クラウド活用で進む地方自治体のDX実例、小規模でも進められるデジタル変革の方針とは
Box Japanは公共機関向け取り組みに関する説明会を開催した。新潟県や北九州で実際に活動するDX担当者も交え、自治体がどのようにクラウド活用すべきかを4人の専門家が語った。
Box Japanは2025年12月9日、説明会「Boxの公共機関向け取り組みに関するメディアラウンドテーブル」を実施した。
説明会では、Box Japanの森義貴氏やBoxのムルタザ・マスード氏に加え、実際に公共機関で導入を担当している新潟県の佐藤圭祐氏、北九州市の高尾芳彦氏がが登壇した。
日本においてガバメントクラウドへの移行や行政文書のデジタル化などが急務となっている中、どのようにクラウドサービスを活用して公共機関がDXを推進するべきか、地方自治体におけるDXの実例も交えて説明した。
小規模組織だからこそのクラウド活用推進術、より身近な行政に変革
説明会冒頭では、Box Japan公共営業部の森義貴部長が自治体の「Box」導入状況やクラウド活用の状況について述べた。
森氏はBoxの公共機関向け採用件数の推移を説明し、2023年12月時点では80だった数が、2025年11月には350と4倍以上に伸びていることや、2025年8月には防衛省航空自衛隊の業務インフラへの導入によって約5万人が活用していると話した。
また、森氏は小規模な自治体での導入例として北海道八雲町を紹介した。350人規模の自治体ではあるが導入が非常に進んでいるとし、「大きな組織ほど金額など調整すべきことが複雑になる。一方で小規模の組織がクラウドを活用しようとさまざまな取り組みを初めているということは、自治体領域では大きな特徴ではないか」と、大規模自治体に限らずDXを推進できることを語った。
森氏は、導入が進んだ要因として、総務省のαダッシュモデルや2024年10月の自治体向けガイドライン改訂による情報分類定義の変化などに触れた他、「自治体が住民とつながることの必要性により、公共機関向けのマーケット環境が大きく変わっている。その中で、分離したネットワークはつながりを妨げる要因だ。事業課題に合わせてクラウドの活用シーンを増やし、ネットワークモデルを変革する文化が浸透してほしい」とした。
続いて、続いて、新潟県の佐藤圭祐氏(知事政策局ICT推進課)がAI活用とデジタル空間の文書管理に関する取り組みを語った。
新潟県は2021年にデジタル改革実行本部を立ち上げ、地域おこしなど暮らしや産業、行政の分野でDXを推進している。例えば人口減少や高齢化などの課題に対し、県民・事業者がPCやスマートフォンなどを活用することで、時間や場所の制約なく行政サービスを選択できるようになった。
次に佐藤氏は、県庁内における具体的なDX事例について述べた。2022年はモバイルPCを導入し、閉域SIMの搭載や庁内無線環境を整備して場所に縛られない業務を実現した。また、公文書管理を電子化して紙の使用量も大幅に削減した。紙を中心とした仕事を見直しデジタル技術を導入することで県庁の職場風景は一新したという。
佐藤氏は「電子申請システムによって、県民が来庁せずに申請できるようになったことで、利用者の手間だけでなく県職員の業務も大きく効率化された。具体的な数字としては、県民などの来庁費用約5億円を削減した他、年間4万5000時間の職員業務効率化の試算効果があった」と述べる。
デジタル社会実現のためには地域の特性を生かすことが重要
続いては、Box, Inc. グローバル&米国州政府担当VP(Vice President)のムルタザ・マスード氏が、グローバルにおける公共機関分野でのBoxの活用状況やデジタル変革に同ツールをどう生かすかを解説した。
マスード氏によると、Boxは1万の政府機関と12万の企業に導入されているという。採用増加の背景には、セキュリティやコンプライアンスの順守の重要性から、機密情報を十分に保全し格納できるシステムが求められていることがある。
政府機関でのデジタル変革トレンドの例としては、「AI」「サイバーセキュリティ」「レガシーシステムの近代化」「デジタルガバメント」「働き手の負担軽減」「測定可能なROI」「限られたリソースの活用」「急速な規制環境の変化へのガバナンス対応」を挙げ、一方で政府機関の抱える問題として「コンテンツのサイロ化による効率性の低下」「AI導入によるセキュリティ課題やスキルの不足」「複雑化するコンプライアンス環境」「持続可能なコストと投資利益率」について言及した。
また、具体的な現状の課題としては、公文書や申請書などが紙や電子メールといった複数の方式にまたがることにより対応の負担が増していることや、利用者が分かりにくい行政システムにより申請手続きのプロセスが分断することなどを提示した。
マスード氏は、AIエージェントなどを活用し行政プロセスを最適化することで、職員の負担減による業務の効率化や利用者へ的確なサービスを提供することにつながるとする。
4人目の登壇者としては、北九州市デジタル市役所推進室DX推進課の高尾芳彦氏が、自治体のプラットフォームのあるべき形やローカルガバメントクラウドの目指すべき姿について語った。
高尾氏はローカルガバメントクラウド構想について、「地域の特性を生かした次世代自治体デジタル共用のプラットフォームで、分散アーキテクチャを使って地方拠点を作っていくという考えだ」とした。為替影響を受けない国内クラウドを利用することで、統合的なID管理機能をもってG2Cサービスを提供する。
「そのためには、地域雇用で高い技術力をもったデジタル人材を確保し育成して、そのまま維持することが重要だ。官民が連携して住民の新たなニーズを把握し、デジタルサービスを提供することで、最終的にはデジタル社会の実現を目指すという形で考えている」と高尾氏は語る。
高尾氏は、「人材流出を防ぎ技術者を集めるには、『住みやすい街であること』も条件になる。自治体サービスを使いやすくしたり、住民の端末で必要なコンテンツを授受できるクロスデバイス機能を取り入れたりするのはその一助となるはずだ。近い将来、国や地域の人たちを巻き込み、自治体のプラットフォームのあるべき形を目指したい」とした。
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