「ひとり情シス」増加の“怪” 最も人員を削っているのはどんな企業?【調査】
ノークリサーチの調査によると、企業における「ひとり情シス」の割合が増加している。近年、DX推進などで業務範囲が増加傾向にある情報システム部門で起きている人員減の背景とは。
近年、IT戦略の策定やDX推進策の実施など情報システム部門に期待される業務範囲が拡大している。利用するSaaSが増えてシステムは複雑化する一で方、従来のIT管理・運用の業務負担も重くなり、情報システム部門担当者の業務量は増え続けている。
しかし、キーマンズネットが実施した調査によると、人員増を予定している企業は少ない。さらに大企業に比べて情報システム部門の規模が小さい傾向にある中堅・中小企業では、業務量に対する人員の少なさが課題になっている。
「ひとり情シス」を増やしているのはどんな企業?
こうした中、調査会社のノークリサーチは「近年、『ひとり情シス』が増えているのではないか」という質問を受けることが増えたという。
同社が実施したユーザー企業における「ひとり情シス」の実態とDX(デジタルトランスフォーメーション)、ITソリューションや生成AI活用における課題やニーズとの関連性についての調査によると、実際に「ひとり情シス」は増加しているようだ。
なぜ今、「ひとり情シス」が増えているのか。「ひとり情シス」増加の背景にある企業のIT管理、運用の在り方に関する変化とは。
同調査によると、年商500億円未満の中堅・中小企業全体における情シス担当、部門の人員数を2023年と2025年で比べた結果、「2〜5名」「6〜9名」「10名以上」が減少する一方で、「1名(=ひとり情シス)」だけ若干だが増加している。
このように中堅・中小企業全体では「ひとり情シス」の割合が増加しているが、事業規模によって違いが見られる。図1が示すように、年商5億〜50億円の中小企業層では2023年と2025年の人員数の変化が比較的小さく、「ひとり情シス」の割合も若干減少している。
さらに、人員数が同じでも、「兼任」と「専任」でユーザー企業のIT活用における課題やニーズは大きく異なる。業務の全てをIT管理、運用に費やせる場合(専任)と、間接部門(総務・人事・法務など)や現場部門における業務の傍らでIT管理や運用を担っている場合(兼任)では、同じ人数でも負担が大きく変わる。
年商5億〜50億円の中小企業層における「兼任」「専任」の変化を示した図2によると、人員数に目立った変化が見られないものの、「専任」が大きく減少し、「兼任」が大幅に増えていることが分かる。人員数は同じでも兼任が増加することによってIT管理、運用の実質的な人員不足が発生しているケースもある点に注意する必要がある、とノークリサーチは指摘する。
DX、ITソリューションを導入、活用する際にはIT管理、運用の人員体制に起因する課題がどのように影響するかを把握することが重要だとノークリサーチは指摘する。DX、ITソリューション導入で業務フローに変更が生じた際の「情シス人員側の耐性」に注意する必要があるからだ。
図3は、DX、ITソリューションに取り組む際の課題のうち、「業務フローを変更すると逆に効率が下がる」と「既存システムの管理、運用で手一杯である」の課題の回答割合をIT管理、運用を担う人員数別に集計した結果を抜粋したものだ。
「既存システムの管理、運用で手一杯である」という課題はIT管理、運用の人員数が増えるにつれて回答割合も高くなっている。一方、「業務フローを変更すると逆に効率が下がる」は「2〜5名」と「6〜9名」の方が「10名以上」よりも値が高い。
これは、DX、ITソリューション導入によって業務フローに変化が生じると、IT管理、運用に従事する人員数が2〜9名では従業員からの問い合わせに対応しきれなくなり、逆に業務効率が下がる可能性があることを示唆しているとノークリサーチは指摘している。
同調査は、ユーザー企業のIT管理や運用を担う人員体制の推移や課題、ニーズを探るため、国内企業800社の経営層またはIT活用の導入および選定、運用に関わる職責者を対象に2025年5月に実施された。
なお、IT関連業務を1人でこなす「ひとり情シス」は、業務範囲の広さや業務量の多さが本人の負担になるばかりでなく、インシデント発生時の初動の遅れをはじめとする事業へのリスクも懸念される。 「ひとり情シス」が増える中で今後のIT管理、運用はどのような影響を受けるのか、注視したいところだ。
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