舞鶴市「脱Windows」で6億円削減 1人1日82分を時短したGoogleツールの使い方
京都府舞鶴市は、2024年の年末から2025年の初めにかけて、全職員のPCをWindows端末からChromebookに変更し、業務基盤をMicrosoft Office環境からGoogle Workspaceへ移行した。この改革によって自治体業務はどう変化したのか。
全職員のWindows端末を「Chromebook」に変更し、業務基盤を「Microsoft Office」環境から「Google Workspace」へ移行した舞鶴市。導入から約1年が経過し、同市は職員1人当たり1日平均82.1分もの業務時間削減を実現し、16億円という驚異的なコスト削減に成功した。
Google環境への移行を決めた背景や移行時の工夫、Googleサービスの活用状況と成果、活用促進のための工夫と課題、自治体業務への影響について、同市政策推進部デジタル推進課のメンバーに話を聞いた。
見積もりは予算の2倍 舞鶴市を「脱Windows」を決断したワケ
舞鶴市がGoogle環境への移行に舵を切ったきっかけは、事務用PCの更新時期に直面した「予算の壁」だった。中山雅之氏(情報管理係 係長)は、当時を次のように振り返る。
「従来のオンプレミスベースで今後5年間の更新費用を見積もったところ、もともとの予算枠(約11億円)を大幅に超過する約21億円にまで跳ね上がってしまいました」
予算の逼迫(ひっぱく)に対し、同課は単なるコストカットではなく、「働き方を根本から変え、かつ予算内に収めるための方法」をゼロベースで模索する。そこで浮上したのが、Google WorkspaceとChromebookを中核とする業務環境の構築だった。
事前の見積もりでは、最終的な費用を約9億円にまで抑えられる見込みが立った。大幅な予算削減に加え、懸念事項だったオンプレミスサーバの容量制限からの解放や、自治体特有の三層分離環境に起因する動作遅延の改善も期待できたことから、移行への機運は一気に高まった。
背景には、セキュリティ機能への期待の高さもある。Chromebookには、端末自体の安全性を担保するEDR機能が標準装備されており、Webブラウザの出入口を守る「Chrome Enterprise Premium」(CEP)との組み合わせによって、セキュリティ面の強化が期待できる。Googleの集中管理機能(CEU)によるローカルへの保存禁止に加え、CEPによるゼロトラストアクセスやDLP(Data Loss Prevention)制御機能が、万が一の端末紛失時に情報漏えいを防ぐと判断された。
「移行の背景には、働き方が民間企業と乖離(かいり)し続けている危機感もありました。Google環境へ移行しても業務が回るかどうかを徹底的に検証した上で、職員の働き方を大きく変革できるとの確信を上層部に示し、移行へと大きく舵を切りました」(中山氏)
全移行のための取り組み
Google環境への移行では、まず2024年12月に旧PCのままでGoogle Workspaceアカウントを全庁に先行付与し、実際に触って慣れてもらう「同時稼働期間」を設けた。そして2025年2月のChromebook配布時には、「受講しなければ端末を渡さない」という強制力を持たせた1時間のハンズオン研修を徹底し、初期の脱落者を最小限に抑えた。
しかし、導入直後は戸惑う職員もおり、デジタル推進課には1日30件を超える問い合わせの電話が殺到した。そこで同課は、地域活性化起業人としてKDDIから派遣された横田大直氏(デジタル推進係)の協力の下、問い合わせに対応する仕組みを構築した。
まず、「kintone」で問い合わせフォームを作成し、現場から寄せられた疑問と回答を集約する。2025年2月中旬頃からは、蓄積されたナレッジを「NotebookLM」に読み込ませてチャットbotとして職員に開放した。
職員が疑問を持った際、まずはチャットbotに質問し、解決しなければkintoneのフォームから問い合わせる。さらに、新たな問い合わせ内容を随時NotebookLMに反映し、回答精度の向上を図った。その結果、問い合わせは10件程度にまで減少し、運用負荷の大幅な軽減に成功した。
導入から約1年 Googleサービスの活用状況と成果
Google環境への移行から約1年が経過し、期待していた効果は着実に現場へ浸透している。
舞鶴市が2025年11月に全職員約1100人を対象に実施したアンケート(300人が回答)によると、Googleサービスの活用によって、1人当たり1日平均82.1分もの業務時間削減に成功したという。
同アンケートによると、主な用途は以下3つに集約される。
1.Googleカレンダーを活用した日程調整の効率化
関係者全員の予定を重ね合わせることで空き時間が一目で把握できるようになり、調整スピードが劇的に向上した。
2.Google Workspaceのファイル共同編集機能によるバケツリレーの解消
クラウドのファイルを複数人でリアルタイムに共同編集できるため、従来のメール添付などによる煩雑な版管理の手間が必要なくなった。
3.Google Meetによる会議のペーパーレス化と議事録作成の自動化
会議では職員が各自の端末を持参することで紙資料を廃止。さらに、AIによる自動文字起こしを活用して議事録作成を効率化した結果、関連業務にかかる時間を7〜8割削減した。
なお、瀬野公哉氏(デジタル推進係 係長)によると、2025年8月のGoogle Workspaceにおける「Google Gemini」(Gemini)の機能拡大に伴い、作業中のドキュメントやスライドから直接Geminiを呼び出せるようになったことで、利用率が一気に向上した印象があるという。
業務時間の削減に加え、コスト面での成果も当初の想定を大きく上回った。
5年間の総経費は、ディスカウントや2025年1月のGeminiライセンス統合(Google Workspaceとの統合による追加費用の不要化)などが重なり、最終的に約5億円にまで圧縮された。当初のMicrosoftベースの見積もり(21億円)と比較すると、実に約16億円の削減、情報更新予算枠(11億円)から見ても約6億円の予算削減を達成したことになる。
さらに、ペーパーレス化が全庁で進んでいたことを受け、更新時期がきていた認証印刷システム(5年間で6000万円)を廃止するという副次的効果も生まれている。
活用促進のための工夫と課題
デジタル推進課では、Googleサービスの活用を全庁的に定着させるため、多角的な取り組みを進めている。
例えば、Google Workspaceにおける各機能(同時編集機能等)を解説するショート動画の展開や、庁内ポータルサイトにおける職員のGemini利用率の可視化、さらにはコミュニティーでの学び合いの促進などだ。
コミュニティーは有志を募って結成され、効率化のアイデアを職員から募集し、参加者同士で意見交換をする場となっている。コミュニティーから寄せられた働き方改善の要望を受け、PDF編集ツールやタスク管理ツール、庁内掲示板システムの構築など、業務改善に向けた内製開発が進められている。併せて、デジタル推進課に限らず、「Google Workspace」や「Gemini」「Google Apps Script」(GAS)を活用した全庁的な開発の推進も検討している。
「将来的には、コミュニティーでの知見を生かし、各部署の職員がGASで必要なアプリを開発して全庁へ発信するような、自律的なデジタル環境を構築したいですね」と瀬野氏は、今後の展望について語る。
さらに今後は、NotebookLMの活用を庁内に展開していく方針だ。
「会計規則や契約規則を読み込ませた全庁向けのチャットbotに加え、例えば市民課であればマイナンバーカードに関するQ&Aを読み込ませることで、各部署の業務に特化したチャットbotを開発でき、さらなる業務の効率化につながります」(瀬野氏)
デジタル推進課では2026年度にテスト用端末としてPixel9aを10台導入しており、今後どのような業務に使用可能かを探っている。現在は私物スマートフォンへのアプリ導入による制限付きの利用となっているが、安全なネットワーク環境の下でより柔軟に業務を処理する環境を検証し、数年後の全庁導入を目指す方針だ。また、AIエージェントについても、デジタル推進課の職員を中心として2027年度を目安に研修を開始し、業務に展開する予定だという。
一方で、1年間の運用で見えてきた課題もある。内勤の事務職員が効果を実感する一方で、市民課など窓口担当職員の利用率が伸び悩んでいることだ。
デジタル推進課によると、今後は個々の職員の業務環境に合わせたアプローチを検討し、全庁的な底上げを図る方針だという。現段階では、職員が現場に数時間〜半日滞在し、実際の業務の流れを見ながら効率化の方法を提案する出張相談の実施が検討されている。
市民サービスにも活用 ゆくゆくは他自治体との連携も
舞鶴市の職員は、Google環境への移行によって「場所を選ばない働き方」を実現した。この強みを市民サービスへ直接還元する動きが既に始まっている。
その一例が、職員が市内の公民館へ出向いて臨時開設した「どこでもデジタル相談窓口」だ。「『LINE』の使い方」や「病院のオンライン予約」といった、高齢者をはじめとする地域住民からの身近な質問にその場で回答する取り組みで、利用者から好評を博した。
舞鶴市の先進的な取り組みは大きな注目を集めており、2026年度に入ってから他自治体の視察や問い合わせが相次いでいるという。
中山氏は、移行による自治体業務への影響を次のように語る。
「移行した当初は職員からの問い合わせが相次ぎましたが、結果的に働き方が変わり、『移行してよかった』と言われることも珍しくありません。外的要因によるWindows依存は避けられない面がありますが、普段の業務に関しては、Google環境で全く問題がないと考えています」
国に対しても、システムのモダン化やより自由度の高い環境選択ができるよう、自治体の声を届けていくつもりだと話す中山氏。今後は成果やナレッジやオープンに発信すると共に、同じように悩んでいる自治体関係者とつながって「Google仲間」を増やしていきたいと語る。
舞鶴市の取り組みは、全国の自治体業務をどう変えるのか。今後も注目していきたい。
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