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脳で機械を動かす時代に備える「BMI倫理綱領3基準」とは?5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)

脳と機械を接続する技術の総称であるBMIに関して研究者達が提言した「BMI倫理綱領3基準」。未来を見据えた提言の意味とは?

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BMIのリハビリテーション応用とは

 脳卒中などにより脳の神経回路が損傷すると、身体にまひが起きることがある。一度損傷した神経細胞は、皮膚のように再生することはなく、機能は取り戻せない。だが、脳の神経回路は複雑な網目構造になっており、そのネットワークの中にある残存した神経細胞に刺激を繰り返し与えると、細胞が新たなネットワーク経路を作り始める。やがて刺激に反応する最適なネットワークが構築され、思い通りに手足を動かすことができるようになる場合がある。この脳機能の再生(リプログラミング)がBMI利用リハビリテーションの目的だ。

 一般的なリハビリは、身体が少しでも動く人を対象に、元のような動きをさせて脳の機能回復を図るのだが、BMIは、少しも身体が動かない人に使うことができる。患者の脳波を計測し、指や肩などの運動をつかさどる部位の活動を捉えたら、それに応じて、身体の動かしたい部位にとりつけたロボットアームなどを動かし、意図した通りの動きをさせる。これを続けるうちに、脳内の残存神経細胞が新しいネットワーク(代償回路)を作りはじめ、やがて自分の意思通りに指や肩などを患者自身が動かせるようになるわけだ。

 牛場氏は、指がまひしてものがつかめない患者へのBMIリハビリについてこう話す。「BMIは脳そのものの活動を読み取って、神経経路が活動しているのかどうかを計測します。神経の代償回路が正しく活性化したときだけ、電動式のロボットが指の動きをアシストする仕組みです。患者は代償回路をうまく動かせることもあれば、回路が活性化しないこともありますが、病院での臨床研究では、10日間のプログラムで7割の患者に治療効果が出ています」。

 パナソニックはこのタイプのBMIリハビリテーションシステムを医療現場に適用することを計画し、既に関東の4病院で医師主導治験を行っている。2年後の2019年には医療機器としての認証が得られるのではないかと牛場氏は見ている。

BMIによる脳の神経回路再生への取り組み
図1 BMIによる脳の神経回路再生への取り組み(Ono et al. Brain Topogr (2015)を基に再描画)。(左)Shindo et al. J Rehabil Med(2011) ・安静5秒 - 手指伸展企図5秒 を反復 ・1日40分間にわたって介入 ・10日間(土日を除く)にわたって経日的に実施(右)MRI画像はまひ手(右手)を動かそうとしたときの脳活動の様子。BMIを継続的に利用することで、体性感覚運動野(図中、SM1と表示)の活動が焦点化することが分かった(出典:慶應義塾大学 牛場潤一准教授)
ものをつかむ機能の回復の様子
図2 ものをつかむ機能の回復の様子(写真の上のグラフは筋電図)。Fujiwara et al. in prep.; Kawakami et al. Restor Neurol Neurosci(2016); Kasashima-Shindo et al. J Rehabil Med(2015); Mukaino et al. J Rehabil Med(2014); Shindo et al. J Rehabil Med(2011) 写真の上のグラフは指を伸ばすために使われる筋の筋電図。訓練前はまひが強く、グレーで示した時間帯で指を伸ばそうと思っても反応が得られない。訓練後では筋肉を思い通りに収縮、弛緩(しかん)することができている(出典:慶應義塾大学 牛場潤一准教授)

 BMIによるリハビリの結果、患者の脳から手指までの神経が通いはじめ、ものはつかめなくとも筋肉に信号が送れるようになったら、次は「HANDS療法」と呼ばれる別のリハビリテーションに移る。

 これは、腕の部分に筋肉の電位を測定するセンサーを貼り、筋肉を動かす信号が脳から来たら、電気刺激で信号を増幅し、さらにグローブ型の装具によって指の形を整えることで、指の動きをアシストする方法だ。

 HANDS療法では、これを1日8時間装着し続け、生活動作中におけるまひ手の利便性を高めるとともに、訓練効果を誘導する。これを繰り返すと、やがて脳の神経回路が発達し、思い通りに自分で手指を動かせるようになる。これにより社会復帰が可能になったケースが少なくないという。

HANDS療法とBMI療法の併用
図3 HANDS療法とBMI療法の併用による効果 (左)Shindo et al. Neurorehabil Neural Repair(2011)、Fujiwara et al. Neurorehabil Neural Repair(2009)(右)Kawakami et al. Restor Neurol Neurosci(2016)のデータを基に作成。筋電を検出して脳からの信号を増幅、脳の神経回路フィードバックして機能再生を目指すリハビリテーション(HANDS療法)。「廃用手」を「補助手」にまで機能改善させることが可能(出典:慶應義塾大学 牛場潤一准教授)

 つまり、全く筋肉に信号が届かなくなった患者にはBMIとロボット技術を使って脳に代償回路をつくり、いったん回路ができて筋肉に信号が届くようになったら、その信号を増幅し、かつ動きをアシストすることにより、脳内の代償ネットワークを最適化していくという2段階の治療法があるわけだ。牛場氏はこうした治療を合計100人ほどの患者に施し、社会復帰を実現している。

 また同じ考え方で、肩が挙がらなくなった患者へのリハビリテーショントレーニング研究も行われている。研究では1日1時間のトレーニングを5日間行うと、胸の下くらいまでしか上がらなかった腕が、肩の位置まで上がるようになるような顕著な回復効果が出てきているという。

 なお、このような最先端リハビリテーション治療と既存のリハビリテーション治療を障害の回復過程に合わせて施行することで、治療効果がどこまで高まるかを研究していく病院もできた。2017年11月6日に開院した湘南慶育病院がそれで、BMIを応用した医療技術を積極的に取り入れた「スマートリハ室」を設置し、効果的な治療を研究していくとともに、治療過程のデータを収集・解析し、改善に役立てていくという。同病院では図5に見るようなツールセットを利用する構想が進んでいる。

リハビリテーションのためのツールセット
図4 リハビリテーションのためのツールセット(出典:慶應義塾大学 牛場潤一准教授)

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