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生成AIで業務時間を8割減 NECビジネスインテリジェンスは法務業務をどう変えた?

NECビジネスインテリジェンスはAIの導入により、契約書審査業務の約8割の作業を削減できた。リーガルチェックという専門業務において、AI導入を決定した経緯や活用方法を聞いた。

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 NECビジネスインテリジェンスはNECグループに属し、グループ内の総務・人事や、調達、経理、開発支援事業のプロセス最適化、運用支援といった多岐にわたる業務を支援している。近年は生成AI活用に注力している企業としても有名で、2024年には一般社団法人Generative AI Japanが主催する「生成AI大賞」(Japan Generative AI Award)を受賞した。

 同社の工藤 毅氏(経営企画部門コーポレート企画統括部 コーポレートガバナンス・内部統制グループ) が、ほぼ「1人の法務担当者」として膨大な業務をこなしていた。特に契約書審査業務は1件当たり約8時間もの工数を要し、年間約350件を処理する時期もあったため、担当者は「オーバーフロー」状態に陥っていたという。この状況を打破するため、同社は生成AIを導入して契約書審査業務の工数を8割削減することに成功した。その取り組みの経緯について、担当者に話を聞いた。

1人で年間350件のリーガルチェック 効率化が急務に


NECビジネスインテリジェンス 工藤 毅氏

 工藤氏は当時のリーガルチェックの業務フローを次のように振り返る。

 「契約書が依頼元である社内の統括部からメールで届いたら、まずは案件名や契約者などの情報を『Excel』の台帳に記録します。続いて、依頼元とリモート打ち合わせをして契約内容を聞き取り、どのような方向性で契約書をまとめるべきかを決定。そこから契約書をチェックし、記入漏れしている項目や自社に不利益な項目、自社の事業特性に合っていない項目などがあれば修正します。そして、必要な場合は依頼元と再度リモート打ち合わせを行ってさらに契約書を修正し、ようやく完成という流れでした」


(出典:NECビジネスインテリジェンスの提供資料)

 この所用時間はあくまでモデルケースだが、1件当たり475分、つまり約8時間近くかかる計算になる。工藤氏は平均して年間約200件、多い年で約350件ものリーガルチェックを実施しており、かなりの負担を感じていたという。

 工藤氏にはリーガルチェックに加え、株主総会やM&A関連業務、社内向けの法務研修、社内からの法務相談といった役割もある。そのため繁忙期になると、仕事量が多すぎてオーバーフローを起こしていた。

 「上半期末の9月と年度末の3月には、月間数十件のリーガルチェックが集中します。この時期は他業務も重なり、審査対応の遅れが頻発していました。契約書審査の質を維持しつつ、ほぼ一人体制による見落としリスクを解消する必要がありました。しかし、人的リソースの拡充は困難だったため、別の方法でダブルチェック体制を構築したいと考えていました」(工藤氏)

 そうした折、2022年11月に「ChatGPT」の登場とともに生成AIブームが到来した。工藤氏はAIでリーガルチェックを効率化する計画を立案。LegalOn Technologies社に声をかけ、AIで法務業務を効率化する「LegalOn Cloud」のトライアルを実施した。

 LegalOn Cloudは、契約リスクや法令順守のチェック機能、自社の契約書のひな形との比較機能、条番号のずれや表記のゆれを一括修正できる機能などを備えたサービスだ。「Microsoft Word」のファイルをそのまま編集、書き出しできるエディターが搭載されていたり、カーソルを当てるだけで定義語や引用されている条文の内容が確認できたりするなど、編集作業を支援する機能もある。

 2023年、工藤氏はリーガルチェックの機会がある他部署も巻き込み、LegalOnのトライアルを実施した。その結果、契約書審査などの工程を以前よりずっと短縮できることが分かったという。

 「契約書の内容をLegalOnに入力してボタンを押すと、AIが自動で『委託料の内訳が契約書に書かれていない』『高額な遅延損害金を請求される危険性がある』などのリスクチェックをし、修正案を提案します。これは大きな助けになると感じました。チェックや修正のレベルについては、人間と比較して遜色ないという印象でした」(工藤氏)


NECビジネスインテリジェンス 西田浩司氏

 現状、LegalOnが人間の仕事を完全に代替できるわけではないと工藤氏は言う。システム開発など高度で専門的な案件では、リーガルチェックの難易度も高く、AIの提案に対して大幅な修正が必要になる。一方、業務委託契約書や秘密保持契約書など、内容がある程度定型化された契約書では、AIによるリーガルチェックの自動化が十分可能だ。現在、業務でLegalOnをよく利用しているという西田浩司氏(経営企画部門コーポレート企画統括部 コーポレートガバナンス・内部統制グループ)は次のように話す。

 「複雑ではない契約書はLegalOnに多くを任せ、人間は簡単な確認をするだけにとどめます。一方、高度な契約書ではLegalOnを『たたき台』として活用し、人間がしっかりとダブルチェックを行って万全な対応を取ることにしました。業務効率を高めながら質を担保するには、人とAIの役割分担が重要だと感じています」(西田氏)

 なお、工藤氏はLegalOn以外にも幾つかの競合サービスを比較検討した。その中でLegalOnを選んだ決め手は、契約書審査の質の高さと、締結後の契約書をAIで管理するデータベースサービスを利用できることだった。

 「当時の契約書は、契約を結んだ部署ごとにクラウドストレージでバラバラに管理されていました。そのため、他部署の契約内容を確認する際は、探すのに相当な手間がかかっていました。その点、LegalOnのデータベースを導入すれば、契約書の検索性が大幅に向上すると考えました。加えて、LegalOn Technologiesは当時から、リーガルチェック用AIと契約書管理データベース用AIの統合を明言していました。それが実現すれば契約書管理がさらに効率化されると見込めたことも、LegalOnを選んだ大きな理由でした」

 2025年現在は、リーガルチェックAIとデータベースAIが統合されている。契約書の修正が完了して保存すれば、自動的にデータベース上に保存される仕組みのため、管理の手間もかからない。

 トライアルで手応えを得て、正式導入したのは2024年10月だった。社内の統括部長が集まる会議で工藤氏がLegalOnの導入を発表したところ、反対意見や不安の声は一切出なかったという。

次の課題はAIエージェントによる自動化や省力化の取り組み

 リーガルチェックの業務フローは、LegalOn導入後、図2のように変化し、契約書審査の工程を大幅に省力化できた。


(出典:NECビジネスインテリジェンスの提供資料)

 LegalOnにより、以前は240分かかっていた作業が約30分に短縮された。AIのアシストで契約書の修正作業も減り、確認・チェック工程を大幅に省力化できた。

 「LegalOnの導入によって86%もの時間が削減できました。一般的に、リーガルテックの領域では30〜40%の工数削減で成功と言われますから、これは期待以上の成果だと思います。また、依頼元からの評判も上々で、AIリーガルチェックへの満足度は85%という高い水準です」(工藤氏)

 LegalOn導入によって生まれた時間を、工藤氏は次の取り組みに振り向けようとしている。中でも力を入れているのが、AIエージェントを活用した業務改革だ。

 「早期に実現したいのは、AIエージェントを活用した契約書の自動作成、AIエージェントによる法務相談への対応などです。これらについてはLegalOn Technologiesにもご協力をいただき、現在、PoC(概念実証)の段階に入っています。また、AIエージェントについては、生成AIの社内活用を目的にNECグループが立ち上げた取り組み『NGS(NEC Generative AI Service)』も活用できないかと模索しているところです」(工藤氏)

 なお、今回の契約書審査、リーガルチェックの試みは、NECビジネスインテリジェンス社内向けの業務に限定した取り組みだ。

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