企業が生成AIを“使わない”3つの理由 関心高まるも活用が進まないのはなぜ?:生成AIの活用に関する調査(2025年後半)/後編
企業における生成AIへの関心度は高まっているが、導入に踏み切れない企業もあるようだ。関心は高いのになぜ活用は進まないのか。調査から見えてきた、多くの企業が抱える共通の課題に迫る。
生成AIの業務利用について、前編では全体の9割が関心を寄せていることや、52.5%と過半数が既に利用している現状を紹介した。どちらも年々増加傾向であり、従業員数の多さに比例して割合も高まる点が特徴だった。後編の本稿では「生成AIの活用意向と課題に関するアンケート(実施期間:2025年8月13日〜8月27日、回答件数:221件)」の結果を基に、生成AIの業務利用が進まない企業の実情を見ていく。
生成AIを「利用しない」企業が挙げる“3つの理由”
まず、生成AIの業務利用への関心度を振り返ろう。
全体の9割が関心を寄せる一方で約1割は「関心がない」と回答した。その理由としては以下のようなコメントが寄せられた。
- 用途が不明
- どんな用途で使えばいいのか分からない
- 検索以外の活用方法が分からない
- リスクを考慮
- 利用に伴うリスクを危惧している
- AIで失敗した事例があり及び腰
- まだ未熟な技術だと捉えている
大きく分ければ「用途が分からない」と「リスクを考慮している」という2つの意見に分かれる。自社の業務プロセスを整理して効率化の余地がある部分を特定したり、一定のルールの下で試行錯誤したりする必要があるが、「経営層が生成AIをよく理解していない」との声もあり、なかなかスタートが切れないと悩むケースもあるようだ。
今回の調査結果によると既に半数以上が生成AIを利用しているが、全体の8.6%は「生成AIを利用する予定はない」と回答した。その理由としては「業務での利用イメージが湧かない」(36.8%)や「経営層の理解が得られない」(31.6%)、「情報漏えいなどのリスクを懸念」(26.3%)、「従業員のガバナンス教育が面倒」(26.3%)、「メリットを理解していない」(26.3%)といった回答が多かった。
「関心がない」「利用する予定はない」とした人に共通するのは、「利用イメージが分からない」「経営層の理解不足」「セキュリティリスクを懸念」の3点だ。生成AIの業務利用に”否定的”というよりは”懐疑的”であるというのが正しい現状認識と言える。
「生成AI失敗談」を聞いてみた ベンダーに求める対応とは
企業における生成AIの利用を妨げる要因は、過去の失敗にもあるようだ。「生成AIサービス利用で発生した失敗やトラブル」をフリーコメントで求めたところ、同様のケースが幾つも寄せられた。
- ハルシネーション
- 情報の出所が不明瞭で、それを知らずに活用してしまう社員がいる
- 活用した結果の精度が疑わしいまま、顧客に提出
- 利便性の課題
- 他サービスとの連携がうまくいかない
- サイズが大きいファイルを読み込ませられない
- セキュリティ上の課題
- 従業員がプロンプトに個人情報あるいはそれに該当しそうな内容を入力してしまうことがある
- 会社が許可していないAIツール(シャドーAI)が発生していた
生成AIサービス利用における失敗談は「ハルシネーション」「利便性の課題」「セキュリティ上の課題」に大別されるようだ。利便性やセキュリティの課題は製品のアップデートやルールの整備で対応できそうだが、OpenAIによれば大規模言語モデル(LLM)が現在の構造である限りハルシネーションは避けられない。「情報の出所が不明瞭なまま顧客に提出」といったケースは自社の信頼を毀損する可能性もあるため、AIの出力結果をチェックする体制の構築や、そのための教育が重要になる。
また、これらの課題に対し「ベンダーに求めること」を聞いたところ、以下のような回答が集まった。
- 生成AIをセキュアに利用できる環境や機能
- セキュアな専用環境が欲しい
- 隔離された環境で社内情報を網羅的にリサーチできるようにしてほしい
- 生成AIの出力が誤ってないかチェックする機能がほしい
- 著作権違反や反社会的な対応を抑制できるなど、企業の訴訟リスクに配慮できるセーフガード的な機能を整備してほしい
- AIに関するスキルトランスファー
- AIのワークショップを開催してほしい
- RAGやAIエージェントの具体的な活用例を教えてほしい
- リテラシーの低い社員でもある程度使えるように、機能制限をかけたり、アウトプットの精度を高めたりするフォローをしてほしい
「セキュアに生成AIを利用できる環境」と「AIに関するスキルトランスファー」を求める声が多く、先述の「生成AIを利用しない理由」とも対応した結果だ。前者はハイパースケーラー各社の開発プラットフォームや、AIインフラ構築サービスなどで既に対応できる可能性が高い。後者についても、各クラウドサービスのAI関連の認定を取得しているベンダーであれば、幅広い知見と実践的なノウハウを持っている。普段から付き合いのあるベンダーにまず相談してみるのもよいだろう。
大企業を中心に“効果測定フェーズ”に移行か
ここまで見てきたように生成AIにはまだ課題も散見される。一方、既に52.5%と過半数で利用されているのもまた事実だ。運用負荷に勝る利用メリットが大きいとする企業が多いということだが、実際はどうだろうか。
「生成AIを業務利用している」方を対象に「サービス利用における効果測定法」を聞いたところ「効果測定法が確立している」(8.6%)は1割以下にとどまり、「効果測定法が分からず、測定できずにいる」(32.8%)や「効果測定をするつもりがない」(14.7%)といった“効果測定をしていない”層が47.4%と約半数であった。
ただし、2025年2月に実施した前回調査と比較すると「効果測定をするつもりがない」が14.8ポイント減少した一方で「効果測定法が確立している」が5.2ポイント、「効果測定法を検討している」が8.0ポイント増加していることから、効果測定の必要性に対する認識は高まっていると言える。生成AI利用の企画フェーズを経て、実証実験(PoC)を実施したり評価を振り返ったりするフェーズに移っている企業も増えているようだ。
従業員規模別で見ると、生成AIの業務利用率が高かった従業員数10001人を超える大企業では「効果測定をしていない」割合は35.5%と全体平均より11.9ポイント低く、比較的早期に導入が進んだ大企業を中心に効果測定法の検討や確立が進んでいると思われる。
本稿では「生成AIの業務利用」に関する調査結果を基に、企業を取り巻く現状を考察した。もはや生成AIは企業活動にとって欠かせないツールとなりつつある昨今、運用課題も鑑みた上で生成AIをどのように活用すべきか、検討に役立ててほしい。
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