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AIを活用する次世代ERPの実力IT導入完全ガイド(3/3 ページ)

ビジネスのデジタル化が加速し、企業はより正確で素早い意思決定が必要となった。AIを活用する次世代型ERP製品として「HUE」と「SAP S/4HANA」を紹介しよう。

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23年ぶりのアーキテクチャ刷新「SAP S/4HANA」

 SAPが提供するインメモリデータベース「SAP HANA」は、カラムストア技術を使って大量のデータをより高速に処理することを可能した。HANAでは全てのデータ処理をメモリ上で処理するためディスクのインプット/アウトプットがなく、処理速度の大幅なアップを実現する。既に同社では以前から提供しているERP製品のデータベース部分をHANAに置き換えた「SAP Business Suite powered by SAP HANA(Business Suite on HANA)」という製品を提供しているが、さらに一歩進めてHANAに合わせてアーキテクチャを刷新したものが次世代ERP製品「SAP S/4HANA」だ。

 一般的なERPパッケージでは、ユーザーからのリクエストに1秒以内に応えるために集計用のテーブルを持っている。しかし、瞬時にリクエストを処理してレスポンスを返すHANAのパワーを活用するSAP S/4HANAに集計用テーブルは不要だ。これはデータ活用を真の意味で「リアルタイム」に近づける。

 集計用のデータテーブルを用いるということは、データが発生してからそこに反映されるまでタイムラグが生じるということでもある。より具体的にいえば、工場でまさに今、生産できている在庫総数と、各工場から寄せられた在庫データを夜間バッチで集計したERP上の在庫総数は一致しない。つまり今まではデータが発生している現実の世界と、データを活用するためのERPの世界の間にズレがあったわけだ。

 従来のERPは、製品開発、製造、流通、販売、保守といった各システムに蓄積されたデータを「水平連携」するものであった。だが、今後はセンサーデバイスやソーシャルメディアなど「現場」で発生し続けるデータをリアルタイムに吸い上げる「垂直連携」も現実的なものとなる。

図1 データの発生と活用をリアルタイムに実現するSAP S/4HANA
図1 データの発生と活用をリアルタイムに実現するSAP S/4HANA(出典:SAPジャパン)

直観的なユーザーインタフェースとユーザーエクスペリエンス

 HANAばかりに目が向くが、新たなユーザーインタフェース「SAP Fiori」にも注目したい。SAP S/4HANAの画面は、単なる入力画面でも経営者向けのダッシュボードでもない。現場のエンドユーザーに気付きを与え、データが指し示す意味を次のアクションに結び付ける。

 具体的に見てみよう。1つの画面上には各種システムへアクセスするためのパネルを複数配置できる(図2)。複数のデータソースから必要なデータをリアルタイムに取り出し、加工し、表示する。こう書いてしまえば簡単そうに思えるが、これを簡単に実現しているERP製品は数少ない。

図2 システムと情報へのアクセスを一元化するSAP S/4HANAのユーザー画面例
図2 システムと情報へのアクセスを一元化するSAP S/4HANAのユーザー画面例(出典:SAPジャパン)

 より利用イメージが伝わるような活用例を紹介したい。想定シナリオは、グローバルに展開する産業用ロボットメーカーにおける保守業務だ。この企業では、全世界の顧客企業の工場にロボットを納めており、ロボットに取り付けたセンサーから上がってくるデータをリアルタイムに収集、分析することで、その稼働状況をモニタリングしている。

 あるとき、ダッシュボード上の世界地図にアラート表示が出る。管理者はそれをクリックしていくことで、どの国のどこの工場にあるどのロボットのどこの部品に取り付けたセンサーから送られたアラートなのかをドリルダウンで知ることができる。

 今回のケースでは振動センサーが事前に設定した範囲を超えたという警告を送ってきたことが分かった。この画面では同時に「この状態が続けば3日後にはロボット本体が故障するだろう」という予測データも表示されている。これは機械学習エンジンが過去の蓄積データを分析して得た予測である。

 この状態を確認した管理者が次にやるべきことは、必要な交換部品とフィールドサービスエンジニアの手配のはずだ。場合によっては顧客と結んでいる契約の内容も確認しなければならないだろう。これらは全てダッシュボードからアクセスできる。契約を確認すると「3日以内に対応すること」と定められている。そして必要な交換部品の在庫もあった。

 だが、その地域を担当する社内のエンジニアの一覧をみると、十分なスキルを持つスタッフは予定が埋まっており、予定が空いているスタッフはスキルが足りないことが分かる。

 実はこのとき、SAP S/4HANAは「ビジネスネットワーク」から連携された情報に基づき「その地域のパートナー企業に在籍する、必要なスキルを持ち、スケジュールが空いているエンジニア」のリストを発注金額付きで用意し終わっているのだ。

図3 ビジネスネットワークとの連携例
図3 ビジネスネットワークとの連携例 パートナー企業の立地とスキル、評価を提示する(出典:SAPジャパン)

 本来、時間も手間もかかる作業を即座にやってしまう。管理者はサジェストされた最適なエンジニアに仕事を発注するかどうかを決めるだけでいい。まさに現場からのデータをERPに垂直統合し、その後の請求処理もを水平統合で処理するとはこういうことだ。

SAP ERPからSAP S/4HANAへの移行は?

 現在、SAPの新規顧客のうち、SAP ERPのデータベースとしてHANAを採用する企業は90%以上だという。また、SAP S/4HANAの国内導入も進んでいる。ただし、既存のSAP ERPも2025年まで機能拡張を続けていくことを公表しており、移行はユーザー企業の判断次第で柔軟に対応する。

 SAP S/4HANAへの移行には3パターンが考えられる。1つ目は既存のERPとは別にSAP S/4HANAを新規インストールし、新しいビジネスプロセスを実現する方法。2つ目は既存のSAP ERPからSAP S/4HANAへのコンバージョン。そして3つ目が、国内外の複数拠点でERPシステムを稼働している企業がSAP S/4HANAへとシステム統合していくパターンだ。このうち、最も多いのは新規インストールで、新事業あるいは新拠点から導入してみるというケースも見受けられるという。

 いずれの場合も重要となるのは、SAP S/4HANAにどんな価値を期待するのか、自社にとってどんな変革が必要なのかを明確にすることだ。これが移行の第一歩になるだろう。

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