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災害の教訓を今こそ生かせ、強靭で柔軟なサプライチェーン構築すご腕アナリスト市場予測(1/5 ページ)

東日本大震災や熊本地震など、災害によるサプライチェーン断絶を防ぐための柔軟で強靭(きょうじん)なサプライチェーン構築の考え方を大解剖。

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アナリストプロフィール

西川俊之(Toshiyuki Nishikawa):アビームコンサルティング サプライチェーンマネジメントセクター マネージャ

国内大手メーカーの海外関係会社業務標準化、新倉庫設立、業務改善、海外大手メーカーのグローバルで標準化された業務、システム導入の日本法人への導入、国内メディア会社の新会社設立、海外大手メーカーの買収に伴う日本法人のオペレーション立ち上げ支援などのプロジェクトで、主にサプライチェーン領域やプロジェクトの全体管理を担当。社内ではR&D、調達業務領域に対するサービスを担当するグループのリーダーとして、クライアントのビジネスを変革する新サービスの開発や業界動向の調査を行う。


 2011年の東日本大震災、同年のタイの大洪水、そして2016年4月の熊本地震。これらの大災害では、各地の生産拠点や物流が被害を受け、製品生産が長期にわたってストップする事態となった。サプライチェーン断絶の影響は、周辺地域はもちろんグローバルにも影響を及ぼし、災害リスクは折り込み済みのはずの一流メーカーでさえ被災地域外の工場まで操業停止に追い込まれるなど、深刻な状況が現出した。こうした災害リスクに企業はどう向き合えばよいのだろうか。今こそ、大災害の教訓をあらためて確認し、強靭(きょうじん)でしかも柔軟なサプライチェーンの再整備が必要だ。

大災害で明らかになったサプライチェーンの脆弱性

 「金型がない!」――熊本地震の直後、トヨタグループは自動車組み立てに必要な重要部品が入手できなくなっていた。部品メーカーのアイシン九州(アイシン精機子会社)が被災し、工場が使用不能になり、他工場に生産を移管しようとしたが、重要部品の金型は被災工場にしかなく、他工場で直ちに代替生産することができなくなっていたのだ。

 加えて、車載用半導体を供給していたルネサスエレクトロニクスの子会社の工場(熊本)も被災していた。半導体部品の出荷も滞り、トヨタは生産を継続したくとも必須部品が調達できず、結局国内16工場の30製造ラインのうち26ラインを段階的に停止する事態に陥った。全く災害の影響がない地域の工場もラインを止めざるをえなくなったのは、もちろんサプライチェーンが途切れたためである。全てのラインの稼働は6月に至ってからとなる。

 同じような事態はもちろん他の製造業者でも生じた。2016年5月の公益財団法人九州経済調査協会レポートによると、製造業の資本ストック被害額は約6400億円、資本ストック損壊による生産減小額は最大540億円が推計されている。これが地震の1次被害額だ。

 サプライチェーンの断絶による生産への影響、つまり2次以降の被害額はこれとは別だ。熊本県からの原材料、部品の他県での利用率を基にした推計(3カ月〜1年の影響を想定)で120〜390億円の生産額減少が見込まれている。最終需要財(商品)になるまでのサプライチェーンは地域的にさらに広く連鎖しているため、全体ではもっと大きな影響を及ぼしたと見なくてはならないだろう。

 自社工場や倉庫がある地域で災害が発生した場合、程度の差こそあれ、その直接の影響を受けることは避けられない。しかしサプライチェーンの断絶による2次以降の被害は、綿密で着実なSCMによってもっと抑え込むことができたのではないだろうか。これが、本稿で述べたいポイントだ。

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