強電気魚の電気器官をデバイス化した「シビレエイ発電」とは:5分で分かる最新キーワード解説(2/4 ページ)
シビレエイの発電器官を発電デバイスに応用した「シビレエイ発電機」が登場した。近未来の発電手法がいよいよ実現なるか。
シビレエイはどうやって発電するのか
田中氏の専門はマイクロ流体デバイスだ。この研究では超微小なマイクロ流路をいかに効率よく作成するかが大きなテーマである。
今では2次元的なマイクロ流路は簡単に作成できるようになったが、3次元的な流路は複雑すぎて難しい。そこで生物の3次元的で複雑な神経系を模倣する研究を続けた。その過程でシビレエイの発電器官の研究を行ったところ、発電機として活用可能なことに気付いた。
シビレエイの発電器官は、胸びれの付け根の皮膚の下にあり、多数の発電細胞が並ぶ。発電細胞は特殊な細胞ではあるが、そこで行われていることはどんな生物にも備わる「イオン輸送」である。これは生物のさまざまな生理作用を駆動する機能で、ナトリウムイオンとカリウムイオンを細胞膜を介してやりとりすることで細胞内外に電位差を生じさせる(つまり電気を生み出す)仕組みだ。生まれた電気が、神経伝達をはじめ、運動や物質合成などに欠かせない役割を果たす。
細胞膜のイオン通過のゲートになる機構は2つあり、1つは特定のイオンの放出や取り込みを細胞内外の濃度差によって行う受動的な「イオンチャネル」、もう1つは能動的にイオン放出や取り込みを行う「イオンポンプ」と呼ばれる機構だ。何らかの刺激を受けた時、イオンポンプはATP(アデノシン三リン酸)を分解して得たエネルギーでポンプ機能を駆動し、濃度差に逆らってイオン輸送を行って電気を作り出す。
つまり、細胞はATPを燃料として、細胞膜のイオンポンプを駆動することで電気を作るわけだ。一般的な生物では微弱な電気によって生理作用を制御するが、一部の魚では捕食や外敵から身を守るために、効率よく電気を作れるように多くの電気細胞を高密度に集積して、刺激を受けたら体の外に強い電気を流す仕組みを作り上げた。
図2はシビレエイの電気器官の発電原理の模式図だ。シビレエイの場合は、「触られた」といった刺激を神経が受け取り、神経伝達物質として知られるアセチルコリンを電気器官の細胞に送る。それがイオンポンプ駆動のスイッチになる。
この電気器官では、出力密度は1立方メートル当たり1〜10メガワットに相当し、ATPから電力へのエネルギー変換効率はほぼ100%だ。ただし、ATPはブドウ糖の分解物で、ブドウ糖からATPへのエネルギー変換効率は40%以下なので、こちらがシビレエイ発電の効率ということになる。これでも意外に高効率ではないだろうか。単純比較はできないが参考までに太陽光発電パネルが2020年までの達成を目指すエネルギー変換効率は25%だ。
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