サービスによって大きく乖離(かいり)する「クラウドPBX」選択の勘所:IT導入完全ガイド(1/5 ページ)
事務所移転や働き方改革の推進などによってPBX機能をクラウドに移管する「クラウドPBX」が脚光を浴びているが、PBXの機能継承やコミュニケーション基盤連携などサービス選びには落とし穴も。その勘所とは?
保守切れや事務所移転、働き方改革の推進など、既存PBXを刷新するきっかけはさまざまなものがあるが、新たな環境として注目されているのが「クラウドPBX」だ。業務の多くのがクラウドサービスへ移行しつつあるなか、当然ながらPBX機能もクラウドサービスとして利用できるようになる。
中でもPBX機能だけを移行するだけでなく、テレワークをはじめとした従来とは違う働き方を実践するべく、ユニファイドコミュニケーション(以下、UC)を取り入れた新たな環境へ刷新することを検討する企業も少なくない。そこで、クラウドPBXを選択する際に検討すべきポイントについて、分かりやすく見ていきたい。
コスト削減という視点でクラウドPBXを選択することはあるのか
PBX機能だけをクラウドサービスとして利用する場合、確かに月額費用で利用できるため初期のPBX導入費用は安価に抑えられるが、数年後には損益分岐点がやってくるのは間違いない。償却期間を何年に設定するのかにもよるが、実際にはクラウドPBXの方が割高になる傾向にある。ただし、番号体系の変更や新規の追加など、組織変更時に外部へお願いする環境設定費用やPBX設置のスペースコスト、保守費用、電話線の削減など、コストに関連した効果は積み上げていくことができる。そのあたりはしっかりとコスト効果として試算したうえで検討していきたい。
またUC環境の場合は、そもそも働き方が大きく変わるため、従来のPBX運用にかかわるコストと単純な比較ができない。新たな価値が得られるというメリットは間違いないが、コスト的な面だけで見れば従来のPBX運用に比べて大きくコストは積み上がることになることはしっかりと認識しておくべきだ。1ユーザーあたり数百円だったコストが、UC環境に移行することで数千円レベルにまでコストは跳ね上がってしまうことも。それでも、遠隔会議などによる移動費の削減などのコスト削減効果も見込めるようになる。
クラウドPBX導入の大きな障壁となりやすい“組織の壁”
これまでPBXおよび固定電話の運用管理を担当してきた主管部門は、主に総務部門が中心だろう。クラウドPBXへ刷新しようと検討する際にも、それは大きく変わらないように見えるが、実際にはインターネットを経由してクラウドPBXにアクセスする構成、つまりは音声パケットを既存のデータネットワークにのせていくことが前提となる。
そこでエンドポイントとなるIP電話機含めてデータネットワークとの共存が必要になるため、結果として情報システム部門が中心となって動くようになる。ここで、総務部門から情報システム部門に電話の主管部門が移ることになるというわけだ。ましてや、トップダウンによる働き方改革の推進でUC環境を導入するとなると、情報システム部門がインフラの設計から運用保守までを手掛けることになり、その負担は相当のものになってくるだろう。
クラウドPBXを検討する際には、総務部門から他部門への調整ごとがかなり発生するため、それが高い導入障壁となって、結局既存のPBXをそのまま置き換えるといったシンプルな刷新になることも少なくない。
ただし、PBXの償却期間が10年程度と長いため、新たな働き方への柔軟な環境づくりに取り組む機会が後ろ倒しになる可能性はある。労働人口が減少するなかでは、人材獲得も含めた視点でコミュニケーション基盤がどうあるべきか、PBX刷新のタイミングに合わせて十分検討しておきたい。
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