「一人情シスは問題じゃない」コープさっぽろが明かす、現場が自力で仕事を楽にする方法
現代のビジネス環境ではAI活用が当たり前になっている一方で、中小企業の情報システム部には、リソースやセキュリティなどの課題が山積みだ。これらの課題を解決しつつ、AI活用を推進するためには何が必要なのか。
今やビジネスにおいても、情報の収集や整理、作業の実行までAIが広く使われるようになった。だが、中小企業の情報システム部では、人手不足やセキュリティなど、多くの課題を抱えている。こうした環境で、AIをうまく活用するには何が必要だろうか。
本記事では、多くの中小企業に共通する悩みを解決するポイントを示し、コープさっぽろのIT民主化およびAI活用の取り組みを紹介する。
本稿は、アイティメディアが主催したオンラインセミナー「変わる情シス 2025秋」(2025年12月9日〜12日)で、生活協同組合コープさっぽろの長谷川氏(CIO)が「デジタル革命への挑戦 中小企業の情報システムはどうしていくか」というテーマで講演した内容を編集部で再構成したものです。
中小企業の情報システム部の悩み
長谷川氏は、中小企業の情報システム部の悩みは次の4つの領域にまたがると述べた。
- リソース(人、モノ、カネ)
- セキュリティ対策
- IT戦略およびDX推進
- ツール選定およびベンダー管理
リソースに関する悩みとして代表的なのは「情報システム部の人数が少なく、問い合わせ対応に終始してしまい、新しい技術を学ぶ余裕がない」「予算が限られ、セキュリティと業務効率化の両方には着手できない」というものだ。
セキュリティ対策の場合、「最小限のコストで最大限の効果を出す対策を知りたい」「退職者のアカウント管理をはじめとして、従業員のセキュリティ意識を向上させるためにどんな方法があるだろうか」という悩みが多い。
IT戦略およびDX推進に関する悩みには、「経営層からの指示でDXに取り組むが何から着手すべきか分からない」「リスクとコストの問題からレガシーシステムの刷新に踏み切れない」などがある。
そして、ツール選定およびベンダー管理について、情報システム部は「自社に最適なSaaSやツールを選ぶ基準が難しい」「各部門が勝手に契約しているSaaSをどのように管理すべきだろうか」という悩みを抱えている。
このように情報システム部はさまざまな領域における悩みを抱えながら、日々の業務に向き合っている。これらの悩みを解決するためにどうすべきか、長谷川氏が指摘するポイントを確認していこう。
「一人情シスは問題ない」リソース不足を言い訳にしない組織作り
リソース(人、モノ、カネ)の悩みを解決するポイント
リソースに関する「情報システム部の人数が少なく、問い合わせ対応に終始してしまい、新しい技術を学ぶ余裕がない」という悩みを解決するために、長谷川氏は一人情シスの状態が問題ではないと指摘しつつ、「従業員100人当たり情シス担当者1人がいるような組織を目指そう」と語った。その上で、まず勉強の時間は自分で作るという姿勢を持ち、1日30分から新しい技術を学ぶことが重要だという。
また、「予算が限られ、セキュリティと業務効率化の両方には着手できない」という問題について、長谷川氏は「どちらか1つを優先しなければならないのであれば、業務効率化だ。その上で、経営層への説明を工夫しつつ、EDR(Endpoint Detection and Response)を最低限導入するなどの選択肢を検討していこう」と述べた。
セキュリティ対策の悩みを解決するポイント
セキュリティ対策に関する「最小限のコストで最大限の効果を出す対策を知りたい」という悩みを解決するためには、ポイントを絞った対策が重要だという。例えば、サポートが終了した『Windows 7』をいまだに使っているような場合は、他の対策を実施しても環境を守りきれないため、まずは更新が必要になる。このようにセキュリティのボトルネックとなっている部分から問題を解決する。
また、「退職者のアカウント管理をはじめとして、従業員のセキュリティ意識を向上させるためにどんな方法があるだろうか」という悩みに対して、長谷川氏は「情報システム部の仕事はセキュリティ教育ではない」と述べる。従業員にセキュリティ教育を施してもフィッシングメールの被害を100%防ぐことは難しいため、フィルタリングの仕組みを導入して従業員が悪質なリンクを誤って踏んだときにブロックできる体制を整えるのがおすすめだという。
つまり、従業員の知識や注意力に依存せず、情報システム部として万が一に備えた対策を導入することが重要だ。退職者アカウントを守るためには、予算との兼ね合いを検討しつつ、退職時にアカウントを凍結するツールの導入を推奨している。
IT戦略およびDX推進の悩みを解決するポイント
長谷川氏によると、IT戦略およびDX推進に関する「経営層からの指示でDXに取り組むが何から着手すべきか分からない」という悩みを解決するポイントはAIだという。なぜならば、AIエージェントをはじめとする技術は、非エンジニアでも活用しやすいように設計されており、エンジニアに依存しないDXの実現に役立つためだ。
また、「リスクとコストの問題からレガシーシステムの刷新に踏み切れない」という悩みについて、長谷川氏は「コストをかけて刷新しても技術だモダンになるだけで同じようなシステムになるケースが多いため、決断が難しいのは分かる」としつつ、十数年たったシステムは保守できる人員が減っていくため、業務のためにどこかで決断しなければならないと強調した。その際は経営層に「ここで刷新しないと、仕様変更がどんどん難しくなる」と、将来のリスクを伝えるべきだという。
ツール選定およびベンダー管理の悩みを解決するポイント
「自社に最適なSaaSやツールを選ぶ基準が難しい」場合は、各ツールを無料で試しながら自社に合ったものを選定する動きが役立つという。一方、リサーチであれば、中小企業はDeepResearch機能を備えたツールを選ぶべきだという。これは、「ChatGPT」や「Gemini」などに備わる機能で、AIがインターネット上の情報を探索して、間違いの少ない詳細な回答を生成する。
「各部門が勝手に契約しているSaaSをどのように管理すべきだろうか」という悩みを解決するためには、発想の転換が重要だという。長谷川氏は「管理を諦めるのはどうだろうか」と問いかけた。管理してSaaSの使用を制限するのではなく、従業員から特定のサービスを使用したいという要望が上がってきた際は、代替案がある場合はそれを示し、代替案がない場合は許可せざるを得ないという。一律に禁止するのではなく、従業員と対話しながらリスクの低い選択肢を提案するのが情報システム部の役割なのだ。
コープさっぽろの情シス留学
ここからはコープさっぽろがITの民主化のために取り組んでいる具体的な施策を紹介する。長谷川氏は「これまでシステム化は、事業部門がシステム部門に依頼し、開発および導入まで長い時間と、高いコストがかかるというものだった。これを解決するためには、事業部門がDXを推進できるスキルを持てばいい」と述べる。
このような考えの下で始まった、IT部門への4カ月の短期留学についてみていこう。
この取り組みは事業部門のメンバーが情報システム部に留学して、Google Geminiや「Google App Script」「Google AppSheet」「Zapier」などの使い方を学ぶというものだ。長谷川氏は約3年を想定して、全従業員の10%をDX人材に育てあげる計画だという。それにより、従業員の1%しかいない情報システム部だけでDXに取り組む場合と比較して、10倍の効果を上げられる。その中で各ツールに詳しいYouTuberを講師に呼ぶ取り組みも効果を発揮したという。
情シス留学の結果、灯油販売を営むグループ企業が夏に展開している灯油タンク修繕の営業を、非エンジニア人材が主体となってデジタル化し、使用する紙を76%削減し、年間9000万円の人件費削減が見込める状態になったとのことだ。
コープさっぽろのAI活用
講演の最後に、長谷川氏はこれからの時代に重要なAI活用について紹介した。同氏が講演の冒頭で述べたように、現代のビジネス環境ではAI活用が当たり前だ。
「PCでの業務をAIで効率化できる見通しは立っているかもしれないが、私が注目しているのは現場がある企業におけるマルチモーダル(テキストや画像、音声、動画などの異なる種類のデータを統合して処理する技術)の活用だ」(長谷川氏)
長谷川氏は、紅茶の箱が並んだスーパーの棚の画像を「ChatGPT-4o」に読み込ませて、「紅茶の品揃えには、どういう狙いがあるだろうか。このお店のプロのバイヤーとして教えて。ターゲットとなる客や、どのような場合に飲むかも教えて」と質問した際の回答を示した。
長谷川氏は、次のように強調する、
「このようにAIは複数の情報を同時に処理し、ロジカルな回答を生成してくれる。商品や備品を1枚ずつ写真撮影する必要はなく、全体を撮るだけで十分だ。また、パッケージの表面にない情報まで含めて回答が生成され、グラフや表にすることもできる。海外視察で言語が分からない場合も深い考察につながる情報を提供してくれる」
AI活用によりビジネスをより深く理解し、次の施策を考えることができるようになる。コープさっぽろの取り組みを参考にしつつ、現場におけるAI活用の推進してみてはどうだろうか。
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