賞金1000万のAIコンテスト、でも「実現性は問わず」 サイバーエージェントのAI推進策
生成AIを導入しても、従業員に使われなければ成果にはつながらない。サイバーエージェントは、賞金1000万円のAIコンテストを開催し、あえて「実現性」を問わない仕掛けで社員の意識を変えた。その狙いとは。
「生成AIを活用する会社と、そうでない会社。その差は数年後、圧倒的なものになる」。サイバーエージェント会長の藤田晋氏が、このメッセージを社内報で発信したのは、「ChatGPT」が登場した2022年のことだった。
もっとも、同社のAI活用の歴史はそれ以前から始まっている。2016年頃から主に広告事業でAIの活用を進めてきたが、ChatGPTの登場を契機に方針を大きく転換した。特定の業務にとどまらず、全社・全グループの業務へと生成AIの活用を広げる取り組みを本格化させた。
あえて「実現性を重視しない」 サイバーエージェントの狙いとは
従業員が自発的にAIに関わりたくなるモチベーションを生み、組織全体に活用の土壌を築く。そのためには、従業員一人一人がAI活用を「自分ごと」として捉えることが必要だ。サイバーエージェントにはもともと「仕事を楽しむ」という文化が根付いており、その文化を生かしてAI浸透のための「お祭り」を仕掛けた。その代表例が「生成AI徹底活用コンテスト」だ。
初開催は2023年。第1回コンテストのテーマは、「生成AI活用を自分ごととして考えてもらうこと」だった。優れたアイデアには総額1000万円の賞金を用意した。何より重視したのは「実現性を問わない」こと。この方針には、AI活用を組織に広げるための明確な狙いがあった。
実現可能性を条件にすると、参加者はエンジニアや専門人材に限られてしまう。そこで、全ての従業員が参加できるよう、「日々の業務で面倒だと感じていること」「効率化できればより創造的な仕事に時間を使えること」といった身近な課題を出発点に、生成AIならどう解決できるかを自由に考えてもらった。実現性よりも発想を重視することで、AI活用への心理的ハードルを徹底的に下げる狙いがあった。
その結果、さまざまな事業を抱えるグループ各社から多様なアイデアが集まり、推進側も把握できていなかった現場の業務課題が可視化された。AIオペレーション室長の上野千紘氏は、「現場の課題理解の解像度が大きく高まった」と振り返る。
そして2025年、第2回コンテストを開催した。この2年間で生成AIの性能は飛躍的に向上し、2023年当時は実務への適用が難しかったアイデアの多くが、現実的に実装できる水準へと進化していた。
こうした変化を受け、第2回ではコンテストのルールも刷新した。単なる課題提案ではなく、「AIを使ってどのように課題を解決するのか」という具体的な設計や実現性、さらには事業価値をどのように高めるかまでを評価対象とした。AI活用の発想を促す段階から、実際の事業成果を生み出す段階へと、コンテスト自体を進化させた。
第2回のコンテストで集まった応募は約2700件。「仕事を楽しむ」という組織文化を生かしてAI活用を「自分ごと化」し、その後、実現性や事業価値を重視するフェーズへと発展させる。サイバーエージェントは、組織へのAI浸透を段階的に進めることで、AI活用の裾野を広げると同時に、事業成果へとつながる取り組みへと発展させていった。
AI活用レベルを可視化する「事業部対抗AI番付」
現場社員の意識向上を目的としたコンテストに加え、サイバーエージェントは事業部門(グループ会社を含む)のリーダー層の意識改革にも取り組んだ。
狙いは、各事業の責任者が「AIによって自社の事業価値は本当に高まっているのか」という問いに真正面から向き合うことだ。その上で、自部門の現状を客観的に把握し、AIを活用して事業価値をさらに高めるための業務設計や組織づくりを主体的に考えてもらうことを重視した。
AIオペレーション室長の上野千紘氏は、「事業の価値がAIによって本当に上がっているのかについて、事業部門のリーダーにしっかり向き合ってもらうことが重要です。そのうえで、自部門の現在地を把握し、AIを活用して事業価値を高めるための業務設計を考えてもらう必要があります」と話す。
こうした狙いのもと、サイバーエージェントグループが2025年に開始したのが、「事業部対抗AI番付」だ。相撲の番付になぞらえ、各事業部門のAI活用レベルをランキング化する取り組みだ。2025年10月に制度を発表し、2026年4月に初回の番付を公表した。以降は半期に一度の実施を予定している。
評価の軸は、「経営インパクト」と「AI活用の推進・文化づくり」の2つだ。単にAIツールを導入しているかではなく、AIが組織や事業価値の向上にどこまで結び付いているかを評価する。
番付は、AI活用の成熟度に応じて段階的に定義されている。例えば、AI活用が個人レベルにとどまる段階は「幕下」。他部門の成功事例を取り込み、組織として実践できている段階は「十両」、自部門の業務へ部分的に定着している段階は「前頭」、組織全体へ包括的に浸透している段階は「小結」といった具合だ。さらに、継続的な成果が組織として生み出されている段階を「関脇」「大関」、AIを前提に組織や業務そのものを再設計し、新たな価値創造を実現している段階を最高位の「横綱」としている。
番付は、AI活用の成熟プロセスを段階的に整理したものだ。初期段階では、個人の生産性向上が中心となる。中期段階では、成功事例を重要施策や業務プロセスへ展開し、事業価値の向上につなげる。そして最終段階では、AIを前提に事業のミッションや組織の在り方を見直し、業務プロセスや組織を再構築することで、新たな価値創造を目指す。
この番付は一般社員を含む事業部門全体を対象としているが、エンジニア部門では、ソフトウェア開発におけるAI活用に特化した独自の評価指標を用いて運用しているという。
事業部対抗AI番付も、“お祭り”の要素を取り入れた施策の一つだ。ただし、現場向けのコンテストとは異なり、事業部門のリーダーにとっては強い当事者意識と適度な緊張感を生み出す仕掛けにもなっている。
番付は、各部門の責任者の顔写真とともに社内へ公表される。自部門のAI活用レベルが可視化されることで、リーダーは自部門の現状と向き合い、次のステップを意識せざるを得ない。
上野千紘氏は、「単なる時間や工数の削減で終わってしまっては意味がありません。本質的には、AIによって売り上げや事業価値が向上しているか、そして創出した時間を使ってどのような新たな価値を生み出すかという視点で、業務や組織を再設計していくことが重要です」と話す。
AI活用の成果をコスト削減だけで評価するのではなく、事業価値の向上や組織変革まで視野に入れる。そのメッセージを、番付という遊び心のある仕掛けで浸透させる取り組みと言える。楽しさと適度な競争、そして責任感を組み合わせた、サイバーエージェントらしいAI推進策だ。
「わカルさんbot」で「質問する習慣」を作る、freeeの狙い
一方、freeeのAI活用推進のアプローチは、AI利用への心理的なハードルを下げる親しみやすいAI botと、リーダー同士が取り組みを共有する「経営合宿」での「AI成果発表会」が中心だ。
AI botは、まず従業員にAIを使ってもらい、利用への抵抗感をなくすための施策だ。入社後のオンボーディング研修では、全従業員が同社の「わカルさんbot」を一度利用する仕組みを設けている。
「わカルさんbot」は一般的な質問に答えるものではなく、「Confluence」にまとめられた社内規定や全社マニュアルなどを基に、「Slack」で従業員の疑問に答える仕組みだ。困ったときにはまずbotに聞くという習慣を作り、回答の誤りや改善点を従業員がフィードバックすることで、botを継続的に育てていくサイクルを構築している。
freeeのCIO兼カルチャー/DEI担当の前村菜緒氏は、「一緒にbotを育てていく」というフィードバックループを重視したAIオンボーディングを進めているという。可愛らしいカモメのキャラクターや独自の回答スタイルを設定することで、AIを「完成されたツール」ではなく、利用者とともに進化させていくものとして理解してもらう狙いがある。
一方で、各事業部では実務でのAI活用も進んでいる。その成果を共有する場として開催されているのが「AI成果発表会」だ。経営合宿で各部門のリーダーが活用事例を発表し、その内容は全従業員にも公開されている。
どの部署が、どの業務で、どのようにAIを活用しているのかを誰もが把握でき、参考になる取り組みは自部門や自身の業務にも展開できる。実際の成果を評価し、全社で共有することで、AI活用のさらなる広がりにつなげている。
サイバーエージェントの上野氏も「最も効果的だったのは事例の共有」と語る。小さな成功事例を生み出し、それを組織全体へ広げていくことが、AI活用を定着させる大きな推進力になるという点は、両社に共通する考え方だ。
中小企業も明日からできる「AI定着のアクション」
今回の議論から、AIは導入するだけでは事業成果に直結しないことが分かった。重要なのは、導入後の活用を促す仕掛けづくり、つまり社内への「プロモーション」だ。さらに、単なる業務効率化にとどまらず、AI活用がどのように事業価値の向上につながっているのかを検証することも、推進における重要なポイントだ。
その具体策として挙げられた「コンテスト」「活用番付」「成果発表会」といった施策は、多くの企業にとって参考になるだろう。一方で、推進側には活用方法を一方的に示すのではなく、先行事例を起点に各部門や個人が自ら活用の可能性を考えられる環境をつくる役割が求められる。
モデレーターを務めたfreee業務計画部部長の山本晴香氏は、「明日から実行できる施策」について質問した。これに対し、前村氏は、まずAI活用を個人の業務効率化だけで終わらせず、「自分はこう使っている」という身近な活用事例を周囲と共有することの重要性を語った。
さらに、社内にいるAI活用に積極的な従業員から具体的な事例や活用の楽しさを聞き、それを周囲へ広げていくことで、自然な利用の連鎖を生み出せるという。まずは小さな成功事例を共有し、互いに学び合う文化を育てること。それが、これからAI活用を広げたい企業、特に中小企業にとって優先すべき取り組みと言える。
本記事は「freee 統合ワールド 2026」(主催:freee、2026年6月16日開催)での講演を基に編集部で再構成したものだ。
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