ソフトバンクと東芝のAI活用、導入事例と展望をデル主催フォーラムで紹介
デル・テクノロジーズは10月3日に、年に一度の同社最大規模フォーラムを実施。ゲスト講演ではソフトバンクと東芝のAI責任者が登壇し、各社のAI活用への取り組みや目指すべき方向性を語った。
デル・テクノロジーズは2025年10月3日、同社が毎年実施している「Dell Technologies Forum」を、港区のザ・プリンスパークタワー東京で開催した。
冒頭の基調講演では、同社の代表取締役会長である大塚俊彦氏と代表取締役社長グレンジャー・ウォリス氏に加え、グローバルCTO(最高技術責任者)兼CAIO(最高AI責任者)を務めるジョン・ローズ氏が登壇。
また、ゲスト講演者として、ソフトバンクの専務執行役員兼CIOである牧園啓市氏と、東芝で上席常務執行役員最高デジタル責任者を務める岡田俊輔氏が各社のAI活用を紹介した。
ソフトバンク「データの理解が重要」、国産LLMでAI共存の基盤を作る
ソフトバンクの牧園啓市氏は、同社の孫正義社長が7月に提唱したグループ全体で10憶のAIエージェントを作る構想について触れ、「10億と数えられるということは、管理でき、IT責任者として“見える”ということ。野良RPAや野良SaaSといった、管理できず見えていなかったものを可視化できるとポジティブに捉えている」と述べた。
同社では、10億のAIエージェントを作成するためには、まずは、従業員約5万人に対して100のエージェントを作ることを呼びかけている。牧園氏は、「ソフトバンクではAIを浸透させるためにこれまでもさまざまな取り組みを行ってきたが、それでもAI利用率は社員の50%程だった。しかし、この呼びかけをきっかけとして100%へ向上した」とし、AIに対する従業員の理解や活用推進における影響も大きいとした。
続いて、現在ソフトバンクが展開するAI活用例の一つとして、OpenAIと共同開発を行っている最先端AI「クリスタル・インテリジェンス」を紹介。その制作に携わる中で実感したこととして、「今、保有しているデータをどのように生かすかだけでなく、今、保有していないデータをデータをどうやって獲得するかが重要」と、AIにおけるデータ収集の必要性を説明した。
AI活用におけるガバナンスについても触れ、「ヨーロッパでは、開発者と配布者、事業者、利用者それぞれの立場に応じて責任が明確に定められているが、日本では提供者と利用者となっている」とし、その影響として、日本の事業者が海外製LLMを利用し日本でサービスを提供した場合、本来LLM開発者が負う責任を事業者が被るリスクがあると指摘。日本においては「事業者が自身の活用しているAIやLLMについて理解することが非常に重要」だと述べた。
加えて、先行している欧州に続き、日本においてもデータ主権という概念の整理が進んでいることに言及。AIが含んでいるデータを理解し、それが日本の法制度に適合しているかどうかをチェックすることが非常に重要だとし、そのためにソフトバンクが注力する取り組みの一つとして、日本語国産LLM「Sarashina」の開発を紹介した。
ソフトバンク子会社のSB Intuitionsが開発する同LLMは、AI開発における基盤として、分野ごとのAIを正しく成長させる“先生”の役割を果たす。「各分野に特化した専門家AIを作るには、大本となる優れた基盤が必要だ」とし、同LLMの重要性を述べるとともに、「安心安全にAIと共存できる基盤を作ることが、われわれの方向性だ」と語った。
また、国産LLMのAI計算基盤の構築に必要となるGPUへの投資状況として、計算処理能力25.7エクサフロップスを超える性能実現を目指していることを説明。その実装に伴い、現在のサーバ冷却方式である空冷から液冷(DLC)への移行を進め、消費電力やCO2排出量を大きく減らすなど、環境面への取り組みも行っているという。
東芝「失敗し腹落ちした上でお客さまに提供」、会社の枠を超えたデータ活用も
続いて登壇した東芝の岡田俊輔氏は、同社がどのように業務改善やビジネスに生成AIを生かしているかについて、事例とともに紹介した。
東芝では、社員がAIを活用するための仕掛け作りとして、全社的な生成AI活用プロジェクトを推進しており、100人を超えるメンバーが参加している。
2025年には、東芝グループの全従業員にAIの活用ガイダンス実施。2025年7月時点では約1万6000人が「Microsoft Copilot」を日常的に活用しており、利用者を対象にしたアンケート結果からの算出によれば、1人当たり月に6.9時間の期待効果が得られたという。
岡田氏は、「AIの導入には、トップダウンおよびボトムアップ両面でのアプローチが必要」とし、「東芝従業員の一人一人がAIのインパクトを理解し、活用によりどのような改善につながるかを、我が事として考え利用していくことが重要だ」と説明する。
顧客に向けたサービスにおいては、「自分たちがやって失敗をすることが大切。その上で、腹落ちしたことをメソドロジー化しながら、お客さまにサービスとして提供する」と説明。
「お客さまごとに業務課題や狙いは違う。汎用(はんよう)的にお客さまのやり方を、こうすれば問題に気付くのではないか、というメソドロジーを手の内化して提供していく」「導入・検討・検証、そして本番で導入すること、さらには運用定着・活用を、お客さまと一緒に進めていくサービスを提供していきたい」とした。
その一つの事例として岡田氏は、奥村組への導入を紹介。「建設業というのはナレッジの塊。チームごと個人ごとのナレッジを次世代にどう引き継いでいくのかを課題として持っていた」とし、導入へのディスカッションを行う中で、「AIというのは企業文化と寄り添って定着していくものだと痛切に感じた。奥村組の良さやノウハウを生かしたシステムを作っていくことに行き着き、導入をスタートした」と、事例を説明した。
また、講演の最後に岡田氏はエネルギー業界を例に挙げ、
「電力が流れなくなった、プラントが壊れたとなると数十億単位の損害が発生するが、日々発生し得るトラブルを未然に防ぐためには、1社だけのデータでは全て網羅できず、他の会社のデータや実際に運用されているデータも必要」と、データ集積の重要性を説明。
「AIはデータがなければ活用できないため、汎用的に集めるデータが非常に重要。必要に応じて会社の枠を超え、データを活用できる環境が生まれることが、AI活用の段階を一歩上げることにつながる」とし、課題解決のためにはオープンマインドにデータを活用していくことが重要であることを提唱。「この一遇のAI活用のチャンスを、一緒に越えていきたい」とした。
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