ストレスチェック運用の落し穴、注意すべき5つの点:IT導入完全ガイド(3/3 ページ)
ストレスチェックの目的は制度対応にあらず。メンタルヘルス対策の推進という本質を捉えて運用体制を構築しなければそれこそ予算と時間のムダだ。
スケジュールに間に合わせることができるか
ストレスチェック制度では、1回目のストレスチェックを2015年12月1日から2016年11 月30日までの間で行うことと決まっているが、果たしてそれまでに準備が整うのかも、企業にとっては不安要素だ。アテにしていた産業医から実施者に就任することを拒まれることもある。
規定などの整備が間に合わない可能性もある。初めてストレスチェックを実施する企業はもちろんのこと、以前から実施してきた企業でも法令に準拠した形での実施は未経験。不慣れなことをすれば想定外の出来事も多く、対応に時間がかかりがちだ。従業員からの疑問に適切に答えられずに業務が滞ることもあるだろう。
そこで不確定要素はなるべく社内業務から外すことを、特に初回実施においては考えてみたい。専門業者のBPOサービスを利用し、規定などの作成やテスト実施、ストレス判定、専門医との契約など、不安な部分を外部専門業者に任せる選択があり得る。また、ソリューションによっては従業員からの相談窓口を担当してくれる場合もある。従業員にとっては社内関係者には尋ねにくいことでも相談できる安心感があり、ストレスチェック担当者の負担を軽減することにつながり、結果として早期のストレスチェック実施に役立つ可能性がある。
適切な実施者が得られるか
最重要ポイントは、適切な実施者の確保になるかもしれない。メンタルに専門性のある産業医がいてくれればよいが、産業医の多くは内科医だ。国内ではもともと少ないリソースの取り合いになることが予想され、自社で探しても必ずしも理想的な実施者と契約できるとは限らない。専門医の紹介サービスや、ソリューションの一部としての調達を利用することも考慮するとよいだろう。
なお、厚生労働省の想定では「高ストレス者」として抽出されるのは全体の約10%だという。その中で面接指導を希望する人もおよそ“10%”という説もあり、1000人規模の会社で10人いるかどうかという程度と推定されるので、専属ではなくても共同実施者として専門医に加わってもらうことは十分に現実的だろう。
もちろん、メンタルヘルスに詳しい専属産業医が得られればそれに越したことはない。その人にストレスチェック制度担当者として企業の中のファシリテーター役を担ってもらうこともできる。そうした人材が得られるかどうかが、メンタルヘルス対策の質にもつながるので、ここは注意して取り組むべき課題だ。
ちなみに、実施者は従業員と会社の間に立つことになり、どちらにも偏らない判断が求められる。ブラック企業がある一方で、ブラック社員も一部には存在する。本人の言うことをうのみにして安易な休職や残業禁止などを判断としてもいけないし、会社の立場に寄り添いすぎると従業員からの信頼をなくしてますますメンタル悪化に結び付く可能性もある。バランスのとれた判断ができる人材を選任することが重要だ。
利用ソリューションに柔軟性があるか
ソリューションを利用する場合の視点として、チェック項目を任意に変更や追加できるかどうかは確認しておきたいポイントだ。国の推奨は最低23項目または57項目の設問によるチェックなのだが、会社の考え方で60〜120項目で運用している場合もある。
ストレスチェックのガイドラインで推奨されている項目は海外でも実績のあるチェック方法をベースにしているため、準拠は当然の前提だが、それに加えて会社が取り組みたいメンタルヘルス改善方針にのっとって設問を加えたり、削除したり、文言を変えたりすることができた方がよい。低コストのSaaSなどでは変更ができないサービスもあるので、注意が必要だ。
また、制度上ストレスチェック実施は年1回でよいのだが、メンタルヘルス悪化はもっと急ピッチで進むことがありうる。セルフチェックは別として、あまり頻繁に行うのもコスト面や業務効率面で問題だが、ソリューションベンダーの中には年2回の実施を推奨しているケースがあるように、必ずしも年1回の実施にこだわることはない。ITを利用したストレスチェックはそれほどコスト高にはならないので、回数を増やすことも考えるとよいだろう。
また制度スタートから数年は、制度に変更が加わる可能性が高いことも考慮に入れておかなければならない。制度改定に伴う規定やプロセスの見直しが必要になることもありうるので、柔軟性を持ったシステム作りを最初から心掛ける必要がある。専門業者が提供するソリューションを利用する場合には、ベンダー側で制度改定への対応が迅速に図られることを期待できる。これもソリューション利用の効用の1つだ。
以上、今回はストレスチェック実施にあたって注意すべき主なポイントを紹介した。制度の本質を見失わないようにしながら、ストレスチェックそのものばかりでなく、前後のプロセスも合わせて、適切なソリューションを選ぶ手助けになれば幸いだ。
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