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建築IoT「知能住宅」が誕生間近、自分で痛みを訴える家とは5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)

耐震安全性向上と被災家屋の復旧早期化を目的とする「知能住宅」が登場した。産官学連携による建築物に対するIoT応用はいかに?

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第1の技術:電源がないところでもセンシングできる「環境発電」

 第1の課題は、電源がなくてもセンシングとデータ送信が可能なデバイスの実現だ。電池を利用すれば簡単だが、長期間電池交換などのメンテナンスを行いながら万一の災害に備えるのは非現実的だ。

 そこで環境内に存在する熱や振動などの、微小ではあっても常時発生するエネルギーを効率的に利用する「環境発電」が候補に挙がる。家庭などの住環境空間に存在する未利用の低温熱エネルギーと低周波振動エネルギーの両方を利用することで各種センサーを稼働させ、情報を常時発信できるはずだ。

 環境発電の領域での研究を進めるのは物理の研究者である山本貴博准教授と、圧電デバイスなどのエキスパートである中嶋宇史講師だ。通信に必要な電力(ミリワットのオーダー)を環境から獲得することを目標にするが、建物それぞれの特性に最適化した発電方法を考えるという。

 また、既存建物へのセンサー設置やメンテナンス性を考えて、構造部材そのものに内蔵するのではなく、フレキシブルな材料を使用して後付けで装備できるものにしたいとのことだ。例えば、ガムテープのような要所に切り貼りするような発電装置とセンサーをイメージすれば良い。

第2の技術:小電力無線通信ネットワーク

 次の課題は、センサーが発電素子の電力を利用して無線で信号を飛ばし、アクセスポイントで捉えてセンターに送るネットワークの構築だ。近距離無線ネットワークのプロトコルは各種あるが、現在はWi-SUNの利用を考えている。

 この領域を担当するのは通信ネットワークの専門家である長谷川 幹雄教授だ。「スマートメータなどのように既に家庭に入り込んだインフラに相乗りする方法もありますが、災害時でも有効で環境発電で駆動できるほどの小電力、さらに伝送可能距離も長い特徴から、Wi-SUNが圧倒的に有力な候補」だという。

 ただし、データ量や送信頻度など実証研究が必要な部分が多く、セルサイズの問題やプロトコルの改善などまで含んだ検討が必要だ。NICTの協力を得ながら、他のプロトコルの利用も視野に入れつつ、最適な通信方法を検討する。

第3の技術:最少限のセンサー設置で被災状況を把握する解析技術

 続いて重要なのは、建物の揺れなどで生じた損傷や劣化の度合いをどのように判断するかだ。構造部材や接合の強度などと揺れの状態から被災度を計算できるが、現実には、特に木造住宅で状態の変化に大きな違いが生じることがあり、正確な予測が難しい。そこでAI技術を利用した予測技術の適用が望まれる。

 これを担当するのは電子回路が専門の河原尊之教授だ。「木が喋っていることを翻訳することが目標」という河原氏は、既に1本の木材の一端に取り付けたセンサーによって、その木材の劣化や損傷の位置を推測する実証に成功した。

 これは1本の木材を8等分してゆがみを与えてセンサーの値を測定したデータを機械学習させることで実現した。1万回の試行で得たデータを入力した学習により、これまでは壁を剥がさなければ分からなかった損傷や劣化位置の度合いが1個のセンサーのデータだけで予測できるようになった(図3)。

1個のセンサーから木材全体のヘルスモニタリングが可能に
図3 1個のセンサーから木材全体のヘルスモニタリングが可能に(出典:東京理科大学)

 この手法を応用、拡張すれば、建物の要所に設置した最少限のセンサーからの情報で建物全体の状況を知り、また劣化や損傷箇所を予測できる。ただし、今のところは実地データが少なく、高精度の予測には無理がある。

 河原氏は今回のプロジェクトによって得られる大量のデータに期待する。より多くのケースのデータを集め、機械学習を深めることで、予測精度は向上するはずだ。

 1つの建物に設置が必要なセンサーは200〜300個ほどだ。まずは実験用のモデルハウスから始め、徐々にいろいろな建物のデータ収集を広く行って機械学習を繰り返すことで、さまざまな建物に適用可能な精度の高い被災度判定システムが生まれるはずだ。

被災建物の復旧も短縮可能に

 さらに被災建物の復旧計画や工事を最適化、短期化することもプロジェクトの視野に入る。この部分を担当するのは建築生産を専門とする崔 彰訓助教だ。

 「地震直後の余震などによる第2の被害を防ぐために、応急危険度判定はできるだけ早急に実施する必要があります。しかし、東日本大震災では判定に約12週間かかり、それに関わる人員(判定士)は約8500人にものぼりました。阪神大震災では判定に約3週間かかり、約6500人が投入されました。また、やや混乱の落ち着いた時期に建築物の復旧対策検討(建築物の被災度調査および復旧の要否の判定)のために実施する被災度区分判定を含むと、復旧のための判定には半年間以上かかりました。IoTを利用すると、この期間は(図1のように)大きく短縮されます」

 判定時間が短縮するとともに、情報の整理により、復旧計画の迅速な立案や復旧工事期間の短縮も期待できる。

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