市周辺も強力

 少し東に行くと静岡県湖西市も1兆円越えのエリアであることが分かります。こちらは浜松市に本社を置くスズキの工場が置かれています。逆に支出を見てみると、人口の関係か政令指定都市が多く、大阪市、名古屋市、札幌市、京都市、神戸市、福岡市などが目立ちます。

見るだけでも楽しい

 このように、地域やカテゴリーの粒度を変えてみることで新たな気付きが得られます。特に、マーケティング戦略や営業活動に役立つ情報の発見に効果的です。自前でデータ分析基盤を構築するのが難しい企業やデータ収集にコストをかけられない企業、何となくで戦略を決めている企業などは、RESASを触って根拠のある戦略策定に役立ててみるのもいいでしょう。

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