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「レガシーシステムが悪いとは思わない」 レガシー脱却を阻む2つの壁が判明【調査】企業に残るレガシーシステムの実態(2025年)/前編

約7割の企業がレガシーシステムを残していることが、キーマンズネットの調査で判明した。大多数の企業が刷新したいと考えていることが明らかになる一方で、「レガシ―システムが残っていることが悪いとは思わない」という声も寄せられた。レガシー脱却を阻む「2つの壁」とは何か。

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 「2025年の崖」の年が終わろうとしている現在、キーマンズネットが実施した調査(「レガシーシステムに関する実態調査(2025年)」(実施期間:2025年11月6日〜14日、回答件数:185件)で、回答した企業の約7割に何らかの形でレガシーシステムが残っていることが分かった。

 キーワードとして独り歩きした感のある「2025年の崖」は、2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート 〜ITシステム2025年の崖の克服とDXの本格的な展開〜」(注1)がレガシーシステムがDX推進の足かせになっている現状に警鐘を鳴らす意図で提唱された言葉だ。同レポートでは、レガシーシステムが放置された場合、経済的な損失が最大年間12兆円に上ると予測していた。

 今回キーマンズネットが実施した調査ではレガシーシステムを「長期間にわたってほとんど何も変えておらず、肥大化・複雑化やブラックボックス化が進んだ結果、経営戦略上の足かせになったりAIをはじめとする新技術の導入を阻害したり、高コスト構造の原因となっているシステム」と、DXレポートの定義に準拠する形で定義した。前編となる本稿では、企業における刷新計画の進捗(しんちょく)状況を明らかにし、レガシーシステムが引き起こすと考えられている問題と、刷新が停滞している理由に迫る。

大多数が「刷新したい」が手を付けられない その理由は?

 冒頭で触れたとおり、今回回答した企業の7割にレガシーシステムが残っている。その内訳を見ると、「一部分存在する」が41.1%で最も多く、「多数存在する」(16.2%)、「ほとんど存在しない」(13.0%)が続いた(図1)。

図1 自社にレガシーシステムは存在しているか
図1 自社にレガシーシステムは存在しているか

 従業員規模別にみると、501人超の企業が8割超と、500人以下の中堅・中小企業よりも多く残っていることが分かった。業種別では機器・ソフト製造やIT製品販売といったIT関連業、自動車や建設、食品などの製造業が7割超で全体平均よりも高い傾向にあった。

 レガシーシステムの刷新については多くの起業がその必要性を感じているようだ。刷新について「喫緊の経営課題として位置付けている」(26.2%)と「必要性は感じているが、優先順位は高くない」(50.8%)を合わせると、77.0%が必要と回答した(図2)。

図2 レガシーシステムの刷新は必要か
図2 レガシーシステムの刷新は必要か

 そもそもレガシーシステムが問題視されるのは、刷新しないことで何らかのデメリットをもたらすと考えられているからだ。

 レガシーシステムが引き起こす問題、あるいは引き起こす可能性がある問題として多く認識されているのが、「システムの運用・保守コストの増大」(47.0%)や「IT人材の不足・高齢化により技術継承が困難」(43.2%)、「セキュリティリスクの増大」(38.4%)といったコストやリスクの増大、運用自体が立ちいかなくなることに対する懸念が多く挙がった(複数回答可)。

図3 レガシーシステムが引き起こす問題(引き起こす可能性のある問題)(複数回答可)
図3 レガシーシステムが引き起こす問題(引き起こす可能性のある問題)(複数回答可)

 一方で、DX推進の目的として近年挙がることの多い「新規事業の立ち上げや新サービス開発」は10.9%、「顧客体験(CX)や従業員体験(EX)」は11.9%にとどまった。DXレポートがレガシーシステムを「DX推進を阻むもの」として位置付けているのに対し、実際にレガシーシステムを抱えている企業の懸念は足元のコストやリスクに多くの票が集まっているのは興味深いポイントだ。

 なお、「特に問題は起きていない」という項目も19.5%と一定数の票を集めている。

「レガシー刷新が進まない」2+1の理由

 企業におけるレガシーシステム刷新はどの程度進んでいるのだろうか。進捗状況を尋ねる設問に対し、「刷新の対象となっていた全てのシステムの刷新が完了した」は8.6%にとどまった。「刷新プロジェクトが進行している」(16.2%)や「具体的な刷新計画があり、実行を準備中」(9.7%)、「刷新計画の立案に向けて情報収集中、検討中」(7.6%)を合わせた進行フェーズにある企業は33.5%だった。

 一方で「具体的な検討には至っていない」(19.5%)や「刷新する予定はない」(10.8%)、「以前、刷新計画を実行、あるいは検討したが、頓挫した」(2.7%)を合わせた停滞フェーズは33.0%と、進行フェーズ(33.5%)と拮抗している(図3)。

 では、77.0%が刷新の必要性を感じているものの、なかなか進まない要因は何だろうか。レガシーシステム刷新を「検討中」「検討に至っていない」「頓挫した」「刷新する予定はない」とした回答者にその理由を尋ねたところ、「刷新のための予算が不足している」が21.3%でトップに挙がり、「刷新を担うIT人材が社内に不足している」(14.7%)が続いた。

 より詳しくみると、「検討中」や「刷新する予定はない」と回答した企業では、予算不足や人材不足とのリソース不足の他、「経営層の理解が得られない」や「事業部門の協力が得られない」など社内の非協力な姿勢が影響しているとの回答にも一定の票が集まった。回答者数が少ないため参考程度だが、レガシーシステムが「多数存在する」「一部分存在する」との回答でクロス集計した場合も同じ傾向が見られる。こうしたことから、現場がレガシーシステムの刷新を進めたいと考えていても、経営や周囲の理解を十分に得られずに予算や人材が確保できず、実行に至らない実態が見えてきた。

レガシーシステムをあえて刷新しない企業も多い

 一方で「検討に至っていない」や「頓挫した」を選んだ回答者を中心に、レガシーシステムの刷新が進まない理由として、「現状システムで業務が回っており、差し迫った必要性を感じない」という項目にも一定の票が集まった。フリーコメントでは「レガシーが悪いとは思わない」や「刷新が絶対の正義ではない」「刷新の必要がないから」など現状維持を表明する回答者も見られた。刷新が進まない背景にはリソース不足以外にも「そもそも課題と認識していない」という“意識の壁”も存在していることが分かった。

 前述の通り、AIをはじめとする新技術への対応や全社でのデータ活用が進まないことや、ビジネスのニーズへの迅速な適応が難しいこと、システムの保守・運用にかかるコストの増大、担当者の高齢化や部品の供給停止によるシステム維持の困難さ、セキュリティリスクなどレガシーシステムを刷新しないデメリットは大きい。

 一方で、刷新しない場合は開発・導入コストを追加する必要がなく、移行リスクを回避できるなど、刷新しないメリットもあることは事実だろう。前項でも多く票が集まっている「刷新によって業務が停止するリスクが許容できない」ことも、刷新を阻む一因として大きなハードルとなっていそうだ。

 以上、前編では企業におけるレガシーシステムの有無や刷新計画の進捗状況、刷新停滞の理由を中心に取り上げた。後編では、主に刷新計画が進行している企業を中心に、プロジェクト実行時に直面しがちな課題や、レガシーシステムをめぐって実際に起きている問題を紹介する。

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