発売から40年、伝説のCPU「Intel 386」に見つかった“おきて破り”な設計:858th Lap
1985年に登場したIntel 386は、32bit x86アーキテクチャを初めて採用し、マルチタスクや仮想メモリを実現した伝説的CPUだ。最新のリバースエンジニアリング研究により、スタンダードセル設計では説明できない奇妙な回路が存在することが分かった。
「Intel 80386」、通称「Intel 386」または「i386」は、1985年にIntelが発表した32bit CPUだ。従来の16bitから大きく進化し、初めて32bitのx86アーキテクチャを採用した。32bitのデータおよびアドレス空間を扱える他、マルチタスクや仮想メモリなどの機能を備え、PCの性能向上に大きく貢献した。
Intel 386の命令セットアーキテクチャである「IA-32」は、その後のIntel製32bit CPUの基盤となり、現行の主流である64bit CPUでも互換性が維持されている。現代のコンピュータ技術の礎を築いた、歴史的に極めて重要なCPUと言える。
レジェンド級のIntel 386について、最近の研究で幾つかの奇妙な点が見つかったという。
冒頭でも触れた通り、Intel 386は現代のCPUやSoC(System on a chip)の原点とも言えるレジェンド級の存在だ。その発表から40年が過ぎた2025年になっても研究が続けられており、その過程で幾つかの“異常な設計”が発見された。
この話題は、エンジニアのケン・シリフ氏が2025年11月に自身のブログ「Ken Shirriff's blog」に掲載した記事「Unusual circuits in the Intel 386's standard cell logic」(インテル386の標準セル論理における特殊回路)が広まったことにある。同記事でシリフ氏は、Intel 386内部に「Unusual circuits」(奇妙な回路)が存在することを指摘している。
シリフ氏は古いコンピュータの研究・修復に長年取り組んできた人物で、最近はIntel 386のリバースエンジニアリングを進めている。今回の記事は、その研究で得られた成果の報告だ。
1985年に発表されたIntel 386は、当時のIntelにとって過去最大級の複雑さを誇るプロセッサだった。1.5マイクロメートルプロセスで28万5000個ものトランジスタを搭載していて、従来の手動レイアウト設計では対応しきれず、開発遅延が懸念されていた。
そこで採用されたのが、論理ゲートを標準回路(スタンダードセル)として扱い、自動配置・配線で設計する「スタンダードセルロジック」だ。インバーターやNAND、ラッチなどをブロック化し、それらを組み合わせてソフトウェア上で配置していく手法で、レゴブロックのように部品を組み上げることで設計効率を大幅に高めた。この技術の導入により、Intel 386は予定よりも早く完成し、後のプロセッサ設計手法にも大きな影響を与えることとなる。
だが、シリフ氏は調査で、その内部にスタンダードセルでは説明しきれない設計が存在することを明らかにした。
まず指摘されたのが「巨大なマルチプレクサ」だ。複数の信号を切り替えるこの回路はCMOSスイッチを使った特殊な構成になっており、スタンダードセルへ分解できないほど大規模で、フルカスタム回路として組み込まれている。シリフ氏は、その理由を「制御ロジックの簡素化や配線削減のため、多入力のマルチプレクサを1つにまとめたかったのだろう」と推測している。
次に挙げられたのが、レイアウト規則から外れた単体トランジスタだ。自動配置のルールを無視して追加されたこのトランジスタは、バグ修正や後付けの設計変更の結果として、手作業で挿入された可能性が高い。
さらに、偽のインバーターも発見された。外見はインバーターだが、実際には独立したNMOSとPMOSが並んでいるだけで反転機能を持たないダミーセルで、これも配置や配線上の都合から“そこに必要だった”と考えられるという。
シリフ氏は、Intel 386の大部分は整然としたスタンダードセル設計で構築されていたとしつつ、これら3つの「異例の回路」を冷静に紹介している。決してやゆするのではなく、むしろ当時の技術者たちの工夫の痕跡として捉えている。
実際、記事の終盤では「スタンダードセルロジックや自動配置・配線技術の歴史は1970年代初頭にさかのぼり、Intelが発明したものではない。とはいえ、リスクの高い時代にこの技術の採用を決断した386チームは称賛に値する」と高く評価している。
今回明らかになった3つの奇妙な仕様は、当時のスタンダードセル設計技術にはまだ限界があったこと、そして、その限界に挑んだエンジニアたちの創意工夫がIntel 386の内部に刻まれていることを示している。手作業から自動化へと移行する最前線の姿を伝える貴重な発見と言えるだろう。Intel 386が果たした役割とともに、今回見つかった異例の設計手法も心に留めておきたい。
上司X: Intel 386をリバースエンジニアリングしてみたら、どうにも妙なところが見つかった、という話だよ。
ブラックピット: Intel 386! なかなか昔のCPUですねえ。
上司X: まあ、ざっと40年前のCPUだからな。でも、その基本アーキテクチャは今もIntel製CPUに受け継がれているんだよ。
上司X: 妙なポイント「巨大なマルチプレクサ」「レイアウトに収まらないトランジスタ」「偽のインバーター」と3つ並べるだけでも、何かこう怪しい感じですね。
ブラックピット: 確かに興味をそそられる。
上司X: でも、奇妙なだけでそれぞれしっかり意味がありそうだ、という推測ですね。
ブラックピット: そう、実際のところは、スタンダードセルロジックへの移行を進める中でのエンジニアたちの努力と工夫のたまものらしい、という分析だ。
上司X: 最初は何を好んで40年前のチップのリバースエンジニアリングなんてしているんだ……と思いましたが、これを発見できただけでもスゴく大きな意味がありますね。
ブラックピット: まったくだ。Intel 386のチップの中にまさに歴史が刻まれていた、という感じだな。設計の自動化とエンジニアの手仕事が混在していたからこそ残された、ある種の遺跡みたいなものかもしれない。もっと研究を深めて新発見を披露してもらいたいものだよ。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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