研修内容の74%は翌日に忘れられる AIで「成果につながる学び」を作る方法とは
研修で知識をインプットしても、その多くは定着しないまま忘れ去られていく。学んだ内容を業務の成果に変えるために、AIをどう使えばいいのか。
動画やeラーニングで知識をインプットしても、研修の効果が業務の成果にまで結び付かないという悩みは、多くの企業が抱える共通の課題だ。学んだ内容を成果に変えるためにAIをどう活用すべきか。実例とともに、その輪郭が見え始めている。
学習体験を通じて企業や個人のパフォーマンス向上を支援するUMUテクノロジージャパンの本橋孝洋氏(執行役員ラーニングイノベーション本部長)は、AIを組み込んだ人材開発の最新動向と、導入企業の成果を解説した。
研修の74%は翌日に忘れる AIと「学習の科学」で学びの成果を設計
本橋氏が冒頭で強調したのは、人材育成における普遍的な課題だ。
「エビングハウスの忘却曲線によれば、人間は学んだ内容の多くを短時間で忘れてしまいます。つまり、研修でインプットしたことは、翌日には74%が記憶からなくなってしまう。これでは研修や動画コンテンツにお金をかけてももったいない」(本橋氏)
この課題に対する同社の回答が、アウトプットを学習プロセスの中心に据えることだ。
本橋氏はコロンビア大学の研究を引きながら、「インプット3に対してアウトプット7が理想」と語る。動画視聴やテキスト学習で終わらせず、学んだ内容を実際に口に出し、手を動かして練習する。その繰り返しによって、知識が成果につながるスキルへと変わるという考え方だ。
この「インプットだけで終わらせない」という考え方を形にしたのが、同社の学習プラットフォーム「UMU」だ。「教える」「学ぶ」「練習する」「評価する」「管理する」という一連のプロセスを1つのプラットフォーム上で完結できる。動画コンテンツの配信やユーザーによる視聴、AIを使ったロールプレイ(ロープレ)、アセスメント、組織や個人単位での進捗管理が分断されずに回ることで、研修の効果が現場の業務にまでつながる構造を目指している。
自分を客観視するAIエクササイズ
学習プロセスの中核となるのが、AIによるアウトプット練習機能「AIエクササイズ」だ。利用者がカメラの前で営業トークやプレゼンをすると、AIが複数の観点から自動でフィードバックを返す。
評価対象は多岐にわたる。顔の周りには表情や目線を捉える検出枠が表示され、手元の動きはジェスチャーとして測定される。音声からはスピードや抑揚を分析し、話している内容は全て文字に書き起こされる。話し終えた直後に各項目のスコアが提示され、自分の改善点をその場で確認できる。録画した動画はサムネイルを選んで課題として提出でき、他のメンバーの動画と見比べたり、相互にフィードバックを送り合ったりすることも可能だ。
「自分が他の人と比べてどこが良くなかったのか。もっとこうした方が良かったな、話すのが早いな、ということに自分自身で気づいていただけます。自分自身を客観的に見るメタ認知こそが、人間が最も成長する瞬間といえます」と本橋氏は説明する。これは同社が重視する「学習の科学」の中核をなす考え方でもある。
中途社員の研修業務を6割超削減した医療機器メーカーも
続いて、同社のソリューションによる学習が現場で生んだ成果が紹介された。1つ目は、某大手医療機器メーカーの中途社員教育の事例だ。導入の狙いは、本来削減したい業務に費やす時間を減らし、その分をアウトプット練習の時間に充てることにあった。
成果は明確に表れた。準備や講義、プレゼンチェックといった一連の業務にかかる所要時間は64.1%削減、質問や問い合わせ対応の業務も86.8%削減された。これにより生み出された時間を、ロープレなどの実践練習に充てる構造に切り替えたという。
「AIによって業務の効率性を増して、時間を作る。それによって、本来充てるべきアウトプット回数を大幅に増やすことが可能となりました」と本橋氏は振り返る。学んだ知識を成果に変える練習量を確保するには、まず学習プロセス全体のムダを削る必要がある。同社の事例はそれを実証する形となった。
2つ目は、某大手コールセンターの事例だ。同社では、内容の異なる多様な問い合わせをオペレーター1人で対応する「ワンオペ状態」が常態化していた。問い合わせの幅広さに対し、研修は集中力低下による脱落者が発生しやすい詰め込み型で、講師不足のため適正な研修時間も確保できない状態だった。結果として、業務過多による早期離職が大きな課題となっていた。
この企業がUMUを導入したところ、入社6カ月後の離職率が55%から20%へと35ポイント改善した。詰込み型の研修からアウトプット中心の学習へと切り替え、オペレーターが業務に必要なスキルを着実に身につけられる体制が、定着率の改善に寄与したと考えられる。
ロープレを支える双方向AIチャットbot
UMUのもう1つの柱が、「AIロープレ」と呼ばれる双方向のロープレ機能だ。先述のAIエクササイズが一方的に話す形式の練習であるのに対し、こちらはAIが上司や顧客などの相手役を演じ、利用者は実践に近い形で対話練習を積める。1on1の指導訓練や、カスタマーハラスメントへの対応訓練など、相手役を確保しにくいシーンでの活用が広がっているという。
画面上にはペルソナ設定や背景情報、ロープレのゴールが表示され、これに基づいて対話が進む。終了後にはAIが評価し、総合スコアに加え、オープニングトーク、課題ヒアリング、ソリューション提案など、フェーズごとに点数や良かった点、改善点が示される。評価項目はユーザー企業が自社の営業プロセスに合わせて選択できる。本橋氏が強調するのは、評価で終わらせない設計思想である。
「ロープレで自分の苦手な部分に気づいたら、プラットフォームに戻ってインプットし直して、AIエクササイズでトレーニングを積む。その後にもう1回ロープレに戻ってくる。このようなPDCAをしっかり回してもらうことが非常に重要です」(本橋氏)
評価から学習、再練習、再評価へとつなぐサイクルは、他社のAIロープレでは実現しにくい同社の差別化ポイントであり、利用企業からも評価されているという。
某大手広告会社の若手営業教育では、こうしたAIロープレを活用した結果、上長が時間を割けず指導が十分に行えないという課題が解消し、営業成績の向上につながった。アウトプットを伴うトレーニングの不足という現場の悩みに、AIが応える形となった。
プロンプト練習までを1つのプラットフォームに集約
UMUがカバーする領域は、ロープレや動画学習だけではない。生成AIの活用そのものを学ぶための機能として、プロンプト練習の仕組みも用意されている。利用者がテーマに沿ってプロンプトを入力すると、生成AIからの回答が返るのに加え、入力したプロンプトの良しあしについてもAIがフィードバックを返す。生成AIから望ましい出力を引き出すための問いの立て方を、実践と評価を繰り返しながら身につけられる設計だ。
動画によるインプットやAIエクササイズでのアウトプット、AIチャットbotでの双方向練習、プロンプトリテラシーの強化までを1つのプラットフォーム上で完結できる点が、同社サービスの広がりを支えている。
UMUのプラットフォームには、学習量に応じたランキング表示やレベルアップ、ポイント獲得といったゲーミフィケーションの要素が組み込まれている。アウトプット練習を重ねるほど数値が動き、組織内での自分の位置が見える。AIによる効率化が時間を生み、生まれた時間がアウトプット練習に注がれ、それが成果と内発的動機を引き出す。
「初めは強制的に教育を受けるかもしれませんが、いつの間にか自分で決定して、これをやるんだという思いで使っていただいているユーザーが多いです。やらされるのではなく、自分でやると決めて、しっかり動機を持って取り組んでいただくことが、成果を生む人材育成には重要です」(本橋氏)
本稿は、2026年5月26日に開催されたカンファレンス「事例に学ぶ“AI活用の成果”ホントのトコ」(主催:ファネルAi)の講演内容を基に、編集部で再構成した。
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