データ活用、3割が「本番直前」で挫折 失敗する企業の共通点とは?【2025年調査】
データ分析プロジェクトはその約3分の1が実運用前の準備でつまづくことが調査で分かった。その明暗を分ける要因は何かを分析する。
生成AIを既存の業務システムやビジネスプロセスに組み込み活用する企業も増えており、一層データの有効活用が重要になっている昨今。デロイトトーマツミック経済研究所が2025年5月に公開した「ビジネス・アナリティクス市場展望 2025年度版」によれば、国内のビジネス・アナリティクス市場は2024年度に対前年比115.9%の7830億円、2025年度は8960億円となる見込みという。
そこで、キーマンズネットでも「データ活用の現状とExcelの利用状況に関するアンケート」(実施期間:2025年11月26日〜12月12日、回答件数:245件)を実施した。調査結果より企業におけるデータ活用の実態を紹介する。
企業規模別でBI導入に大きな差
はじめに、自社におけるデータ活用の取り組み状況について尋ねたところ、「データを活用している」と回答した企業が53.9%と過半数を占めた。一方で、「データ活用の取り組みを検討中」(17.6%)および「データ活用に取り組む予定」(8.6%)を合わせると、26.2%となった。
従業員規模別に見ると、501人を超える中堅・大企業では半数以上が「データを活用している」と回答した一方で、100人以下の中小企業では約4割にとどまる。ただし2025年8月に実施した前回の調査結果と比較すると、活用率が全体で6.1ポイント増加しており、大企業帯より中堅・中小企業の方が増加幅が大きい。
関連して、BIツールの導入状況を調査したところ、全体では「導入している」(42.9%)が「今は利用しておらず、今後も利用する予定はない」(33.5%)を上回った。こちらについても、従業員数が501人以上の企業の導入率が半数を超える傾向が見られ、5001人以上の大企業では77.4%と大多数が導入している反面、100人以下の中小企業帯では9.1%と実に9倍近くの開きがあった。
実運用フェーズに立ちはだかる2つの壁
全体の約3割であった「データ活用に取り組む予定」「データ活用の取り組みを検討中」とした方に進捗状況を聞いたところ「実運用の準備でつまづいている」(34.4%)が最多となった。テスト運用フェーズを超えたにもかかわらず、運用前の準備フェーズでつまづいてしまう背景には何があるのだろうか。
フリーコメントで実例を挙げてもらったところ、大きく3つの理由が見えてきた。1つ目は戦略や目的の曖昧(あいまい)さだ。「データの所在がバラバラ、データ活用の目的もはっきりしない」や「方向性がぶれ、まとまらない」「自部署の業務内容や業務量を踏まえた際に、(BIツールを)導入した場合の費用対効果のバランスを判断しきれていない」など、データ活用における最終目的や推進するための戦略、投資判断基準が不明確で活動そのものが中途半端になってしまっているとの意見があった。
2つ目はデータ基盤・技術の不足への指摘だ。データの状態やインフラ環境がデータ分析に見合っていないとの声が多数寄せられた。具体的には「そもそもデータが分散していて、データの統一性がない」や「データ形式が古い、データ設計が古い」、「サーバースペックの見直し」や「社内システムの対応不足」などだ。
3つ目は、データ活用の推進役として適した人材や予算確保ができないといった人材・リソース不足だ。「実務運用者がいない」や「他業務が忙しく取り組む時間が無い」「予算、要員不足」などリソース不足が解消されないまま進めてしまうことで「現行業務に関するデータの把握・分析が十分に行えないまま、プロジェクトを先行して開発を進めてしまうため、結果として失敗を繰り返している」と嘆く方もいた。
実際、全体に対しデータ活用におけるシステム面での課題を聞いたところ「データの保存、保管」(43.7%)や「データ分析ロジックの構築」(38.4%)、「データの加工」(37.1%)、「システムやツールの活用」(36.7%)といった分析基盤とノウハウに関する課題が多く挙がった。
データ活用における人材面での課題でも「分析ツールを利用するためのスキルが不足している」(64.9%)や「社内のデータ活用ツールを扱える人材がいない」(40.4%)、「非IT部門の従業員の知識が不足している」(33.9%)、「IT部門担当者の知識が不足している」(25.7%)など、ノウハウやスキルを持った人材の不足を課題に挙げる方が多かった。
データ分析基盤などのインフラ整備とはもちろん、データや分析ツールを適切に扱える人材の確保や、ユーザーの活用意識の浸透ができなければ運用移行は難しいと考える担当者が多いのだろう。
「成功例」と「失敗例」に見る“明暗”を分けたポイントとは?
そうした課題を乗り越えてデータ活用に踏み出した企業では、実際どのような成果が生まれているのだろうか。フリーコメントで聞いたところ、寄せられた声は3つに分類できる。
1つ目は業務の効率化とコスト削減に繋がったという声だ。「月次損益資料等の作成工数の削減」や「スクレイピングでデータ収集を自動化したところ時間を削減できた」など業務プロセス改善による効率化はもちろん「従来熟練者の経験に基づくデータ分析が行われ該当者の業務処理スピード以上の作業が実施できなかったが、ノウハウをプログラム化してデータ取得も自動化することによりほぼ該当案件全てで従来と同等の分析が可能になった」と属人化からの脱却を果たし生産性向上に繋げた事例もあった。
2つ目は品質と顧客満足度の向上だ。「製品のウィークポイントを見出し対策して商品価値を上げた」や「品質不良や設備故障の低減」「倉庫のピッキングや梱包作業を録画して残すことで商品発送における品質の向上に繋がった」など製品やサービスの品質向上に生かしたケースや「顧客情報とオンライン行動データを連携させることで、メルマガ経由で製品ページを訪問した顧客に対し、当該製品の事例を配信するなど、行動に即した最適な施策を実行できるようになった」や「商品提案の精度が高まったことでリピート率が向上し、顧客の満足度調査でも高い評価を得た」といった顧客からの評価が高まったとの成果も寄せられた。
3つ目は意思決定の迅速化や戦略強化につながった事例だ。「原価データの可視化により値上げなどの意思決定がタイムリーかつ早くなった」や「外部、競合他社のデータ分析結果までの時間短縮」など「データドリブン経営を始め、日次で状況がわかるようになり意思決定をスピードアップできた」との声が多く寄せられた。中には「予想データの精度向上」により「製品群別の収益状況に基づいて将来の戦略、戦術の検討へとつなげることができた」と今後の戦略検討に生かしているケースもあった。
また、前述のようにデータ活用できている方の7割はBIツールを導入していることから、BIツール導入企業の方が成果が出やすいとも言えそうだ。実際、BIツール導入者に成果を聞いたところ「期待以上の成果を上げている」(1.9%)と「おおむね期待通りの成果を上げている」(71.4%)を合わせ73.3%が期待通りの成果を上げていると回答した。
具体的には「データを根拠とした意思決定の文化が醸成されつつある」や「準リアルタイムで状況を把握できるようになったことで、現状に応じた迅速な対応が可能となった」など意思決定の迅速化を果たしたケースや、「『Excel』などの手計算的なツールと違い、分析から結果出力まで一気通貫でできた」や「複数のシステムからのデータを結合した分析が可能となっている」といった部門を超えたデータ活用ができたとの声があった。
反対に成果が出なかったケースとしては「使いこなすにハードルが高く習得に時間が掛かる」や「機能が多すぎで使いきれない。細かい集計がむつかしい」といった理由や、「データ投入のフォローアップが十分でない」や「そのまま使えるようなデータを作るには、時間が掛かるのとIT専門性が必要なため」「データの整理を行ってから学習しているため(時間を要している)」など、データ分析基盤の環境整備に足踏みしているとの声もあった。
以上、後編では企業におけるデータ活用への取り組み実態を紹介した。テスト運用から実運用準備フェーズへの移行割合は年々増加している。記事で触れた事例も参考に、あと一歩、自社に合った環境構築に向け検討を進めてもらえると幸いだ。
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