ChatGPT Proは3万円の価値があるのか? PlusとProを実務目線で比較検証してみた
「ChatGPT」の個人向けプランには月額利用料200ドル(約2万9405円)のProプランがある。実際Plusプランとどう違うのか。実際に契約して、3万円を払う価値があるのか検証してみた。
「ChatGPT」の個人向けプランは「無料版」「Plus」「Pro」の3種類です。Plusが月額20ドル(約2941円)と個人向けサブスクリプション形式のサービスとしては一般的な範囲内なのに対し、Proは200ドル(約2万9405円)と非常に高価です。相応の満足感が得られなければ、納得しにくい価格設定です。
実際PlusとProはどのくらい違うのでしょうか。今回はキーマンズネット編集部でProを契約して、3万円を払う価値があるのかチェックしました。
拡張機能の使用回数に注意、Deep Researchとエージェントモードの差
ChatGPT公式のプラン比較表を見ると、PlusとProの違いは制限の撤廃と高性能なモデルの使用が主です。Plusは制限について「(無料版)より多くの〜」などと表現されていますが、Proは「無制限の〜」と書かれています。具体的な応答回数の上限値などは表示されていません。
拡張機能の「Deep Research」「エージェントモード」などは使用回数の上限が明確に表示されており、Deep ResearchはPlusで月間25回、Proで250回、エージェントモードはPlusで40回、Proで400回と10倍の差です。
Plusプランで使えるモデルは「GPT-5 Auto」「GPT-5 Instant」「GPT-5 Thinking」「GPT-5 Thinking mini」というGPT-5シリーズと、「GPT-4o」「GPT-4.1」「o3」「o4-mini」です。GPT-5シリーズはAutoを選んでおけば、入力されたプロンプトに応じて適切なモデルが自動で選ばれます。
Proプランで使えるモデルは「GPT-5 Auto」「GPT-5 Instant」「GPT-5 Thinking」「GPT-4o」と「GPT-5 Pro」です。Proモデルは研究レベルに対応するものと位置付けられています。
エージェントモードの制限が鍵? Plusユーザーのリアルな使用感
筆者は普段、プライベートでPlusプランを利用しており、一般的な質問への回答やコーディングのサポートなどに活用しています。特にコーディングタスクでは、一回の応答での文字数が大きくなりやすい上、バグが発生した場合の修正を繰り返すこともあります。かなりのトークンを消費しているつもりなのですが、特に制限を感じたことはありません。当然Proでも問題はないのですが、この点でProにする必要はほとんどなさそうです。
調査レポートを作成してくれるDeep Researchは、Plusプランでは月25回までの利用に制限されています。ただ、1カ月にそれほど多くのレポート作成を依頼するかというと、少々疑問が残るところです。1営業日につき1本以上レポートを書くならProを契約するのもあり得ます。
唯一制限回数の上限に達しやすいのがエージェントモードです。これはChatGPTのチャット内に仮想のデスクトップを立ち上げて、AIが自動で操作してさまざまなタスクを実行する機能です。
Plusの40回という制限は1営業日2回で消費しきります。ここでいう1回というのは例えば「Webブラウザを開く」という操作単体でカウントされるものではなく「Amazon.co.jpで○○を買う」という一連の動作をまとめて1回とカウントされます。
ですが、Amazon.co.jpへのログインをユーザーが実行した後に作業を再開した場合や、ChatGPTが操作ミスをしてやり直しになった場合は回数を消費してしまいます。実際に、筆者がプライベートで使っているアカウントで「Google スプレッドシート」にデータを入力する作業を任せてみたのですが、動作が不安定だったり、ログインで回数を消費したりで、6回分消費しました。何も入力されていないシートが出来上がりました。
エージェントモードを使い倒したい場合はProである必要がありそうです。
Proモデルを使う場面はあるのか? 法務と化学のタスクでテスト
PlusとProの最も大きな違いがProモデルの使用権です。製薬業界ではGoogleのDeepMindが開発した「AlphaFold」が7年前からタンパク質の構造予測に使われています。製造業の製法検討や建築分野の建材選定など、高度に専門的な内容についてアイデア出しや検証を手伝ってもらうのにはいいでしょう。
今回は公正取引委員会が公表している相談やトラブルの事例を問題としてProモデルに与えて検討してもらいます。
1つ目の事例は次のような内容です。家電メーカーのX社は自社製品を小売業者経由で一般消費者に販売するに当たり、小売業者に対して販売価格を指定しようと考えて公正取引委員会に相談しました。基本契約に加えて覚書を締結し、「製品に問題があればメーカーの責任で交換に応じる」「製品が型落ちすれば自由に値下げしていい」などの取り決めを提示するが、これは法的に問題ないかという疑問があるという想定です(公正取引委員会「独占禁止法に関する相談事例集について 家電メーカーによる小売業者への販売価格の指示」より)
公正取引委員会は「販売価格を拘束することは原則として独占禁止法上問題となる」としながら「小売業者が単なる取次ぎであり、実質的にメーカーが販売している場合は違法ではない」「覚書で小売業者の在庫リスクなどをメーカーが追っているため、実質的にメーカーが販売していると判断できる」として問題ないとの見解を示しています。
この事例の概要をProモデルに伝え、問題の有無を尋ねたところ、以下のような回答が得られました。
「販売価格の拘束は独占禁止法に違反する不公正な取引方法です。小売店のリスクを軽減する覚書の内容は問題になりませんが、販売価格を拘束するための手段だとすると、強制要素と評価される可能性があります。型落ち時の取り決めも違法性の解消にはなりません。独占禁止法違反のリスクが高いため、どうしても価格を統制したい場合は真正の代理、委託販売への実質的転換を検討してください」(要約)
公正取引委員会との見解とは異なる内容になりました。実際には覚書の項目それぞれについて違反の可能性を評価を示しながら、独占禁止法上の考え方を解説するとともに、適法化するための対応案も詳細に解説してくれました。
化学系のタスクも試してみる
今度は化学系の問題も検討してもらいます。入力した問題は「l-メントールとd-メントールをできる限り高精度に分離させるにはどうすればいいか」です。
世間一般に言われる「メントール」はl-メントールとも呼ばれます。分子構造を左右ひっくり返したものをd-メントールと言いい、これは不快臭がするためできる限り排除したいものです。今ではそもそもl-メントールを狙って合成しますが、仮に両方同程度作れてしまった場合にどう分離するかを聞いてみました。
Proモデルは3つの手法を提示しました、それぞれ分離したいメントールの量と操作方法、長所と短所を示してくれています。ですが、思考の流れを見てみると、参考文献などは示されておらず、何を参考に回答を生成しているのかが分かりません。
尋ねれば資料を提示してくれるものの、それが本当に意思決定や判断の際に参考にされたものかどうかは分かりません。
現行プランは極端すぎ? PlusとProの間にほしい中級プラン
問題は、日常的にこのような質問をする場面がどれほどあるかという点です。研究部門がある企業であれば、今回のものよりもさらに専門性の高い質問を投げかけることもあるでしょう。ただし、そうした内容は高い確率で機密情報に関わる可能性があり、取り扱いには慎重さが求められます。チャット内容をモデルの学習に使えないようにする設定はありますが、管理機能がある法人向けプランの方が安心ではないかと思います。
個人的に感じたのは、帯に短したすきに長しです。Plusで足りない、もしくはProモデルを使いたい人にとって、Plusプランにおけるエージェントモードの利用上限が月40回というのはやや少なく感じられるかもしれませんが、かといって月400回も必要かと言われると、それは多すぎるように思えます。少なくとも、Deep Researchを250回は絶対に1人では使い切れません。
Plusとほぼ変わらず、「週に2回くらいProモデルが使える」「エージェントモードは100回」くらいの中級プランが、7000円くらいで提供されればちょうどいいかもしれません。ぜいたくでしょうか?
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