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「G検定」合格者が語る、挫折しないための学習ガイド

AIをビジネスで活用する能力を測る、ゼネラリスト向け資格試験「G検定」。試験範囲と効率的な勉強法を合格者の視点から解説する。

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 AIを仕事で使うと考えると、それ相応の知識が必要です。今はPC操作が分からないと苦労する時代ですが、そのうちAIを使えないと苦労する時代も来るのではないでしょうか。今でも、AIに関する理解度が足りず、勘違いしたまま適切なビジネス判断ができていない人がいるかもしれません。

 AI関連資格の中でも、特に注目度が高いのが「G検定」です。筆者も以前受験して合格しましたが、勉強を通して、その分野の専門家にインタビューするときも知らない単語に悩まされることなく臨めるようになりました。

 今回は、G検定でどのような内容を学べるのか、どんな勉強をすれば合格できるのかを、筆者の体験を踏まえて解説します。

G検定は何が難しいのか

 G検定は日本ディープラーニング協会が実施する資格試験です。GはGeneralistのことで、AIの研究開発に従事する専門家レベルというよりは、ビジネスでAIを使うゼネラリストレベルという印象です。AIの基本から活用法、法令まで幅広く出題されます。

 受験に当たって資格や経験、プログラミング能力は必要ありません。問題の形式は選択肢で、次回開催は2026年1月10日、受験料は1万3200円です。

 直近の2025年第6回試験では約1万人が受験し、約8000人が合格しています。一見すると合格率は高く見えますが、決して簡単というわけではありません。少なくとも、仕事で生成AIサービスを使って業務効率化を日常的に実践しているだけで、勉強せずに合格できるようなものではありません。

 その理由は、内容の難易度が決して低くないことに加え、何より問題数の多さにあります。具体的な数字は回によって異なりますが、標準的には試験時間100分で145問が出題されます。つまり、1問にかけられる時間は平均40秒です。実際には、1問当たり30秒以内で解き切り、残りの時間で見直す形になります。しっかり勉強できていれば案外余裕がありますが、そうでなければ全く足りないと思います。

G検定で学べること

 G検定のシラバスを見てみましょう。G検定の出題範囲は技術分野と法律倫理分野に分けられます。シラバスに掲載された項目は以下の通りです。

  • 人工知能とは
  • 人工知能を巡る動向
  • 機械学習の概要
  • ディープラーニングの概要
  • ディープラーニングの要素技術
  • ディープラーニングの応用例
  • AIの社会実装に向けて
  • AIに必要な数理・統計知識
  • AIに関する法律と契約
  • AI倫理・AIガバナンス

 「人工知能とは」では、AIの定義や歴史を学びます。例えば、「Artificial Intelligence」という言葉が初めて登場したのは1956年のダートマス会議であることや、AIの分類方法、第○次AIブーム、AIに関する思考実験などが問われます。有名な言葉の中では「チューリングテスト」もこの分野で出題される可能性があります。

 覚える内容は多くないですが、すぐさま理解するには難解な概念も出て来るのが、人によっては躓きどころかもしれません。例えば、ここでは「フレーム問題」という言葉が登場します。これは、自分や今からやろうとしているタスクに関係があることを見極めるのは難しいという問題です。

 筆者個人の解釈ですが、ビジネスで聞く用語としては「視野が広い/狭い」に近い考え方とも言えるかもしれません。視野が狭すぎては可能性を見落とし、広すぎては可能性におぼれて何もできなくなります。こういったすっきりと言語化するのも難しいような内容が出てくるのがこのパートの難しさです。

 逆に、ビジネスに関係しない内容もあります。ダートマス会議が1956年であることは、日常業務においてどうでもいいことです。せいぜい「50年代が初出」くらいの認識で十分でしょう。大学受験の歴史でもたまに言われることですが、重要なのは「ダートマス会議」という名詞を覚えることではありません。50年代を起点に第○次AIブームでどんな技術が注目され、社会的に何が起きたかが理解できていれば問題ありません。G検定に合格するなら覚えないといけないですが。

 「人工知能を巡る動向」では、機械学習やニューラルネットワーク、ディープラーニングの違いや関係性などが扱われます。筆者の印象では、ディープラーニングの手法を理解するための前提知識を学ぶパートです。概念的な難しさと用語の多さで、理解をするのが大変でした。

 知識問題だけでなく、少し考えないといけない問題も出題されます。その一つが「探索木」です。任意の問題の答えを「探索」するとき、幅広くさまざまな可能性を順番に探索する方法と、1つの可能性を深堀して、行き止まったら少し戻って別の可能性を探る方法では、答えにたどり着く速度や使うメモリが違います。これらをそれぞれ「幅優先探索」「深さ優先探索」と言います。

 試験では、探索木の図が示され、「幅優先探索を行う場合、どの順番で探索しますか?」といった問題が出題されます。例えば、選択肢として(1)ABCD、(2)ADCB、(3)BACD、(4)DACBのような形式です。探索法の名前は知っている必要がありますが、重要なのはそれがどういう探索法なのかです。

 「機械学習の概要」では、「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」などが登場します。2018年〜2022年ごろにIT業界にいたり、AI関連の情報を追っていたりした人なら、耳にタコができるほどよく聞いた単語でしょう。当時はAmazon Web Services(AWS)も、強化学習の話題ばかり取り上げていた印象があります。難解な概念が大量に出てくるわけではないため、難易度は比較的低いと言えるでしょう。

 「ディープラーニングの概要」と「ディープラーニングの要素技術」ではニューラルネットワークの要素や構造を学びます。個人的には、このパートが最も興味深く感じました。専門用語が多くかなり難解ですが、ここを理解できれば、実際にAIを作ることも夢ではありません、と言うと言い過ぎですが、このパートで学んだ知識と、Sonyが公開しているノーコードAI開発ツール「Neural Network Console」を使えば、本当にAIを構築できます。筆者も受験後しばらくこれを使っていました。

 このパートでは、今の「ChatGPT」にもつながる技術「Transformer」や、その今回にある「Attention」という仕組みなども登場します。

 「ディープラーニングの応用法」では「画像認識」「深層強化学習」「ファインチューニング」など、AIの使い方や強化方法を学びます。ここまでの内容はかなり根幹的なものだったため、ビジネスに直接使うことがあるかというと疑問ですが、このパート以降は、社内のAI活用プロジェクトなどで聞く言葉が増えてきます。

 特に、LLMが普及している現在では、「蒸留」や「量子化」「マルチモーダル」といった用語は理解しておくべき内容です。このパートでは2018年ごろに流行していた「GAN」や、現在のイラスト生成AI分野でよく聞く「Diffusion」も登場します。

 このパートには個人的に納得していない内容があります。画像認識の部分で、技術と認識精度の進化についての説明があるのですが、試験では、画像認識の大会「ILSVRC」で優勝したモデルの順番を答えさせる問題が出ることがあります。

 試験で正解するためには「AlexNetとResNetはどちらが先か」を覚える必要があります。しかし、この「AlexNetという文字列とResNetという文字列を正しい順番で書ける」という技能は必要ないとまでは言いませんが、どう考えても本質的ではありません。これは「徳川15代将軍の順番は暗唱できるが、それぞれが歴史的にどんな影響を与えたのか全く覚えていない」ようなものです。どんな技術の登場で画像認識タスクの精度がどれだけ進化したのかという流れを理解するのが重要です。

 「AIの社会実装に向けて」ではAIプロジェクトの進め方や、データを扱う上での注意事項を学びます。G検定がゼネラリスト向けである所以たるパートと言えるでしょう。問題自体は社会人の常識でいなせる部分が多く簡単ですが、知識の整理にはちょうどいい内容です。

 「AIに必要な数理・統計知識」では統計の問題が出ます。高校数学の知識で十分太刀打ちできます。覚えていれば勉強ほぼなしでクリアできますが、統計は年代によって習う内容が違うので注意が必要です。

 「AIに関する法律と契約」「AI倫理・AIガバナンス」では、個人情報保護法や著作権法、特許法、独占禁止法などの法律、AIの悪用やバイアス、透明性などが登場します。こちらも社会人の常識があれば難しくはありません。

G検定の勉強法

 勉強期間は、1〜3カ月程度が適切でしょう。本記事で何度か「2018年ごろに」という言葉が出てきましたが、それくらいの時期からある程度AIに興味を持っていた人であれば、2週間くらいでも合格はできそうです。知識に自信がある人は、100分で145問を余裕をもって解ききれるようトレーニングしましょう。

 G検定には公式テキストがあるので、まずはこれを一通り読みます。試験自体は単語を覚えるだけでもそれなりに解けますが、途中で出てきた通り、徳川将軍15人を順番に言えても意味がありません。G検定に合格するのは目的ではなく手段のはずです。テキストの内容は理解できるまで繰り返しましょう。

 このとき役に立つのがChatGPTや「Gemini」です。分からないことがあれば遠慮なく活用しましょう。G検定には、そもそも概念を理解するのが難しい内容もかなり含まれます。記憶力だけで乗り切れるタイプの試験ではありません。テキストだけで理解できるかも怪しいため、有識者に質問できればいいのですが、できない場合に生成AIは便利です。

 ただし、生成AIの応答が必ずしも正しいとは限りません。Deep Research機能を使ったり、確認のために書籍や専門家が書いた記事を参照するようにしましょう。

 ディープラーニングの勉強に関しては、Sonyが公開している動画シリーズ「Deep Learning入門」がおすすめです。このチャンネルでは他にもレッスン動画シリーズを公開しているので、試験後の勉強にも使えます。

 試験対策には、もちろん問題集を重要です。G検定の問題集は複数あるため、好きなものを選べます。ただし、G検定のシラバスは2024年5月に改訂されているため、それ以降の書籍かどうかは確認しておきましょう。

 筆者も問題集を2周しましたが、実際試験を受けてみると、かなり実際の内容と近かったので、複数の問題集を使ってあらゆるパターンに対応できるようにするまでは必要ない印象でした。

 AIを理解してビジネスに生かし、時代の変化に遅れないよう心掛けたいものです。

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