RPA推進チームは学生、350体のロボットを操る大企業の知恵
学生インターン生が中心のRPA推進チームで、ロボットの開発や運用に従事するレイスグループ。なぜ「あえて」学生なのか。
RPAの普及が急速に進んでいる。既にPoC(Proof Of Concept)の段階を終え、本格導入に着手する企業も増えた。新たな課題となるのは、社内におけるRPAの普及と浸透である。人材スカウト事業などを中心に成長しているレイスグループは、こうした課題に挑み、成果を出している企業だ。
従業員数1200人規模の企業グループでありながら、350体のロボットを内製、運用している。プロジェクトの中心的な役割を担うのは、同社のRPA推進チームである「RPAラボ」だ。
驚くべきことに、RPA活用の推進力である「RPAラボ」は2016年入社の3年目の従業員が創設し、たった1人のメンバーではじめたものだった。ここ半年で順調に人数を増やしているが、チームのメンバーは「あえて」学生インターンばかりを投入している。同社はなぜ学生ばかりのRPAラボを組織し、いかにして大規模なRPAの展開に成功させたのか。若きRPAラボの創設者の手腕と、ノウハウを紹介する。
単純作業に固執する部署は後回し
2018年8月に東京で行われた、「第1回 BizRobo! CAMP!!」。RPAツール「BizRobo! BasicRobo」を提供するRPAテクノロジーズが、BizRobo! BasicRoboを導入したユーザー企業で情報共有を図るユーザーコミュニティーを発足させたことを受け、導入企業の事例講演と交流会を目的に開催したユーザー会だ。導入ユーザーが一堂に会し、各社の苦労話やノウハウを共有していた。レイスグループもユーザー企業の1社として登壇し、RPA普及の鍵を語った。
350体ものロボットをスケールさせているレイスグループだが、最初から順調にRPAを展開できたわけではなかった。当初は、現場からRPA導入の理解を得られない壁にぶつかったという。
「定型業務を正確にこなすことが付加価値を生むという考えが浸透している部署があり、何度RPA導入を説得してもうまくいきませんでした」(松本氏)
そこで、難色を示す部署での導入をいったん諦め、創造的な仕事を重視する考え方に賛同する部署、しかも定型業務の煩雑さや退屈さに課題を持つ部署から導入を進めたという。
「人には限りない創造力が眠っていて、その創造力を最大限発揮させるのが組織の役割です。大前提として、この感覚がRPAを定着させるために必要な条件です。その感覚がない組織にはRPAは絶対に定着しません」と松本氏は力説した。
ほぼ学生インターンで組織されたRPA推進チーム
RPAを受け入れやすい部署からロボットを展開し、RPAの浸透を図った同社。これと並行して力を入れたのが、RPA推進チームであるRPAラボの人材探しと育成だ。「RPA推進で重要なファクターは人である」と言い切る同氏。RPAを導入した当初は社内で唯一のRPA担当者であったが、現在は同氏を含む9人のRPAラボを率いている。驚くべきことに、松本氏を除く8人のメンバー全員が学生インターンだ。なぜ、このような人選を行ったのだろうか。
「若い人は思考が柔軟で、意欲的です。課題があれば、自分でITツールを探して解決しようとしてくれます。理系であるか、文系であるかということはあまり関係なく、文系の学生でも、興味を持てばプログラミングの勉強をして実践する人がいます。学生の可能性は大きいと考えています」(松本氏)
松本氏によれば学生インターンは、大学ランク上位校から破格の時給を支払い集めた。「徹底的に若くて自分で課題を解決するエネルギーを持ち、PCアレルギーがなく、新しい技術を好きな人がRPA推進メンバーとして向いています。当社は『センター試験で数学の点数が100点』というように、数学が得意であることも重視しました」と話す。
RPAラボは、テコ入れが必要だと思われる部署に対してコンサルティングを行い、業務改善をサポートしている。コンサルティングをやりたいという学生は多く、驚くべきことにコンサルティングの主体は学生インターンで、松本氏は時折口を出す程度だという。
「私が間に入らなくても、学生たちは社員と会議を設定し、業務プロセス改善提案を行えます。中にはRPAだけではあきたらず、システム開発に着手するインターン生もいるほどです。人に対する投資効果がこれほど分かりやすく目に見える分野は珍しいと思います」(松本氏)
技術力の強化が必要な部分などは松本氏が対応するが、学生ができることが増えれば裁量を多くしていると松本氏は話す。現在では、先輩インターン生が新人インターン生にRPAに関する技術を教えることも増え、教育コストという観点でも効果的な人材採用と育成の仕組みが構築されている。
入社3年目、RPAラボの創始者が語る推進チームリーダーの資質
RPAラボを率いる松本氏だが、講演ではRPA推進チームのリーダーどのような資質をえているべきかという見解も語った。リーダーは以下の4つの資質を持っていることが望ましいという。
(1)日々情報を仕入れているテクノロジーオタク
AIやRPAの進化のスピードは速い。RPA推進のリーダーは、古い情報に固執せず、日々情報を仕入れて自分の頭の中を更新できなければならない。逆に、古い技術に固執するような人間はリーダーには向いていないという。また、真っ先に先端技術情報が公開される海外のサイトから知識を得られるよう、語学に堪能であることも重要だ。
(2)ビジネスの感覚があること
ビジネス感覚を持った人でないとRPA推進のリーダーは務まらない。例えば、ロボットを100時間かけて作って1時間の業務削減できたのでは意味がないと分かるような、工数対効果の感覚を持っている必要がある。そのためには、RPAに苦手なことをRPAにさせないなどの勘所を押さえておくことも重要だ。
(3)「できる、できない」の予見ができること
(2)の項目に通じるものもあるが、RPAをはじめ、どの技術で何を実現できるか、またはできないか、どうやって業務に適用できるかを見極められることも重要だ。
(4)単純作業に対して拒絶反応にも似た嫌悪感を持っていること
単純作業が嫌い、地味な作業はやりたくない、という気持ちをモチベーションにできる人がリーダーに向いている。逆に、単純作業を目の前にするとコツコツやってしまうような真面目な人は向いていないという。
松本氏は、この見解について「上司の受け売りだが」と前置きしたが、人材スカウトを中心事業とする同社ならではの知見だといえる。
まずは技術力を身に付ける、RPA推進の優先順序
松本氏はこうして得た人材をプロジェクトの各フェーズで活用し、RPA推進をスムーズに進めている。具体的には、以下の3つの段階を踏んだ。
(1)技術力の強化
最初にさまざまな業務のロボット化に挑戦し、知識を増やすことを実行したという。業務は業務部門に迷惑が掛からず、またコストがかからないものを選んだ。しかし、これは技術評価のために必要な作業であり、採算は度外視して多様な業務に取り組んだという。このフェーズは松本氏が一人で臨んだ。
(2)組織人員の拡大
RPAで実行できると分かった業務が増え、技術を標準化できた段階で、学生インターンを採用し、ロボット開発のキャパシティーを増やすことに取り組んだ。
(3)仕入れ
「仕入れ」とは各業務部門からRPA化の依頼を受けることを指す。この段階では、RPAラボメンバーが業務部門に赴き、社内営業を行ったり、RPA社内報でRPA活用のPRを行ったりした。この段階では、RPAラボの技術力もあり、開発体制も整っていたため、短期間で品質の高いロボットを開発し、実務に適用することが可能になった。依頼した部署で高評価が得られれば、評判が口コミで他部署にも伝わり、RPA化の依頼件数が増えていくという。
松本氏によれば、技術力を身に付けてから、仕入れを行うという「優先順位」の付け方が非常に大切だという。
「自分自身がロボットで何ができるかよく理解しないまま業務部門に社内営業をかけても、『その仕事はロボットには無理』といわれてしまいます。まずは、自分で技術力を高めて、ロボットにできることを説明できるようになってから営業をしなければなりません。また、RPAを採用した部署からの評価はとても重要です。技術力や開発体制が不十分なまま、複雑で大規模なプロジェクトにとりかかれば、開発スピードの問題、品質の問題などが生じやすくなり、最悪な場合は計画が頓挫します。このようなことが起これば、社内に『RPAは使えない』という評価が広がってしまう。それではRPAは根付きません。早期に大型プロジェクトに取り組むと、期待が大きいだけに失敗した場合のリスクは非常に大きくなるということです。まずは、RPA推進チームが技術力を付けるところから始める必要があります」(松本氏)
逆に、依頼した部署で高評価が得られれば、評判が口コミで他部署にも伝わり、RPA化の依頼件数が増えていくと松本氏は話した。
使える機能は全て把握しよう、ロボットの技術力を高める方法
まずは「技術力を高めること」が最優先と語る松本氏だが、講演の最後にはどのようにRPAの技術力を上げればよいのかを解説した。同氏いわく「技術力とは作成できるロボットの幅を広げること」であり、そのために以下の4つ事項が有効だという。
(1)開発ツールの機能を全部試行する
まずは、「ロボットにできること」を頭に入れる必要がある。RPAツールではどのようなアクションを自動化できるのか、機能が一覧化されており、それぞれのアクションを選択して確認し、試行(実験)できる。松本氏も、同社が採用したBizRobo! BasicRoboの開発ツールである「Design Studio」のアクションステップを全て試したという。DB連携、JSONやXMLなどのテキスト操作、ファイル操作など、ロボットにできることが分かれば応用の可能性にも気付けるようになるという。
(2)RPAで何でもやろうとしない
ロボットは万能ではなく、できないことや不向きなこともある。そうした場合には、別のツールを使って自動化できることも多い。全てRPAで実現することにこだわらず、積極的に外部ツールを利用したい。現在はオープンなAPIを備えるサービス、無料のAPIも多数存在しているため、管理者が自ら最新の情報を収集し、知識を更新しながら、効果的に技術を取り入れていくことが重要だ。
(3)自分自身で情報を探すこと
検索エンジンを使って上手に「ググる」と、役立つ情報が大量に集まる。BizRobo! BasicRoboのWebサイトで、提供される教育コンテンツを使えば、ツールの学習も可能だ。その他、ツールに搭載されたヘルプ情報も活用できるという。松本氏は、「必要な情報の多くは自分でアクセスできる場所に既にある」として自分自身で情報を探すことの重要性を語った。
(4)実験してみる
松本氏は「まずはロボットを作ってみる」ことの重要性も強く打ち出した。「最悪なのは要件定義に手間取って、いつまでたっても開発できない状況に陥ること。そうなると技術力も身に付きません」と指摘する。ロボットは普通のプログラミングに比べて圧倒的に修正が容易で「作ってみて修正する」という方法が通用する。その過程を通して技術力が磨かれるという。
同社の大規模なRPA適用を成功させた要因は、学生インターンを主力として推進チームに招き入れ、技術力を背景にした社内営業を行い、高品質のロボットを短期間で作成して社内の評判を高めたことだ。このノウハウに会場からは驚きの声が上がった。
RPAテクノロジーズおよびRPAホールディングスは、ユーザーコミュニティーなどを通じて会社を超えたナレッジ共有を促し、ロボットと協働するワーキングスタイルの普及推進にアプローチしている。ユーザーコミュニティーを中心に、ますますRPAの実践的なノウハウが活用可能な形で共有、展開されることを期待したい。
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