「で、量子コンピュータで何をしたいんだっけ」をデザイン思考で見つめ直した富士通:イベントレポートアーカイブ(2/3 ページ)
最近よく耳にする「量子コンピュータ」。世界中で活発に研究が進んでいるが、さて何の目的で開発を? 富士通が提案する、いま目の前の課題を解決するために技術を使う話から「デザイン思考」のことを考えてみた。
デジタルアニーラとは何か
こうした中、富士通が開発したデジタルアニーラは、「量子コンピュータを実用性で超える新アーキテクチャ」をうたう。2016年10月に富士通が正式に発表した情報では「従来の半導体技術の中で」イジングモデル計算に特化した実装を行っているとされる。つまり、超電導や量子ゲートのように、計算機の状態を安定させるハードウェア技術開発が目的ではなく、組み合わせ最適化問題を効率よく解くことへの最適解を見つけようとしたことになる。
FPGAを用いた専用エンジンを使い、組み合わせ最適化問題の「近似解」を求める実験で32都市の「巡回セールスマン問題」を解く計算では、一般的なIA機で計算した場合の1万2000倍高速に処理できたとされている。このように専用の回路を用い、さらに並列化や「ダイナミックオフセット」と呼ばれる技術などを適用することで、より高速化できるとされている(注1:「組み合わせ最適化問題向けハードウェアの高速化アーキテクチャ」)。
2018年5月には、デジタルアニーラのリソースをクラウドで利用できるサービス「デジタルアニーラサービス」をスタートさせており、既にリクルートコミュニケーションズ、三菱UFJトラスト投資工学研究所、富士フイルムなどの企業が検証を進めている。
実業務でのデジタルアニーラ採用例としては、富士通ITプロダクツにおける倉庫内のピッキング計画最適化が挙げられる。富士通によると、従来と比較して最大で45%もの移動距離削減が可能になったとしている。
デジタルアニーラのプロジェクトを推進する富士通 CTOで富士通研究所所長の佐々木繁氏は「デジタルアニーラは今のコンピュータでは解けない膨大な数の組み合わせ最適化問題を解けます。例えば、新しい薬を作るとき、分子の組み合わせでは、50原子の分子構造の組み合わせだけでも10の48乗通りもあります(注2)。デジタルアニーラを使えば瞬時にこの問題を計算でき、より早く新しい薬を届けられるようになります」と説明した。
(注2)「1京」で10の20乗。10の48乗は「1極」。いかに途方もないパターンの計算量かが分かる。
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