オンラインストレージは第3のデータストアの地位を確立するか?:すご腕アナリスト市場予測(1/3 ページ)
DropboxやBoxなどさまざまなオンラインストレージサービスが登場したが、その使い分けの心得とは? アナリストが勘所を伝授する。
アナリストプロフィール
岩上由高(Yutaka Iwakami):ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品及びビジネスの企画、開発、マネジメントに携わる。ノークリサーチでは技術面での経験を生かしたリサーチ、コンサルティング、執筆活動を担当。
スマートフォンの普及などによって、昨今では「撮影した写真をクラウドに保存する」といった操作を個人が当たり前のように行うようになった。このようにHDDなどを購入することなく、クラウド上に保存されたデータを読み書きできるサービスが「オンラインストレージサービス」だ。
こうしたサービスは個人向けだけでなく、企業向けにおいても普及が進みつつある。オンラインストレージサービスは企業にとってPC、サーバとストレージに続く「第3のデータストア」としての地位を確立するのだろうか。ユーザー企業に対する調査データなどを交えながら、オンラインストレージサービスの最新動向について見ていく。
オンラインストレージ活用状況
以下のグラフは文書管理やファイル管理システムを導入している年商500億円未満の企業における「社内設置型文書管理システム」と「オンラインストレージサービス」の導入割合を比較したものだ。つまり、企業が導入する文書管理やファイル管理システムのうち、オンラインストレージサービスに相当するものがどれくらいあるかを示した結果といえる。
ただし、ここでは「企業として認知されているオンラインストレージサービスの利用」を対象としており、個人での利用や企業に承認を得ない形での利用は含まれていない。また、「社内設置型文書管理システム」と「オンラインストレージサービス」を併用するケースもあるため、設問は複数回答を許可する形式となっている。
オンラインストレージサービスの導入率はおおむね年商規模が小さくなるほど高くなっているが、年商300億円以上〜500億円未満においても高い導入率となっている。こうした傾向を理解するためにはオンラインストレージサービスの導入経緯を押さえておく必要がある。一般的に企業がクラウドを導入する場合には大きく分けて
- パターン1:既存のシステムをクラウドへ移行する
- パターン2:新たなIT活用シーンに伴って新規にクラウドを導入する
の2通りが存在する。
年商5億円未満(小規模企業層)や年商5億円以上〜50億円未満(中小企業層)といった比較的年商の低い企業層においてオンラインストレージサービスの導入が高い要因は既存のファイルサーバからのクラウド移行が進んでいるからではない。実際、これらの企業層では自社内設置型ファイルサーバ(低価格のLAN接続型HDDなども含む)へのニーズも依然として見られる。
導入が進んだ要因は「スマートデバイス」と「コラボレーション系SaaS」
では、オンラインストレージサービスの導入を後押しするものは何だろうか。それは「スマートデバイス」と「コラボレーション系SaaS」である。
近年、こうした企業層では旧来型のメールシステム(主にインターネット接続プロバイダーが提供する簡易メールサービス)からクラウド型メールサービスやファイル共有サービスへの移行が進みつつある。
こうしたサービスはスマートデバイスを用いた社外利用を想定した機能を備えるものが多く、実際にコラボレーション系SaaSを導入する企業においてはスマートデバイスの導入率が高くなる傾向が見られる。「社外からも業務をこなしたい」というニーズは小規模企業層や中小企業層においても潜在的に高く、それにマッチしたものと考えられる。
つまり、「スマートデバイス」と「コラボレーション系SaaS」が登場したことによって、「社外から文書やファイルを閲覧、編集する」というIT活用シーンが生まれ、それに伴いオンライストレージサービスの企業としての利用が進んだ(パターン2)ということになる。
こうした流れでのオンラインストレージサービス導入はIT活用レベルがそれさほど高くない小規模企業や中小企業の方がより大きなメリットを感じやすい。そのため、低い年商帯における導入率が高いものと考えられる。
年商300億円以上〜500億円未満の中堅上位企業層においてオンラインストレージサービスの導入率が高い要因としては上記に述べた流れが部門、部署の単位で起きているケースと「コラボレーション系SaaS」および「スマートデバイス」の導入が企業規模で行われているケースの2つがある。いずれも、IT活用における統制が効いており、企業に認知された形でのオンラインストレージサービス導入を行いやすいことが背景にある。
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