スプレーで作れる発電機、「有機薄膜太陽電池」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(3/4 ページ)
材料を何かにスプレーすれば発電できる新型太陽電池が登場した。ビル壁面だけでなく、ドーム型の屋根だって太陽電池パネルになる。
電力変換効率を上げるための方法は?
現在のところ、無機太陽電池ではシャープが多接合型で電力変換効率44.4%(本稿執筆時点で世界最高)を達成したが、有機薄膜太陽電池では東芝が11.8%を達成したのが世界最高レベルだ。
実用化の目安といわれる変換効率は15%なので、かなり近づいたといえるが、企業内での研究は技術内容が表に出ることがなく、どのような方法でその効率を実現しているのかが分からない。今回の理化学研究所のチームの発表は、効率アップのために何をしなければならないのかを明らかにした点でも重要だ。課題になるのは次の3点だ。
- 太陽光をたくさん取り入れること
- 電荷を効率よく発生させること
- 電荷をスムーズに電極まで運ぶこと
従来よく使われた半導体ポリマーであるポリチオフェンは、太陽光の中の380〜650ナノメートル程度の波長しか吸収しない。太陽光は380〜2000ナノメートル以上の波長を含むので、できるだけ広い波長領域が利用できるような半導体ポリマーを選べば、励起子を多く生み出せる。
理化学研究所の研究チームでは、「PNTz4T」という半導体ポリマーを開発した。このポリマーでは800ナノメートルの波長までを吸収できるので、太陽光をより有効に利用できるようになった。
上述したようにp-n接合を増やすための材料混合とともに、発電層の厚みを増すことも効率を上げるポイントだ。厚ければ厚いほど光の吸収量が増える。しかし、無機半導体に比べて半導体ポリマーは正孔が移動しにくい性質があり、発電層が厚すぎると正孔が電極にたどり着く前に電子と再結合して役に立たなくなる。
この点でもPNTz4Tは革新をもたらした。この材料は以前よりも結晶性が高く、正孔が移動しやすい特長を持つ。これにより、発電層の厚さを従来の倍となる約300ナノメートルにしても正孔が電極までたどり着くようになり、変換効率を約6%から8.5%程度にまで上げることができた。
電子と正孔が発電層を移動するときのスムーズさが変換効率に大きく影響する。上下に電極がある素子では、縦方向に電荷が移動しなければならないが、半導体ポリマーは平べったい分子構造を持つ。
それを縦向き(エッジオン)に配向すると、電荷は横に移動しやすくなり、縦には移動しにくくなる。逆に電極に並行した横向き(フェイスオン)に配向させると縦に電荷が移動しやすくなる。
しかし、半導体ポリマーが結晶を作るときに起きる自己組織化ではエッジオン配向になりやすいのが問題だった。
研究チームは、理化学研究所の持つ大型放射光施設「SPring-8」を利用して発電層の構造解析を行った。すると、ポリマー結晶中にエッジオン配向とフェイスオン配向の分子が混ざり合っていること、そして上部電極側にフェイスオン配向の分子が多く、下部電極側にエッジオン配向の分子が多いことが分かった。これは上部電極の方向に正孔が移動しやすいことを示す。
従来の構造では、下部電極に陽極が割り当てられていたため、ホールの流れを邪魔していたことが解明できた。そこで、陽極と陰極を入れ替えて、正孔の流れに沿った構造に変更した。これにより、さらなる変換効率アップが実現した。
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