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M365 Copilot、社内95%が使っても利用格差はなぜ起きる? やって分かった定着の鉄則

Microsoft 365 Copilotを全社導入した内田洋行では、利用拡大が進む一方、ユーザー間の利用格差が課題となっていた。社内データ分析と実践から見えた原因を基に、5つの鉄則と具体的解決策を紹介する。

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内田洋行 太田浩史氏

 生成AIサービス「Microsoft 365 Copilot」(Copilot)は、使い慣れた業務アプリから自在に呼び出せることから、簡単に使える生成AIとして高い支持を集めている。内田洋行でも約1年半前に導入以降、利用は順調に拡大している。払い出しライセンスは600を超え(さらに「Microsoft 365」ライセンスでのCopilot利用者も550人を超える)で、アクティブ率は約95%。月1回以上の利用者は約500人、月間利用回数はおよそ3万8000回に上る。

 一方で、社内でのCopilot活用を推進する太田浩史氏(内田洋行 エンタープライズエンジニアリング事業部)は現状を十分とは考えていない。週5日のうち3日以上Copilotを利用するユーザーが全体の4割を占める一方で、その層が総利用回数の約8割を占めている。つまり、残り6割のユーザーは恩恵を十分に得られていないことになる。

 同様の利用格差は他社でも発生している可能性がある。では、どう解消すべきか。同氏は社内での利用状況の分析や、他社のユーザーと会話するなかで見つけた課題を5つに整理するとともに、それぞれに対する解決策を示した。

本稿は内田洋行主催のイベント「UCHIDA ビジネスITフェア2025」における太田浩史氏の講演内容を編集部で再構成した。

なぜ利用格差は生まれる? 今だから見えたCopilot推進5つの鉄則

 内田洋行では、この半年でCopilotの利用事例が倍増した。背景には、社内で段階的に進めてきた活用推進施策の効果もある。

 具体的には、導入初期に利用シナリオや活用イメージを理解してもらう講習会を実施した他、「Viva Engage」や「SharePoint」を活用したオンラインコミュニティーを立ち上げ、情報共有や意見交換の場を整備した。また、社内プロンプト集として利用例を体系的にまとめ、すぐに活用できる形で共有する仕組みも構築した。さらに、管理職向け勉強会や、オンライン・オフライン双方での定期勉強会など、多面的な活動を展開してきた。

 こうした施策により利用拡大は進んだ一方で、従業員間の利用格差が課題となった。太田氏は、活用促進を担う立場から「今だからこそ見えてきたポイントがある」と語り、次の5点を挙げた。

(1)Copilot普及の初期段階で、誤ったイメージを与えないことが重要

(2)「プロンプト集」は有効だが、運用上の課題も抱えている

(3)Copilotの急速な進化に、継続的に追随する難しさ

(4)利用者が不満を感じやすいポイントの存在

(5)活用を定着させるための社内推進体制の構築が不可欠

 以降、これらポイントを説明し、解決策を提示していく。

「誰でもすぐ使える」が裏目に 親切心が招いたCopilotの利用離れ

 「Copilotは誰でも簡単にすぐ使える」。社内普及の初期段階で繰り返し伝えてきたこの言葉が、結果的に活用の妨げになっていたと太田氏は振り返る。

 確かにCopilotは直感的に操作できるツールだが、実務で役立つ回答を引き出すには、どのように問いかけるかを体得する一定の慣れが必要だ。実際、ユーザーからは「簡単だと言われても、何をどう聞けばよいのか分からない」「業務にどう結び付けるかイメージできない」といった声が上がることも多い。

 これは、ユーザーの心理的ハードルを下げようとしたメッセージが裏目に出た結果だ。「簡単なはずのツールが使えないのは自分のせい」と感じ、本来は使い続ければ慣れていくCopilotから距離を置いてしまったユーザーも少なくなかった。

 こうした反省を受け、同氏はアプローチを転換した。失敗は当たり前であり、トライ&エラーを重ねることがCopilotの正しい使い方だという認識を持ってもらおうと考えた。その代表的な取り組みが「失敗事例の共有」だ。

 利用者向けデモで失敗しても気にする必要はない。むしろ、「熟練者でも失敗は日常的に起こる。ここからこう修正すればうまくいく」とプロセスを見てもらうことに意味がある。試行錯誤のプロセスを隠さず示すことで、Copilot利用への心理的ハードルは大きく下がったという。

 さらに、社内コミュニティーや勉強会では、成功事例だけでなく失敗談も共有するようにした。マイナス面を含めて開示することで共感が生まれ、「自分も同じだった」といった声や投稿も生まれるなど、安心してCopilotに挑戦できる土壌を形成している。

プロンプト集のワナ コピペ依存がユーザーの「対話力」を奪う

 2つ目のポイントは、生成AI導入時に作られがちな「プロンプト集」の弱点を理解することだ。プロンプト集は、「どう質問すればよいか分からない」ユーザーに質問例を示すマニュアル的な役割があり、利用開始時のハードルを下げる上では有効だ。だが、依存しすぎるとユーザー自身の「Copilotとの対話力」を育てにくくなる。

 内田洋行でもすぐに使えるCopilotプロンプト集を用意し、活用イメージの具体化や新しい使い方の発見につなげようとした。だが、実際には「汎用(はんよう)的すぎて業務活用のイメージが湧かない」「特定業務向けプロンプトは他業務に応用しにくい」といった課題があると太田氏は考える。また、AIモデルや業務プロセスの変化によりプロンプト集はすぐ陳腐化し、更新には相応の工数がかかる。

 さらに大きな課題は、Copilotとの対話力が身につかないことだ。1回の質問で最適解を得ることを前提としたプロンプトが「正解」と誤解されると、対話は単発の質問に偏り、状況に応じて柔軟に回答を引き出す力が育たない。

 そこで同氏が推奨したのが音声入力の活用だ。文章構成にとらわれず、自然な言葉で考えや要望を伝えられる他、うまくいかなくても何度でも気軽にやりとりできる。何より、型にはまったプロントは必要ないのだと、目で見て実感できることの効果が大きい。

 さらに、Copilotとの対話には3つのポイントがある。

1.業務の目的や成果物、利用シーンを具体的に伝える

 「提案書を作りたい」ではなく、「上司に部内でのCopilot活用を15分で説明する提案書を作りたい」と業務文脈を明確にすることで、精度の高い回答が得られる。

2.一度の応答で完結させず、対話を重ねる

 「この部分は違う」「もっと簡潔に」とフィードバックを返し、「別の視点で」「他のフォーマットで」と条件を追加する。さらに「もっと良くするには?」「他の案は?」と問いを重ねることで、アウトプットは洗練される。

3.試行錯誤を前提に、最初の回答に完璧を求めない

 不足している点を考え、「根拠データを追加してほしい」「グラフ化してほしい」といった具体的な指示を重ねる。

 多少遠回りでも対話を重ねることで、徐々に目的に合った結果に近づけるのがCopilotの上手な使い方だ。同氏はこの考え方を共有し、音声入力による「仲間に話しかけるような」対話スタイルを推奨することで、さらなる活用促進につなげている。

「詳しく指示して」はもう古い 進化するAIに人間はどう追随すべきか

 Copilot活用の3つ目の重要な視点は、「AIサービスの進化に追い付くこと」だ。

 AIの進化スピードは非常に速く、Copilotの基盤となるAIモデルも、2025年8月には「GPT-5」へと進化した。GPT-5は会話全体の文脈を理解し、不明点は自ら質問し、高度な推論を実行、さらに実行計画まで自ら立案できるなど、多方面で性能が向上している。その結果、回答精度が向上しただけでなく、ユーザーが問いかける方法も変化した。例えば、「この新製品をSNSで紹介する投稿を作って。ターゲットは20代女性、カジュアルなトーンで、見やすい形式で提案して」といった、よりシンプルで自然なプロンプトでも、実用的な回答が得られることが増えた。

 導入当初は、プロンプトに目的や手順、制約条件、出力形式などを詳細に指示することが推奨されていた。だが、GPT-5のように自ら実行計画を立てられるモデルでは、詳細条件がかえって足かせとなり、求める結果が得にくくなる場合もある。そのため、導入当初の使い方ガイドは、わずか1年ほどで現状にそぐわなくなった。


図1:AIモデルの進化により、適切なプロンプトの作り方も変化(出典:イベント投影資料)

 こうした高速な変化に対応するため、内田洋行では毎週金曜朝に15分間のオンライン「プチ勉強会」を実施している。約1年間欠かさず継続されており、参加者は新機能の習得に加え、自分では気付きにくい使い方や、その日から試せるヒントを得られる。継続的な情報共有により、社内で好評を得るとともに、AIモデルの進化に追い付き、適切な利用法を周知する仕組みとして機能している。

社内検索の弱点は「Copilot Studio」で補う 不満を解消する“専用bot”

 活用促進のための4つ目のポイントは、ユーザーが抱えるCopilotへの不満を解消することだ。

 内田洋行の社内調査の例では、Copilotが業務に「あまり役立たない」と感じているユーザーは約10%存在した。その原因の多くは、社内情報の検索結果が期待外れになることにあった。Copilotは利用可能な情報ソースを幅広く探索するため、古い情報や作りかけのドキュメントも対象となり、ユーザーが期待する回答とは異なる結果を返すことがあるのである。

 この課題に対し太田氏は、よく検索される情報に対応するCopilotエージェント(チャットbot)を作成することで改善できると提案する。「Copilot Studio」を用いれば、簡単な設定でエージェントを構築できる。SharePointに格納された情報をナレッジソースとして指定することで、製品資料や仕様、営業FAQ、事務手続き、社内規定など、よく参照される情報について正確な回答を返す確率を高めることができる。このエージェントを個人やチーム、社内全体で共有することで、ユーザーの不満軽減に大きく寄与できる。


図2: Copilotエージェントにより正確な回答の確率を高め、不満を抑制(出典:イベント投影資料)

 もう1つの方法として、SharePointが標準で備える「SharePointエージェント」機能を利用することもできる。この機能は事前準備不要ですぐに使用できる点が利点だ。だが、検索対象はアクセスしているSharePointサイトやライブラリ内のコンテンツに限定される。そのため、欲しい情報の所在がある程度分かっている場合には、こちらの機能も有効に活用できる。

 一方で、社内情報が思うように検索できない背景には、同社特有の事情もあった。現在利用しているSharePointリストは、15年前に使用していた「Lotus Notes」のデータベースをそのまま移行したものであり、人事規定や事務手続きなど、ユーザーが頻繁に検索する情報が多く含まれている。だが、Copilotはこうした旧リストを十分に検索できず、情報活用の妨げとなっていた。太田氏は「これが大きな悩みになっている」と語る。

 これを解決する策としては、一覧化が必要なデータはExcelにエクスポートし、規定や手続き関連はWordやPDFとして再作成し、ライブラリに配置することなどが考えられるが、いずれも大きな手間のかかるものだ。現時点では、リストよりもファイル形式でライブラリに格納された情報の方が、Copilotの活用に適していると考えている。そのため、どの情報をリストで管理し、どの情報をドキュメント化してライブラリで管理すべきかについては、Copilotの活用を機に改めて検討したいテーマだ。


図3:SharePointのエージェント機能も活用可能(出典:イベント投影資料)

個人の努力に依存しない 活用推進活動を「業務」とすることが定着コツ

 最後の5つ目のポイントは、Copilot活用推進組織を構築し、活動を活性化することだ。多くの導入組織でも実施されている取り組みだが、具体的には社内の有志(既にCopilotを活用しているユーザーや意欲あるユーザー、他システム導入で協力経験のあるユーザー)に勉強会の開催や活用例の発信・共有、他ユーザーのサポートなどを協力してもらうことで、社内での活用が加速していく。

 だが、太田氏は「それだけでは限界がある」と言う。活用促進活動に業務時間を割いていることが正しく評価されなければ、従業員にとって負担となり、取り組みを継続できず、組織づくりが空中分解する可能性が高い。

 この限界を打破するため、同氏は「個人の努力に依存せず、組織的な支援の仕組みを整え、活動を継続できる体制を作ること」を推奨している。有望な取り組みとして、次の3つが挙げられる。

(1)評価制度:上司が活用推進活動の意義を認知し、人事評価につなげていく

(2)PR・認知:社内報などで活動を紹介し、活用推進活動の認知を広げる

(3)負担軽減:他のユーザーから過度な期待をかけられず、可能な限り負担を軽減する

 こうした取り組みには、メンバーの中に少なくとも1人の責任者(専任リーダー)を置き、活用促進活動を正式に業務として位置付ける仕組み(上司の了解のもとで活動できる体制)が必要であると太田氏は述べた。

 同氏はさらに、「Copilot活用は単なるシステム導入ではなく、従業員が生成AIを使いこなすスキルを習得することがゴール」だと強調する。活用スキルの習得は一朝一夕では達成できず、個人の成長スピードや業務負荷により進度も異なる。そのため、組織的な支援は不可欠だ。Copilot導入後に利用を定着させるためには、ユーザーを支援する仕組みを組織として整備し、活動を継続することが最大のポイントだ。

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