AI時代に求められるエンジニア像とは、意識調査で見えるキャリアと現場への影響
CloudIntは現役エンジニアを対象に「AI時代におけるエンジニアのリアルな意識とキャリアへの影響」というテーマでアンケートを行った。業務におけるAIの使用目的や、AIによるキャリアへの影響などを尋ねる質問により、AI時代のエンジニア像を調査した。
現役のITエンジニアを対象とした「AI時代におけるエンジニアのリアルな意識とキャリアへの影響」に関する調査結果が発表された。
AIを使ったコーディングはITエンジニアの生産性向上に大きく寄与している。ともするとAIがあればコーディングエンジニアはいらない、といった言説も聞こえてくるが、果たしてITエンジニアは自身のキャリアをどうとらえているのだろうか。
エンジニアがAI時代に生き残るために必要な思考は
調査はプログラマー向けの学習・転職情報サイトを運営するCloudIntがインターネット調査「AI時代におけるエンジニアのリアルな意識とキャリアへの影響」の結果を発表した(インターネット調査、調査対象人数1008人)。
質問「現在、業務で使用しているAI」では、「ChatGPT」が56.0%と最も多かった。2位は「Gemini(旧Bard)」27.1%、3位は「GitHub Copilot」23.1%で、以降「Copilot」20.5%、「Claude」16.5%、「Amazon Q Developer」11.5%、「Notion AI」9.4%などと続いた。
質問「業務でAIを使用している目的」では、最も多かった回答が「コーディングの補助」で45.3%。続いて「ドキュメントの自動生成・要約」42.9%、「アイデア出し・技術調査」42.0%となり、以降「バグ修正やデバッグの支援」39.0%、「プロンプトの試作、自動化ツールの開発」23.4%、「英語の文章の翻訳、生成」23.3%、「設計レビューへの活用」19.0%などと続いた。
コーディングの補助に加え、ドキュメントの自動生成・要約が上位に挙がったことから、開発だけでなく設計書や議事録、技術資料の作成支援といった分野にもAIが浸透しつつあることが推測できる結果となった。
続いての質問「AIに仕事が奪われると感じたことがあるか」では、22.7%の回答者が「とてもある」、43.5%が「ややある」と、約7割の人が“ある”と回答した。「あまりない」25.0%、「まったくない」8.8%と“ない”という回答よりも多い結果となった。
「将来的にAIはエンジニアの仕事をどう変えるか」(複数回答)という質問には、「より創造的な業務や設計・上流工程の重要性が増すと思う」が53.1%と最も多く、次いで「多くの定型的なコーディング業務はAIに置き換わると思う」44.2%、「エンジニアとAIの分業が進み、役割が変化すると思う」41.1%が挙がった。その他、「専門領域に特化したエンジニアが生き残ると思う」18.4%、「特に変化しないと思う」4.5%となった。
AIによる自動化を前提に、人間にしかできない創造的な判断や構想力に関心が移りつつあることや、AIを“競合”ではなく”協働するパートナー”と位置付ける意識の高まりが示された。AIが“エンジニアの価値を再定義する契機”として受け止められている傾向にあるとも考えられる。
AI活用で「キャリアに差がつく」回答9割、使用での不安や障壁も
「AIを使える人と使えない人で将来のキャリアに差がつくか」という質問では、「非常に差がつくと思う」38.2%、「ある程度差がつくと思う」52.6%と、9割超が差がつくと思うと回答し、「あまり差がつかないと思う」7.0%、「まったく差がつかないと思う」2.2%の合計を大きく上回った。
多くの人がAIスキルを“キャリア形成に欠かせない要素”として認識しており、AIリテラシーはもはや専門スキルではなく“ビジネススキル”としての位置付けが強まっている傾向が伺える。
「あなたが感じるAIのメリットは何か」(複数回答)については、「作業スピードの向上」(50.3%)が最も多く、以降「ミスの低減・品質向上」44.8%、「アイデアの発想補助」38.8%、「学習コストの低減」28.1%、「プログラミング学習やキャッチアップに役立つ」28.1%、「単純作業の自動化による生産性向上」21.5%、「英語の文章の理解や出力に使える」20.7%などと続いた。
AIの支援を前提に高い精度の成果を短時間で出す働き方が広がり、AIを単なるツールではなく、思考や発想を後押しする存在として受け止める意識が強まっていることが分かる結果となった。
「あなたが感じるAIの不安・懸念点」(複数回答)という質問では、「情報漏えいなどセキュリティリスクがある」が36.1%、「著作権やライセンスの問題」が35.2%、「出力内容の正確性や信頼性に不安がある」が32.8%と上位を占めた。その他、「技術的な依存が進み、スキルが落ちそう」26.7%、「ブラックボックスで動作が理解しづらい」26.0%、「AIが仕事を奪うのではという不安」18.2%、「社内での使用ルールが曖昧、整備されていない」12.5%などが挙がった。
情報漏えいのセキュリティリスクや、AIが生成したコードや文章の扱いの曖昧さにおいて、企業の情報管理体制や法的整備、社内ルールの明確化が求められている。また、AIの回答をうのみにせず、検証や補完を行う姿勢の重要性も伺える。
「AIを業務で使用する上で、障壁になっているものは何か(複数回答可)」という質問では、「社内ルール・ガイドラインが整備されていない」34.9%、「出力内容の正確性や信頼性への疑問」33.6%、「情報漏えいなどのセキュリティの不安」30.3%、が上位となり、以降「周囲に使用している人が少ない、相談できる人がいない」26.2%、「英語の壁(英語のプロンプトやドキュメント)」21.1%、「自分のスキルで使いこなせる自信がない」14.7%、「業務で使用が禁止されている、制限されている」7.6%などと続いた。
社内ルールによる判断基準が曖昧なまま運用されている状態や、成果物をどのように検証して品質を担保するかというプロセス上の課題などが問題視されており、個人のスキル向上だけでなく、企業としてのガバナンス体制と運用ルールの明確化が重要といえる。
AIを“導く力”へ意識シフト、共に成果を生むことに価値見いだす
「今後、エンジニアとしてAIに関してどのようなスキルを身につけたいか」(複数回答)では、「AIモデルの構造や仕組みの理解(例:Transformerなど)」が46.9%と最も多く、以降「自社業務へのAI導入・PoC企画力」36.3%、「プロンプトエンジニアリング」33.2%、「AIの倫理やガバナンスへの理解」28.5%、「AIと連携したアプリケーション開発」18.6%、「特に学びたいことはない」8.1%と続いた。
この結果について「全体として、エンジニアは"AIを使う人"から"AIと共に価値を生み出す人"へと意識をシフトさせており、技術や企画を横断的に理解できるハイブリッド人材の重要性が今後一層高まると考えられる」とCloudIntは評価している。
「AIがコードを書く時代に、エンジニアの価値はどうあるべきか」について尋ねた自由回答項目では、「創造性や柔軟な発想力など、人にしかできない部分を伸ばすべきだと思う」や、「AIを使いこなすことでより高度な課題を解決できるようになると思う」「AIが出した結果をそのまま受け入れず、正確性や妥当性を判断する力が重要」「チームでのコミュニケーションや要件定義など、人間同士の理解が求められる領域に価値が残る」「新しい技術を受け入れ、AIと協働できるエンジニアこそ今後必要になると思う」といった回答が挙がった。
自由回答からは、AIの台頭を脅威と捉えるよりも、「AIにできないこと」「AIを生かす力」に人間の価値を見いだす声が多かった。また、若い世代では、AIを使いこなす前提で「課題解決力」や「創造的思考」を磨こうとする意識が強く、スキルの方向性を現実的に捉えている様子が伺える一方、30代から40代では、AIが出力した情報を正しく評価する力や、チームで成果を生み出す“人間としての価値”に注目する声が目立った結果となった。
今回の調査でCloudIntは、「総じて、エンジニアの価値は“AIをどう使うか”から“AIとどう共に成果を生むか”へと移行している」とし、「技術と創造性の両輪を備えたエンジニアこそ、これからの時代に真の競争力を持つ存在になるといえる」としている。
調査データ出典:CloudInt
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