検索
ニュース

機能は優秀でも成果ゼロ? 導入企業が答えた期待外れだったIT製品【ユーザー調査】

IT製品は機能や話題性だけでなく「現場で使われるか」「成果が得られるか」が導入成功の鍵となる。キーマンズネットの読者企業アンケートから、導入の成否を分けるポイントと成功の秘訣を探る。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena

 多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する中で、新たなIT製品やクラウドサービスの導入を模索している。だが、どれだけ高機能で話題の製品であっても、「自社に合っているか」「現場で実際に使われるか」「期待した成果が得られるか」は別問題だ。導入自体が目的化してしまい、思うような成果に結び付かないケースも少なくない。

 キーマンズネットでは企業のIT担当者や実務ユーザーを対象に、導入して一定の成果や効果が見られた製品・サービスとそうでないものについて読者企業にアンケートを実施した(調査期間:2025年7月9日〜8月22日、回答件数:159件)。寄せられた声から見えてきたのは、製品の良しあしを分けるのはスペックや知名度ではなく、「現場への定着力」や「即効性」、そして「利用環境との適合性」だ。

 本連載では、導入経験を基に高く評価された製品群・サービスや、逆に期待外れとなった導入事例について、アンケート結果を基に複数回に分けて紹介する。

「期待外れ」の原因は、環境とのミスマッチや運用設計不足か

 導入したものの期待した効果が得られず、かえって業務の妨げになってしまった。こうした声は決して少なくない。失敗事例に共通して見られるのは、現場の環境や運用体制との間にあるギャップだ。だが、こうした事例からこそ、導入前に検討すべきポイントや、成功へのヒントが見えてくる。実際に読者から寄せられた具体的な製品例を基に、想定していた効果が得られなかった背景や要因を考察し、そこから得られる改善のヒントを探る。

 なお、ここでは具体的な製品やサービスを取り上げて解説するが、それら自体に問題があるというわけではない。利用環境や運用体制によっては、期待された効果が十分に発揮されないと感じる場合もある。あくまで一つの事例・意見としてご理解いただきたい。

 意見の一つとして挙がったのが、「Microsoft 365」に含まれるアプリやサービスに関する声だ。特に「Microsoft SharePoint Online」や「Microsoft OneDrive」など一部のアプリやサービスについては、「業務用PCのスペックが追い付かず動作が重くなった」「アプリのパフォーマンスが低下し、フリーズが頻発した」といった指摘が多く寄せられた。中でも、中堅・中小企業や自治体など、古い端末を使い続けている一部の組織では、高機能なクラウドサービスの導入がかえって業務効率を損ねる結果となるケースもあり、この点が大きな課題となっている。

 また、「Microsoft 365 Copilot」についても、「SharePointの情報が構造化されておらず、うまく抽出できなかった」との声があった。AIの性能を十分に引き出すためには、前提として情報の整理やドキュメントの構造化が不可欠だが、こうした準備が不十分だった、あるいはその重要性を十分に認識していなかったケースも多く見受けられる。「導入すればすぐに業務が楽になる」といった過度な期待が先行し、それとのギャップが失望感につながった可能性もある。

現場で評価された製品に共通するのは「即効性」と「なじみやすさ」

 一方、高く評価されたIT製品には、幾つかの共通点が見受けられる。第一に、現場の業務フローに無理なく組み込むことができ、導入直後から効果を実感できた点。さらに、ユーザーインタフェースや操作性の分かりやすさに加え、既存のツールとの高い親和性も、満足度を左右する重要な要素だ。

Microsoft 365 Copilot

 前述のように一部ではネガティブな反応も見られた一方で、「Microsoft 365 Copilot」はポジティブな声も数多く寄せられた。議事録の自動生成やメール文の構成補助、ドキュメントの要約・アウトライン作成、さらに設計資料の作成支援など、幅広い業務をAIがカバーし、作業時間の大幅な短縮に貢献したという評価が目立った。

 特に「Microsoft Office」製品との高い連携性により、既存の業務環境にスムーズに溶け込んだ点が高く評価されている。また、「他の生成AIに比べて導入後すぐに自然に使えた」「研修コストがほとんどかからなかった」といった声も多く、生成AI活用の第一歩として導入する企業も少なくない。

AI文字起こしツール「Notta」

 また、議事録作成ツール「Notta」も、Web会議が主流となった現在の業務環境において高く評価されたツールの一つだ。「数十名の実務担当者による検証を経て導入を決定した」との声もあり、直感的に操作できるインタフェースや、議事録フォーマットの柔軟なカスタマイズ性が導入の決め手となったようだ。AI議事録ツールは、導入効果が定量化しやすく、コスト構造も明確なことから、「会議の生産性向上」に向けた投資として有効だと考える企業が多いのだろう。

 さらに、業務の可視化や標準化を目的に導入された業務支援ツールとして、「Backlog」「kintone」「X-Point」が一定の効果を挙げているとする声もあった。Backlogについては、「プロジェクトの進捗(しんちょく)が可視化され、部門間の情報共有が円滑になった」との声が多く寄せられた。Kintoneは、特にBPO業務において「品質向上に直結した」といった業種特化型の活用事例が報告された。

 また、X-Pointに関しては、「紙に近いユーザーインタフェースで年配社員にも受け入れられやすかった」というフィードバックがあり、世代を超えた現場での定着のしやすさが導入成功の大きな要因となったことがうかがえる。

 これらの製品に共通しているのは、単に業務を効率化するだけでなく、業務そのものを最適化するツールとして機能している点だ。導入後すぐに成果を可視化できることもあり、2026年度のIT投資対象として検討する価値は十分にあるだろう。

IT投資を成果に結び付けるために必要な3つの視点

 今回のアンケート結果から、IT投資の成果を最大化するために意識すべきポイントが大きく3つ浮かび上がった。

 第一に、「使われるIT」であることだ。どれだけ機能が優れていても、現場に受け入れられなければ意味がない。UIの親しみやすさや既存業務との整合性、操作の習得コストの低さなど、現場ファーストの視点で製品を選定することが重要だ。

 第二に、「インフラの見直し」だ。クラウドやAIなどの高機能なサービスは、それを支えるハードウェアやネットワーク環境があってこそ効果を発揮する。PCの更新やネットワーク整備といった足元のインフラにも十分な予算と計画を確保する必要がある。

 そして第三に、「成果を可視化できる領域に投資すること」だ。議事録作成やプロジェクト管理など、定量的に効果を測定しやすい領域は、導入後の説得力ある報告や改善に直結する。費用対効果が明確に示せるツールほど、経営層の理解や次年度予算の確保もしやすくなる傾向がある。

 IT製品の導入は、それ自体が目的ではなく、「成果を生むための手段」であるべきだ。そして、その成果を最大化するには、単に製品の性能を見るだけでなく、現場のリアルな声を基に、利用実態に即した計画を立てることが不可欠だ。

 2026年度のIT投資を成功させるためには、「何を導入するか」だけでなく、「どう使われるか」「そのために何を整えるか」という包括的な視点で予算を編成することが求められだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る