M365 Copilotはプロンプト下手な人ほど向いている? 実務で使える、AIを動かす会話のコツ
「生成AI活用にはプロンプト力が不可欠だ」。そんな思い込みをしていないだろうか。 実は、Copilotを使いこなすのに完璧な指示は必要ない。本稿では、自然な対話を通じてAIの力を引き出し、業務を前に進めるためのコツを紹介する。
本連載第2回では、「Microsoft 365」のさまざまなアプリに統合された「Microsoft 365 Copilot」に焦点を当てた。しかし、多くの人がイメージする生成AIと言えば、やはりチャットで会話を重ねながら、さまざまなタスクを依頼する使い方ではないだろうか。もちろん、Microsoft 365 CopilotにもCopilotとチャットで会話ができる「Copilot Chat」の機能が備わっている。Microsoft 365 Copilotのアドオンライセンスによって、「OneDrive」や「SharePoint」など、Microsoft 365アプリに保存された情報も引き出すことができ、心強いアシスタントとなる。
その一方で、「Copilotに何をどう聞けばいいのか分からない」という声もよく耳にする。その背景には、ネットなどでよく目にするプロンプト(指示)集や、プロンプトエンジニアリングというテクニックがあるようだ。Copilotを使いこなすには、何か決まった聞き方や作法があって、「まずはそれを覚えなければならない」という思い込みが、Copilotとの会話を難しいものに思わせてしまうようだ。
Copilot Chatの活用の本質は、そのものずばり”会話”にある。完璧なプロンプトを準備する必要はない。むしろ、同僚と話しながら仕事を進めるように対話を重ねることでCopilotは意図を理解し、考えを整理し、新しい発想を引き出してくれる。
Copilotは検索エンジンではなく、対話で答えを探すパートナー
Copilotとのチャットを前にすると「一度で完璧な質問をしなければ」と考えてしまう人がいる。しかし、Copilotは、そうして一問一答型の仕組みとは異なる。検索エンジンであれば、入力したキーワードに対して結果を返すだけで、そこからさらに意図を深堀してくれることはない。
Copilotは、返してきた答えに対して「ここは違う」「この部分をもっと詳しく」と伝えれば、そのやりとりを踏まえてさらにブラッシュアップしてくれる。つまり、Copilotのような生成AIは、会話を前提にしたAIなのだ。これは、同僚に何かのタスクをお願いする場面にも似ている。最初の一言で全てを伝え、100%の成果物を期待することがどれだけ難しいかは想像にたやすいだろう。実際には、何度か会話を重ねながらゴールに近づいていくはずだ。Copilotとのチャットも、まさにその感覚で使うことができる。
Copilotからベストな答えを引き出すテクニック
例えば、上司に対してMicrosoft 365 Copilotの利点を説明する場面を想定してみよう。
最初に「Microsoft 365 Copilot を活用する利点を上司に説明しようとしています。どのように説明できますか?」と伝える。するとCopilotは、まずは一般的な内容を返すはずだ。そこでさらに会話を続け、「営業部である」「上司はメールが多くて困っている」「業務改善の活用例をあげてほしい」など、自身の状況や追加してほしい情報などをCopilotに伝えれば、さらに回答が具体的なものになっていくはずだ。さらには、「まずは上司にはメールで概要を伝えておきたいので、メールの文章を考えてほしい」などと伝えると、今度はCopilotがメールの文章に形式を変えたものを提案してくれる。
ここで大切なことは、最初の回答が自分の意図と違っていたとしても、そこで終わらずに会話を続けることだ。それによって、Copilotの回答がより自分の要望に沿ったものに調整されてくる。
音声入力で頭の中のアイデアを構造化する
会話のための優れたインタフェースの一つが、音声入力ではないだろうか。Copilot Chatのメッセージ入力欄に備えられたマイクアイコンから利用できるディクテーションは、Copilotに要件を伝える手間を大きく減らしてくれるものだ。
特に筆者が気に入っている利用シーンは、自分の中にモヤモヤと浮かんでいるアイデアなどを構造化して整理してもらう使い方だ。まずは、ディクテーションを用いて自分の考えを伝えていく。このとき、きちんとした文章になっている必要はなく、思いのままに話しても大丈夫だ。途中で「あー」とか「えー」とか入っても気にする必要はなく、間違えて言い直しをしても構わない。
そして最後に、「こうした考えを整理するのを助けてほしい」と伝えて送信してみよう。するとCopilotが、いま話した内容を構造化し整理して見せてくれる。さらに会話を続けていけば、ここからプレゼンの構成を考えてもらうといった使い方ができる。自分の意見やアイデアをまとめるといった仕事でよくある場面の、「あともうちょっとで言語化できそうなのにな」の”ちょっと”を助けてもらうだけで、作業の効率が大きく改善された。
コンピュータと会話する違和感を超える
これまでのコンピュータの操作は、私たちが命令すれば結果を返すというある意味でシンプルなものだった。検索エンジンにキーワードを打ち込む、ボタンをクリックするといった操作で、必要な情報や機能を呼び出すという使い方だ。
しかし、Copilotでは、会話で何度もやりとりを重ねながら、一緒にタスクを進めていく。ときには、Copilotの方から質問を返し、タスクを前に進めていくためのヒントを与えてくれることもある。「この資料をもっと分かりやすくしたいんだけど、どう思う?」と聞けば、Copilotは提案を返し、さらには「どんな読者を想定していますか?」と考えをより具体化するためのアドバイスをくれる。こうしたキャッチボールを繰り返すうちに、漠然としていたアイデアも具体的な形に代わっていく。
最初は違和感があるかもしれないが、同僚と会話を楽しむ感覚でCopilotとやりとりできるようになれば、もっとCopilotを使いこなせているという感覚になるだろう。まさにCopilotと雑談を楽しめるようになることこそが、Copilot活用のためにまず乗り越えたいハードルの一つかもしれない。そうすればまさに、Copilotはパートナーのように感じられるはずだ。
「GPT-5」搭載Copilotの特徴
先日、OpenAIの最新モデルGPT-5が登場し、Microsoft 365 Copilotにも搭載された。これにより、Copilotはさらに進化している。
GPT-5を搭載したCopilotの特徴は、長い会話や複雑な文脈を理解できること、そして自律的に発想し、提案を返せることだ。「何をするか」だけでなく、「どこまでやるか」「どうやるか」までを自分で判断し、必要に応じて推論を重ねながらタスクを進める。この進化によって、Copilotはより高度な業務を任せられる存在になるだろう。
しかし、その分、ユーザーが伝えるべき情報も増える。目的だけでなく、背景や制約、優先順位なども共有する必要がある。そして、それを一度で完璧に伝えるのは難しい。だからこそ、会話を重ねることが不可欠だ。最初は大まかな方向性を伝え、Copilotの提案を見ながら「ここは違う」「もっとこうしてほしい」と調整していく。このプロセスが、Copilotの力を最大限に引き出す。
さらに、GPT-5を生かすには、Copilotに“任せる勇気”を持つことも重要になるだろう。細かい指示を詰め込むより、「何を達成したいのか」「どんな状況なのか」を伝え、あとはCopilotに考えてもらう。その方が、Copilotの自律性を引き出し、思いもよらない発想を得られる機会につながるかもしれない。
Copilotの自律性を生かしながらタスクを進めていく過程は、部下や後輩に仕事を任せ、会話を通じて導くことに近いかもしれない。これからのCopilot活用に求められるのは、命令の精度ではなく、会話力と指導力ではないだろうか。Copilotをパートナーとして迎え入れるために、まずは気楽に会話をはじめてみてほしい。
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