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「高齢スタッフにしかできない仕事がある」 IT適用の“限界”はどこにある?

「ITリテラシーが低い従業員がいる」「取引先が紙でのやり取りを希望している」――。デジタル化を進められない理由は多くあるが、高齢化が進む日本で無視できないのが、「高齢スタッフがデジタル化を拒んでいる」というケースだ。ある企業の例を見てみよう。

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 筆者の両親は既に80歳を迎えた高齢者だが、幸いにも大きな病気もなく元気に過ごしている。元気なだけでもありがたいことだが、いつも新しいことに挑戦しているアグレッシブな人物でもある。

 ただし、アグレッシブなのは母限定なのだが。

 先日帰省した折には、ラジオ体操の指導員の資格を取り、毎朝近所の人たちを公園に集めて体操していると母は自慢げに語っていた。そして今はタップダンスがマイブームのようで、実家の狭い廊下で簡単な“舞”を披露してくれた。

 そんな活動的で社交的な母の対をなすのが出不精な父だ。いつもソファーに座って小難しい本を読み漁っている。PCに向かって情報を整理していることもあるが、自宅と図書館を往復する毎日のようで活動的とは程遠い。まあ、夫婦なんてそんなバランスでいいのかもしれない。

まだまだたくさんある「高齢者にしかできない業務」

 先日話を伺った人材派遣業を営む企業では多くのスタッフを抱えており、それらを管理するために以前は紙の勤怠カードを使って管理していた。数年前からSaaS系の勤怠管理ソリューションを導入し、FAXで送られてきた紙による勤怠管理から脱却し、PCだけでなくスマートフォンを使って勤怠情報を入力できるようにしたという。

 ところが、管理側にとってメリットが多い半面、従業員からの評判はよいものだけではない。そこには高齢化が進む日本企業の縮図があった。

 まず、管理する本部としては、FAXのデータをOCRで取り込み、全てを手作業で入力せずとも登録できるようにはしていたが、SaaSに移行したことでチェックの時間を大幅に短縮し、月末の締め日から2営業日以内に確定した勤怠情報が経理に展開できるようになったとアピールしていた。勤怠情報がデータ化されれば、その後の経理処理もスムーズになり、関係部署のさまざまなフローが効率化できる。デジタルの恩恵は大きいわけだ。

 紙からの脱却でかなり業務効率化を成し遂げていたものの、現状でも100%移行できているわけではないのが実態だ。若手従業員が多いスタートアップ企業であれば、完全移行も難しくないだろう。また自社のメンバーであれば、ある程度強制力をもってデジタルに移行させることもできる。それでも、「紙でなければ駄目」という場面は存在しているらしい。

 派遣スタッフにはITリテラシーが十分でない方も多いようで、いまだに紙の運用を継続せざるを得ないという。業態は明かせないが、ある事業者は登録スタッフには70歳を超える高齢者も多く、運用を大きく変えることは難しいと吐露していた。高齢スタッフもスマートフォンは所持しているらしいが、小さな画面で勤怠情報を入力するハードルは相当に高い。あるスタッフからは「その運用しか許されないなら、もう辞める」とまで言われてしまったという。

 筆者もいつまで働けるかわからないが、高齢者が元気に働ける環境があることはすばらしい。何せその企業では、人手が不足しているからという理由ではなく、“年配の方でしか対応できない業務”があるから辞められてしまっては困るのだという。取材テーマから外れるため具体的な業務内容まで踏み込めなかったが、高齢者だからこそ活躍できるケースとはどんなものなのか、興味は尽きない。

 これまで高齢者に特化したソリューションをテーマに企画を考えたことはなかったが、確実に高齢化は進むことを考えると、これまでにない切り口での特集も考えられそうだ。

 ちょっと「Gemini」にでも聞いてみるか。


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