外国人観光客の動きをどこまで追えるか? 40万カ所に設置されたWi-Fiのログを可視化(3/3 ページ)
ソフトバンクが設置する全国40万カ所のWi-Fiアクセスポイントのデータ活用が本格始動。「ソーシャル・ビッグデータ」はどこまで使えるのか。
技術的なポイントは高速な動態分析アルゴリズム
このような分析は従来の技術でも可能だが、本研究の大きな技術的ポイントは、従来は2日かかっていた分析を5分で終わらせる高速アルゴリズムの考案である。これは「TTCP(Trackingid-Timewindow-Place-Pair)」と呼ばれる手法だ。
多様なログデータをデバイスごとに整理し、時間的な前後関係に基づいて動線ベクトルデータを生成することで、複雑な群流解析でも高速処理できる。1カ月分の外国人観光客の動態データは約1000万件規模に上るといい、1日分なら約30万データである。ある地点からある地点までの関連性を分析するには30万×30万の組み合わせを計算する必要があるが、新アルゴリズムは「点」を動線ベクトルという「線」の情報に変換する。そのため30万回の計算で同じ結果が出せるのだ。
ローカル情報との組み合わせでデータ活用の幅が広がる
また、各情報のオーバーレイ表示についても研究されている。図7は、長崎県の協力を得て2015年から取り組んでいる事例の一例だ。これには外国人観光客の動態表示とともに、宿泊施設の情報(ピン)が表示されている。
ピンの色により、予約状況の判別も可能で、気になる箇所をクリックすると、その場所の観光情報などが表示される。福崎氏は「地元の人や企業ならではの情報を加えることで、より有効なデータ活用ができる。自治体や地域の人が持つ情報を収集して組み合わせる」ことが活用領域を広げるという。
地域のデータ活用人材も目的の1つ
小出氏は「長崎県での応用の狙いは、大学と自治体が連携することによるデータ活用人材の育成」と解説する。長崎県を介して、長崎版DMO(Destination Management Organization)と呼ばれる環境振興組織と連携し、このソーシャル・ビッグデータ分析基盤を用いてデータ提供を行い、大学でのデータ分析に生かすだけでなく、地域の事業者と関係する組織に活用してもらい、政策/意思決定のエビデンスとしてデータを活用できる人材の育成を目指す。この技術は、次年度には長崎大学、さらには長崎県に技術移転が予定されている。長崎県で観光施策に活用される日も近い。
研究主幹の曽根原氏は、「このソーシャル・ビッグデータ分析基盤はいずれオープンソース化したい。特定の事業者に提供するのではなく、自治体の政策決定や地域の中小企業などの意思決定に役立ててもらいたい」と語る。分析精度の向上がこれからの大きな課題になるが「エビデンスに基づく政策/意思決定支援のために(産官学連携の)オールジャパンで取り組んでいく」と決意表明して発表は締めくくられた。
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