スプレーで作れる発電機、「有機薄膜太陽電池」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)
材料を何かにスプレーすれば発電できる新型太陽電池が登場した。ビル壁面だけでなく、ドーム型の屋根だって太陽電池パネルになる。
電力変換効率15%を目指して
こうしてできた素子では、電力変換効率10%が達成できた。研究チームでは、この研究の延長上で12%までは可能だと考える。15%に行き着くには違ったコンセプトが必要だが、材料開発を進めてより高い変換効率を目指しつつ新技術の実証を行い、企業秘密という壁のない状態で有機薄膜太陽電池の仕組みを世界の研究者に広く知ってもらいたいという。
国内企業の有機薄膜太陽電池研究では、東芝や三菱化学、東レが世界最高レベルの変換効率をもつ素子を開発し、研究で先行する欧米や、急速に追い上げている中国と競い合っている状況だ。今回の発表を契機にしてより研究開発が進展することを期待したい。
関連するキーワード
有機半導体
有機材料のうち半導体の特性を持つもの。有機材料は炭素を含む化合物のことをいう。有機材料は一般に柔軟性に富み、軽量だ。また、希少な金属を利用することが多い無機デバイスと違って材料コストは安い。
加工がしやすく、化学的な手法で分子構造を組み立てることが可能なので、容易にさまざまな構造や機能性をもつ材料を作れる。有機ELディスプレイや有機電界効果トランジスタ 、有機薄膜太陽電池などの製品がある。
「有機薄膜太陽電池」との関連は?
有機薄膜太陽電池はn型半導体の性質を持つ有機材料のフラーレンなどと、p型半導体の性質をもつポリマー(高分子有機化合物)の組み合わせで電気を発生させる。
n型半導体、p型半導体
n型半導体では電子が電極のプラス側に移動し、p型半導体では正孔が電極のマイナス側に移動する。電子も正孔も電流を流す働きがあるので「電荷」「キャリア」と呼ばれる。nはネガティブ(マイナス)の意味で、pはポジティブ(プラス)の意味を持つ。
無機材料ではシリコンなどの材料に少量の不純物を加えることでn型半導体とp型半導体を作り分けられるが、有機材料では電子を受け取りやすい性質を持つものをn型半導体、電子を与えやすい性質を持つものをp型半導体と呼ぶ。LSIや太陽電池ではn型半導体とp型半導体を接合した構造をとる。
「有機薄膜太陽電池」との関連は?
有機薄膜太陽電池はn型半導体とp型半導体を接合して、その界面で起きる励起子からの電子と正孔の分離を起電力とする。n型半導体としてフラーレン誘導体が用いられることが多く、p型半導体としてポリマーが用いられる。
大型放射光施設「SPring-8」
理化学研究所が所有する、世界最高エネルギーの放射光を生み出す施設。兵庫県の播磨科学公園都市にある。放射光とは電子を加速して磁石で進行方向を曲げたときに放出される強力な電磁波のことで、物質のナノレベルでの構造解析などに広く利用される。
SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来する。国内外の研究者の共同利用施設として1994年から大学や公的研究機関、企業などに向けて放射光利用サービスを提供する。
「有機薄膜太陽電池」との関連は?
研究チームは、有機薄膜太陽電池の発電層の詳細な構造を解明するためにSPring-8を利用した。これにより、半導体ポリマーのフェイスオン配向とエッジオン配向の発電層における分布が明らかになり、効率アップのための「逆構造」を作り出す契機になった。
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