ネスレ日本がIoTで物流課題を解決、実装まで約3週間の高速開発の秘訣:事例で学ぶ!業務改善のヒント(1/4 ページ)
キットカットやネスカフェでおなじみのネスレ日本がIoTに挑戦。静岡工場に突撃し、その実態を探った。
IoTの活用に関心はあっても投資効果が見えずに着手をためらう企業がある一方、導入効果を着実に目に見えるものにしながら、中長期的な挑戦を始めている企業もある。今回は、IoTを活用した新時代のSCMを目指しつつ、目前の「出荷トラックの待機時間削減」に成果を上げているネスレ日本の現場をのぞいた。
世界最大級の総合食品飲料企業であるネスレ。同社はNew Reality(新しい現実)を捉え、2020年のあるべき企業像を描いており、物流に関しては「Logistics 4.0」としてIoTの進化による物流の省人化と標準化で新しい時代がやってくることを明確に想定している。SCM全体についても将来の物流チャネル変化や輸送方法の多様化、倉庫のIT化などを予想する一方、作業人員の不足、トラック、ドライバー確保の困難などの懸念要因も挙げられている。
こうした目標と懸念は当然、日本法人のネスレ日本でも共有している。ネスレ日本は国内で創業以来、100年以上の歴史を持ち、「キットカット」「ネスカフェ」などのおなじみのブランドを始め、ペットフードや栄養補助食品など幅広い製品を展開している。その商品と生産量の多さから、同社はかねて物流合理化への取り組みを進めてきた。
繁忙期にはトラックの待ち時間が3時間半、出荷業務がボトルネック化
ネスレ日本の国内生産拠点は、静岡県島田市の島田工場、兵庫県姫路市の姫路工場、茨城県稲敷市の霞ヶ浦工場の3箇所だ。それぞれ主力の商品を異にし、毎日多くのトラックで商品を全国13箇所の物流倉庫に配送している。そこでの問題は、出荷業務に時間がかかり、長時間に及ぶトラック待機時間が生じていることだった。
今回、IoTを導入した島田工場は、ペットボトルコーヒーの生産が大きな比率を占める。最繁忙期の夏場には1日200台余りのトラックがやってくるようになり、閑散期でも数十台は当たり前の状況だ。しかし、工場側では次にやって来るトラックの行先がどこなのかを把握する術がなく、工場にトラックが到着して初めて、どこ行きのトラックなのか、積み込むべき商品は何なのかが分かる状態だったという。
そのため、出荷作業には相応の時間がかかっていた。出荷場でさばける数は限られ、積み込み待ちのトラックの列がどんどん長くなっていく。その待ち時間は最盛期には3時間半に及ぶこともあったという。
同社のサプライチェーンアナリストの伊澤雄太氏は、この状況についてこう語る。「問題は次に来るトラックに積み込むべき商品が何なのかが分からないこと。次のトラックが、どこ行きのトラックなのかが工場内で把握できれば、事前に出荷準備を済ませておくことができます。これができればトラックの待機時間は削減できるはずです」
同社ではトラック輸送の増加に伴い、かねて周辺道路の渋滞や騒音、排気ガスなどの交通・環境問題が議論されており、これまではトラックの待機スペースを増やすことで対応してきた。
現在は、工場内に収容しきれないトラックの待機場を工場入口直近に1箇所、10キロほど離れた場所に1箇所設置し、道路での滞留を防いでいる。伊澤氏は、この2箇所の待機場にトラックが着いた時点で、工場にその情報が伝わる方法を考えた。
「IoTを利用すればそれができるのではないか、と考えたのが2016年の6月ごろ。それがこのシステムの発端です」と伊澤氏はいう。また同じころ、同僚のサプライチェーンアナリストである子安華子氏から情報を得ていた。子安氏は、同社の新技術やビジネスの情報収集と応用を目指す社内の有志チームに所属しており、IoTへの関心からIoTプラットフォームに関するセミナーを受講していた。「IoTプラットフォームを利用すれば、低コスト、短期間でシステム開発が行える可能性がある」との情報が共有されるや、伊澤氏は、セミナーの講師を務めた日本IBMのIoT技術者と連絡を取り、「ドライバーの拘束時間を短縮するシステムを作りたい」と相談を持ちかけた。
日本IBMの技術者は今回の案件はビーコン技術の活用が最適と考案、そしてIoTの導入は単独ベンダーだけで完結できるものではないとアドバイス。そこで提案されたのは、クラウドベースのIoTマネージドサービスである「IBM Watson Internet of Things Platform」と、法人向けビーコン管理プラットフォーム「Beacapp」(ジェナ)の2つのプラットフォームを活用し、IoTシステムの開発や運用を効率化しながら短期で開発を進めることだった。こうしてネスレ日本、日本IBM、ジェナの3社のキーパーソンが集い、本格的なシステム化への議論が始まった。
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