脳で機械を動かす時代に備える「BMI倫理綱領3基準」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)
脳と機械を接続する技術の総称であるBMIに関して研究者達が提言した「BMI倫理綱領3基準」。未来を見据えた提言の意味とは?
今回のテーマは「BMI倫理綱領3基準」だ。BMI(Brain Machine Interface)は、脳と機械を接続する技術の総称。脳波を計測してPC操作をするような研究もあるが、現在最も社会実装が近いのは、身体のまひを回復させる医療用BMIだ。しかしBMI利用に関する社会的合意や法的整備はまだまだだ。そこで世界のBMI研究のリーダーたちが提言したのが「BMI倫理綱領3基準」。医療用BMIの現状と、その将来を考えた提言の意味を紹介する。
「BMI倫理綱領3基準」って何?
BMIは、脳細胞の活動状況をさまざまな手法で計測し、頭の中で考えていることを推測して機械に伝えるもので、脳と機械の仲立ちをする仕組みのことだ。この研究は特に医療分野で技術進歩が著しく、脳卒中などによる神経伝達機能の障害で身体にまひがある人の運動機能の回復に役立っている。医療分野におけるBMIの産業化が進み始めており、病院などに実装されて社会に普及するのはもう間近だ。
しかしBMIに対する社会的認知度はまだまだ低く、BMI利用の倫理性や事故が起きた場合の法的責任の所在など、さまざまな懸念がある。この状況を背景に、研究者たちがBMIの技術進歩と社会実装で起こりうる問題に対応するための基本原則を議論し、「BMI倫理綱領3基準」にまとめた。
「3基準」は2017年6月発行の米鉱の学術雑誌「Science」に声明として発表された。声明には、BMI研究のリーダー的な人物(ドイツ、米国、スイス、日本、カナダなど)が名を連ね、慶應義塾大学理工学部生命情報学科准教授の牛場潤一氏もその1人だ。本記事は牛場氏への取材をもとに記している。
「BMI倫理綱領3基準」の内容は?
「BMI倫理綱領3基準」を要約すると、次の3ポイントである。
- BMI 動作が引き起こした事故や事件に対する法的責任の明確化(行動責任)
- 読み出した脳情報の保護、脳への不正なアクセス防止(個人情報保護)
- 技術情報の正確かつ迅速な開示に基づく倫理規範の熟成と社会受容の促進(社会啓発)
それぞれのポイントについて説明する前に、現状のBMIがどのように医療現場に活用されているのかを理解しておこう。
BMI医療の現場
BMIは、医療分野では病気やけがによる神経回路の損傷による身体のまひに対応し、神経回路を再生させて身体機能を改善するリハビリテーションへの応用が特に進んでおり、そのための医療装置を手掛ける企業による開発も進んでいる。
また2017年4月にFacebookの開発者カンファレンスで、「脳の思考をテキスト化する」「皮膚の振動から単語や文章を理解する」技術が開発されていることが発表されて注目された。その少し前には、テスラモーターズのCEOであるイーロン・マスク氏が創設したニューラリンク社が、脳に電極を埋めこんで電位を計測するBMIを利用して脳障害の回復を図る製品などを4年以内に市場投入する計画を発表しており、合わせてBMIへの注目度は一気に上がった。
BMIの産業化は目前という状況だが、技術的進歩とは裏腹に、一般社会ではBMIがなかなか理解されておらず、技術利用に関する社会的合意や法的な整備もされていないのが現状だ。
この状況で技術が産業化されることに対する研究者たちの危機感が、今回の「倫理綱領3原則」の策定の背景になっている。
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