「固定電話も、ムダ残業もやめた」徹底した"富士通流"働き方改革(2/2 ページ)
全世界に16万人の従業員を抱える富士通。全社的な働き方を見直し、改善するのは容易ではない。そこで考えた富士通ならではの取り組みとは。
従業員のコミュニケーションを縛る固定電話を排除
最初に取り組んだのは、グローバルでのコミュニケーション基盤の統一だ。働き方改革を進めるとなると、自宅や社外で業務を行う機会も出てくるだろうが、そのためには、場所を問わず社内と同じようにコミュニケーションを取れる手段が必要だ。富士通には電話文化が根付いていたが、音声によるコミュニケーションだけでは、在籍時や電話に出られる状況でなければ相手と会話できず、その分、情報共有のスピードも遅くなる。
そこで「Skype for Business」を全社導入し、音声ではなくコンテンツベースのコミュニケーションに切り替えた。Skypeのチャット機能を使えば、不在時でもテキストで用件を伝えられる。そして、従業員を縛る固定電話も廃止し、代わりに社員にスマートフォンを配布した。内線を含め会社からの電話を全て社給のスマートフォンで受けるようにすることで、どこにいても社内メンバーと連絡が取れる環境を作ったのだ。
緊急トラブルが発生した際も、対策会議のために関係者がわざわざ事業所に集まる必要もなく、それぞれがいる場所でコミュニケーションを取り合いながら対策を考えることで、スピーディーな対応が可能となった。また、対面会議をWeb会議に置き換えたことにより、出張旅費を20%削減できた。このように、働き方の多様化に合わせてコミュニケーションツールを整備したことで、時間と場所を問わず、社内と同じコミュニケーションを取れる環境が整った。
誰がどの情報を持っているかもすぐに分かる――富士通流の「知の共有」
また、コミュニケーション基盤の統一において、富士通独自の取り組みとして、従業員一人一人が持つポータルサイト「マイサイト」がある。これは、組織の枠を超えて、ノウハウを共有できる仕組みである。従業員は、このマイサイトに自身のプロフィールや担当業務、過去に関わったプロジェクト、作成した資料、成功事例やノウハウなどをアップロードする。そして、全従業員の情報を横断的に検索できるため、知りたい情報を誰が持っているのかも簡単に分かる。ノウハウを知りたければ、その人に連絡を取り、直接質問もできる。全従業員がこのマイサイトを利用するため、全社単位でのナレッジの共有も簡単だ。また、マイサイトと同様に、チームサイト、全社/部門サイトもある。
コンテンツベースのコミュニケーションに切り替えた……次なる問題は?
コンテンツベースのコミュニケーションに切り替えると、次はファイルの共有方法が課題となる。従来のメールに添付する共有方法であったため、添付するファイル当たりの容量が多いとストレージが圧迫される。特に悩みの種となっていたのが、同一データの重複配信だ。富士通では、動画や大量の画像資料を組み込んでプレゼンテーション資料を作成する場合も多く、資料当たりのデータ容量が数十MB〜100MBにまで膨らむことも珍しくない。例えば、そのような重いデータを、関係者へレビューを依頼するためにメールに添付し送信する。それにレビュー内容を付けて差出人へ返送するとなると、この1回のやりとりだけで数百MB単位のストレージが必要だ。こうしたデータ共有により、年間約300TBのストレージが必要になるという。
この状況に頭を抱えたシステム担当者は、オンラインストレージの「Box」を導入することを決めた。データそのものを送らずとも、共有リンクを送るだけでデータが格納されたフォルダにアクセスできる。関係者へスムーズにデータを共有でき、メール誤送信による外部漏えいのリスクもない。マスターデータを1カ所で管理するため、問題となっていた同一データの重複配信も解消された。
また、データ共有だけでなく、会議に関連する作業工数の削減にもつながった。時間がかかっていた会議後の議事録作成は、ドキュメント作成機能「Box Notes」により簡単に作成できるようになった。会議中にその場でメモ書きできるため、会議が終わるころには議事録が完成しているというわけだ。もちろん参加メンバーにリアルタイムで共有できるため、メールで議事録を送る必要もない。
富士通は、このようにして社内メンバーやビジネスパートナー、顧客、海外拠点とのコラボレーションツールとしてBoxを活用する。これによりスピーディーにコンテンツ共有し、共創の拡大を実現できた。
従業員の「ダラダラ残業」をどう抑止するか
働き方改革を進める上で重い問題となるのが人事労務管理だ。働き方改革関連法が成立し、これから労働時間の規制も強化される。そうなると、企業にとって従業員の残業時間の管理が問題となる。
富士通は自社ソリューションの「IDリンク・マネージャー(現・TIME CREATOR)」を導入し、残業抑止に取り組んだ。定時前に上長に残業申請を行わなければ、PCが強制的にシャットダウンされ、残業できない仕組みに変えた。従来のように、社員がダラダラと残業することも許されない環境にしたのだ。操作ログを取ることで、従業員一人一人の労務管理も適切に行える。また、PCやスマートフォンで、自宅や遠方の拠点などどこからでもタイムシートを打刻できる「WebOTR」を導入したことで、業務実態に合った労務管理が可能となった。
ただ、業務時間の短縮化はツールだけでは不十分だ。従業員が今までの時間意識を改め、考える必要がある。そのためには、上司と部下が意思疎通を図り、意識を変える必要があると同社は考える。この取り組みにより、時間外業務の10%を削減でき、従業員の時間意識の向上にもつながったという。
自宅でも会社でもない「第3の空間」を設置
ファシリティの観点では、会社でも自宅でもない第3の空間「F3rd(エフサード)」を設置した。これは、国内15カ所にある富士通社員のためのサテライトオフィスである。今までは、顧客先で商談後に打ち合わせや残務があれば、帰社して対応していたが、このF3rdができたことにより、わざわざ会社へ戻る必要もなくなった。紙資料が必要な場合も、PCにプリンタドライバを設定しなくても、どこでもプリントできる「Print Anywhere」があるため、場所を選ばずに印刷もできる。会議や上司との打ち合わせもWeb会議で済ませればいい。そうすることで、従業員の無駄な移動時間を削減した。
また、VDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ基盤)を導入と同時に、クライアントPCも全てリプレースした。今まで従業員は重量1.7キロ、厚み27ミリと、重く分厚い社給PCを持ち運び、会社と外出先を行き来していた。サテライトオフィスを設置しどこでも作業ができるようになったといっても、重いPCを持ち運ぶのは、従業員の負担となる。そこで、重量800グラム、厚さ15.5ミリの持ち運びやすい軽量シンクライアントを導入し、従業員1万7000人に配布した。
このように、富士通流の働き方改革を実践したわけだが、単にツールの利活用だけでなく、現場に意識を定着させることが肝要だと同社は考える。それには関係部署と現場が一体となった施策が必要であり、目指すビジョンを共有し全社横断した改革を推進するからこそ成果につながるのだという。
本稿は2018年8月21日に開催されたセミナー「Microsoft・Boxと考える働き方改革の未来 」(主催:富士通)における講演「富士通グループの働き方改革 組織を超えたコラボレーション」の講演内容を基に構成した。
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