「PoCで見送り」はむしろ成功? ムダな生成AI活用プロジェクトの“正しい止め方”:情シスがトップに突きつける「とりあえずAI」への処方箋(2)
「AIで何かできないか」というトップの号令に、現場が振り回される。生成AIブームの裏側では、目的が曖昧なまま進む“とりあえずAI”が課題になっている。情シスの視点からこの構造的な問題を読み解き、解決のヒントを探る。
第1回では、生成AIプロジェクトがうまく進まない根本的な原因について考察した。問題の本質は、AIの精度やツール選定といった技術的な要素だけではなく、「トップと現場で成功の定義が一致していない」という構造的な部分にある。経営層にとって、生成AIの導入は話題性や対外的なアピール、あるいは将来への投資として捉えられやすく、導入そのものが目的化することもある。一方で、日々の業務を担う現場にとっては、新しい技術はあくまで業務改善やコスト削減のための手段だ。
この認識のズレが解消されないまま、「AIで何かできないか」というトップの号令が現場に降りてくると、解決すべき課題が十分に整理されないまま、とにかくAIを使うことが優先されがちになる。その結果、現場の負担が増え、プロジェクト自体がうまく機能しないケースも生まれる。こうした技術導入の目的化は、過去のクラウドシフトやDX、RPAのブームでも見られたが、生成AIのケースでも同じことが繰り返されている。
本稿(第2回)では、この仮説を裏付ける読者調査のデータを見ていく。手段と目的が整理されないまま進んだプロジェクトがどのような課題に直面しているのか。
企画:情シスがトップに突きつける「とりあえずAI」への処方箋
生成AIブームの中で、「AIを導入した」という事実そのものが企業のアピール材料になっている。一方で現場には「AIで何かやれ」という抽象的なミッションが……。また、KPIが「AI導入」「AIで効率化」技術導入が目的化し、本来の課題が置き去りといった構造的な問題が発生している。これは生成AI特有の問題ではなく、RPAやクラウドシフト、DXなど、過去の技術ブームでも繰り返されてきた構図だ。本企画では、トップと現場の「目的のズレ」に焦点を当て、失敗と成功の分岐点を提示する。
「AIのせいで仕事が増えた」 現場が語る“取りあえずAI”のツケ
キーマンズネット編集部が2025年末に実施した生成AIに関する調査において(「IT活用状況に関するアンケート 〜2026年を占う「7つのITトピックス」〜」、有効回答件数:408件)、注目したいのが、生成AIを業務で利用した、あるいは利用しようとした際に直面した失敗経験に関する調査結果だ。この結果からは、目的が十分に整理されないままツールだけが現場に渡された実態が見える。失敗経験として「導入したものの、現場が使いこなせず使われなくなった」と回答した割合は11.0%に上った。
さらに、「アウトプットの精査に時間がかかり、かえって業務効率が低下した」という回答も10.0%あった。「アウトプットの精査に時間がかかった」(18.4%)という声と合わせて見ると、生成AIの出力内容を確認する作業に多くの時間を費やしている現状が見える。なお、失敗要因として最も多かったのは「プロンプト作成のノウハウが足りなかった」(36.8%)だった。
原因は、単に現場のリテラシー不足だけではない。背景には、「何のために使うか」という業務課題とのひも付けが十分ではないケースもあるだろう。
本来、新しいITツールを導入する際は、特定の業務のボトルネックを解消するという明確な目的があるはずだ。だが、「まずAIを使うこと」が前提になると、現場には「AIを使って何か業務を効率化してほしい」といった、曖昧(あいまい)なミッションが降ってくることもある。
現場は日常業務を抱えながら、不慣れなプロンプトを試行錯誤し、生成されたテキストに誤りがないか(ハルシネーションが起きていないか)を一つ一つ確認しなければならない。結果として、期待した効率化につながらず、かえって作業時間が増えてしまう場合もある。
また、具体的な課題解決のゴールが共有されないまま「とにかく使うこと」が求められると、現場のモチベーションも上がりにくい。その結果、使いこなせず、やがて使われなくなることもある。新しいシステムの導入によって一時的に現場の負担が増え、そのまま定着しないまま終わる。こうした状況は、IT導入の現場でこれまでも見られてきた、プロジェクトが失敗に終わる典型例だ。
「効果測定はしない」6割超が陥る“やりっぱなしAI”
深刻なのは、生成AI導入における評価のプロセスが抜け落ちている企業が多数あることだ。
前述の失敗経験の調査において、「導入目標やKPIを定めておらず、成果を評価できなかった」という回答は21.3%に上り、「プロンプト作成のノウハウ不足」に次ぐ2番目に多い失敗理由だ。
目標やKPIが十分に定まっていないという状況を裏付けるのが、別のアンケート項目の結果だ。生成AIサービスなどを「利用している」とした回答者(有効回答数:237)に対し、「効果測定の方法」について尋ねたところ、「効果測定法が確立している」と回答した企業はわずか3.4%にとどまった。一方で、「効果測定法が分からず、測定できていない」が35.4%、「効果測定をするつもりがない」が29.5%に上る。
つまり、生成AIを利用している企業の6割以上が、その効果を適切に測れていない、もしくは測る気すらないということだ。
通常のビジネス施策やIT投資では考えられないことだ。数千万円規模の基幹システム刷新であれ、月額数万円のSaaS導入であれ、投資に対するリターン(ROI)やコスト削減効果をシビアに見積もり、導入後に検証するのが本来の姿勢だ。
だが、生成AIに関しては、効果測定の方法が分からないまま、あるいは測定する予定がないまま運用されているケースも少なくない。なぜこうした状況が生まれるのか。そこには、第1回で指摘した「技術導入そのものが目的になってしまう」という問題がある。
経営層にとって「生成AIを導入した」「時代に乗り遅れず、最新テクノロジーを活用している」という既成事実を作ること自体が目的化しているため、その後の実業務における投資対効果やKPIはどうでもよくなっているということだ。
トップの「取りあえず活用した」という事実と、KPIが「AI導入」そのものになっている状況では、効果測定の仕組みが育つはずもない。こうして、現場には効果も分からないまま使い続けなければならないシステムだけが残される。
「この課題にAIは不要」3%が下した“合理的な撤退”
生成AIは決して魔法のつえではない。全ての企業や業務課題に対して、万能の解決策になるわけではない。
この点を考える上で見ておきたい調査結果がある。「生成AIを利用していない」とした回答者(回答数:62)に対して、利用しない理由を尋ねたアンケート結果だ。
回答の上位には、「スキルを持った人材がいないから」(38.7%)、「利用したい業務がないから」(24.2%)、「予算がない、コストを捻出できないから」(21.0%)、「具体的な活用イメージが湧かないから」(21.0%)といった理由が並んだ。
その中で少数ながら、「PoC(概念実証)の結果、導入を見送ったから」という回答も3.2%あった。これは、生成AIの活用が必ずしも全ての企業にとって最適な選択とは限らないことを示している。
生成AIブームの中で、他社が導入事例を発信していると、「自社でも導入できないか」と考えるのは自然なことだが、この3.2%の企業は、そうした流れに流されることなく、現場の課題と照らし合わせながら概念実証を実施し、「自社の課題解決には適していない」「コストに見合う効果が見込めない」と判断し、導入を見送っている。
これは、プロジェクトの失敗ではなく、自社の課題を起点に解決手段を検討し、その結果として「AIを使わない」という選択をした、適切なIT投資の判断プロセスと言える。
本来、組織で課題解決を進める際の流れは、「課題整理→解決手法の検討→実行→評価」の順だ。だが、AI導入ありきで議論が進むと、「AI導入の号令→解決すべき課題の検討→手法の模索」という順序の逆転が起こり、現場とのギャップが生まれやすい。
PoCを踏んだ上で「今回は導入しない」と判断することも、重要な意思決定の一つだ。こうした判断ができるかどうかは、トップと現場の認識のずれを防ぎ、冷静にIT投資を進める上で大切なポイントになる。
アピール目的のトップとどう握る? 求められる情シスの“翻訳力”
ここまで、読者調査のデータを基に、生成AI導入の実態を見てきた。
「導入したものの使いこなされず定着しない」「かえって業務効率が下がる」「効果測定が行われていないAI導入」。この背景には、トップが考える「アピールや投資としてのAI導入」と、現場が求める「業務課題の解決としてのAI導入」という、成功の定義のズレがある。
ただし、トップを「技術を理解していない」と批判したり、現場を「変化に対応できない」と嘆いたりするだけでは状況は改善しない。トップが「自社の先進性を示したい」と考えること自体も、企業戦略や広報の観点から見れば自然な判断だ。
重要なのは、両者の立場や目的を理解した上で、その間にあるギャップを埋めていくことだろう。トップの「AIで何かできないか」という抽象的な期待を、現場の具体的な業務課題に結び付け、実行可能な施策とKPIに落とし込んでいく。その橋渡し役を担えるのは、技術と業務の両方を俯瞰できるIT担当者や情報システム部門だ。
次回、最終回となる第3回では、情シスがどのようにして経営層の「取りあえずAI」という号令を出発点にしながら、現場の課題解決につながるプロジェクトへとつなげていくか。具体的な進め方やポイントを紹介する。
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