RPAが放置される……GMOクリック証券、ロボット内製化への逆転劇
現場でRPAの活用が進まない――RPA導入に課題を抱えたGMOクリック証券は、ある施策によってRPA化をしぶる従業員の心をつかんだ。
RPAを導入したものの、現場ユーザーが使いこなせず宝の持ち腐れになってしまう。こうした課題を抱えるRPA導入企業は少なくない。RPAは内製化することで大きな効果が期待できる一方、エンドユーザーにとってRPAは新規のツールであり、活用には心理的ハードルも高い。
ネット証券大手のGMOクリック証券も、同様の課題を抱えていた。導入初期には業務の棚卸しにつまずき、ロボットの稼働実績が生まれないという事態に陥ったという。「RPAが使われない」と嘆いた同社が、ロボット内製化のための土壌を築くために何を行ったのか。
業務を棚卸しできない、現場で使われない……出だしでつまずいたRPA導入
現場がRPAを使いやすいように、またロボットの効果や利便性を認知できるようにと行った仕掛けによって事態は大きく変わった。今では、現場ユーザーの間でRPAの関心度が高まり、ロボット活用に向けて部門を超えたナレッジの共有やコラボレーションが進んでいるという。
RPAテクノロジーズ主催のユーザー会「第1回 BizRobo! CAMP!!」で、GMOクリック証券 情報システム部の古澤和也氏が語った。
このイベントでは「BizRobo! BasicRobo」を導入したユーザーが一堂に会し、各社の苦労話やノウハウを共有していた。GMOクリック証券もユーザー企業の1社として登壇し、RPAを導入した際に経験した“つまずき”と、その解決策を語った。
GMOクリック証券のRPA導入は業務改革プロジェクトの一環として始まった。プロジェクトの発足は2016年10月。ルーティンワークや機械的作業の効率化による作業時間、作業負荷の軽減が課題の一つに挙がり、RPAの必要性を感じたという。
2017年3月には、RPAツールの調査とトライアルを開始。RPAテクノロジーズが提供するBizRobo! BasicRoboの活用を決めた。BizRobo! BasicRoboは、サーバ型のRPAツールであり、現場ユーザーでも比較的操作しやすいといった定評を得る。GMOクリック証券も、現場ユーザーが主体となってRPAを活用できるよう、アカウント管理の容易性とエンドユーザーによるロボット作成およびメンテナンスの分かりやすさという2点を重視し、BizRobo! BasicRoboの導入を決めた。
RPA導入のプロジェクトを中心となって推進する役割として、古澤氏を含めた2人が就任。まずは業務部門が試用できるパイロット版のロボット作成に従事したという。
「業務部門スタッフが、パイロット版ロボットでRPAが稼働している様子を確認することで、RPAの利便性や効率性を実感するとともに、現場から各部門の業務フローにおける業務改善のアイデアが生まれることを期待しました」(古澤氏)
ところが、その期待は早々に裏切られることになる。業務現場ではRPA化可能な業務の発見が難航し、改善のアイデアは1〜2カ月のうちに枯渇していったのだ。
「現場の業務を分析する段階では、端末での単純作業業務が多いことを把握していました。しかし単純作業と思われた業務フローの中にも、人間による確認作業といった標準化しきれない人手作業が組み込まれているケースが多かったのです。結果的に業務をそのままRPAによって自動化できるケースは限られていました」(古澤氏)
また、推進チームがロポットを提供し、晴れてRPA化した業務であっても、現場側でメンテナンスや新規作成が敬遠され、結局ロボットが利用されずに効果が持続しないというケースもあったという。古澤氏は、こうした問題の根本的な原因として「RPAを導入することが目的化し、業務の詳細な棚卸しがおろそかになってしまった」と振り返る。
部品化ロボットをポータル画面で公開
RPA化する業務の棚卸に難航し、RPA化してもロボットが継続的に利用されない――問題を解決するために推進チームは、あらためてRPA化を業務改善活動の1つと定義し、業務プロセスの見直しを図る方向に舵(かじ)を切る。これが現場でのロボット内製化を進展させる契機となった。どのような施策を行ったのだろうか。
1つは、業務全体を実行するロボットではなく、部分的なプロセスを実行するロボットを作成し、各部署の業務フローに組み込むという考え方の転換だ。部分的なプロセスを実行するロボットであれば、人手作業が残る業務にも柔軟に適用できる。シナリオもシンプルになり、改変や環境変化に合わせるメンテナンスも容易になると考えた。
同社は各種の業務に共通する作業を抽出し、それを自動化する単機能の小さなロボットを「サンプルロボット」として提供。それらの中から、エンドユーザーが必要なものを選んで業務に組み入れられるような環境を整えた。
「社員がいつでもアクセスできるポータルサイトで、サイトアクセス、ログイン、ログアウト、データ変換、各種のループ(繰り返し)処理、条件分岐、メール送信といった、シンプルかつ利用頻度が高い作業を自動化するロボットの“部品”を公開しました」(古澤氏)
ポータルサイト上では、教育コンテンツも掲載し、基本操作の他、理解のハードルが高い繰り返し処理や変数などの使い方を解説した。その他、「口座開設業務」のような具体的な作業をマニュアル化することで、従業員が業務の中で操作を習得できるように工夫した。マニュアルでは、画面キャプチャーを多用し、視覚的に理解できるよう心掛けたという。
説明会でのデモが転機をつくる
推進チームの試みはツールの提供だけにとどまらない。社内の全部署を対象に、ロボットの実演デモを含む説明会を実施し、啓発活動に励んだ。デモでは、日常利用している社内システムを使った業務をどのように自動化できるのか説明し「目の前の業務の負荷を軽減できるかもしれない」と思えるように工夫したという。
「現場ユーザーの中には、『手作業で行う方が早い場合もあるのになぜロボットが必要なのか』『多忙なのに業務に直結しない新しいことを覚える必要があるのか』と疑問を持つ人もいるだろうと予測していました。こうした従業員の心理的ハードルに対し、RPAで個々の作業負荷を軽減することで、安定したオペレーションが可能になることを説明し、業務を知る『あなた』だから気付けることがある、それをRPAで改善できる可能性があるというメッセージを伝えました」(古澤氏)
古澤氏はRPAの啓発活動に関し、現場が感じている疑問に対して、ロボットの推進担当者があらかじめ納得できる回答を用意することが大切だと強調した。
部署を超えたナレッジ共有によりロボット内製化が進む
古澤氏らの推進活動によって、現場の人々のRPAへの見方に変化がみられた。説明会の後、2週間ほどで、現場での作業自動化が徐々に実現するようになり、従業員からは「このような業務が自動化できるのではないか」という会話が自然に出るようになったという。また、社内のグループチャットではRPAを用いた業務改善手法について議論がなされ、社員相互のコミュニケーションも活発化した。
「現場スタッフ間でのコミュニケーションの活発化に成功したことによって、推進チームが用意したコンテンツを越えたナレッジの共有や、部門を超えた横展開が可能になりました。結果的に、業務部門側でロボット開発やメンテナンスを行うことで、RPAによる業務改善のスピードがさらに高まることも認知されました。今では、部門内やチーム内におけるロボットの内製化が進んでいます」(古澤氏)
現場の従業員が主体となって、ロボットを内製化させるための土壌を築きつつある同社。しかし一方で、業務部門で自由にロボットを作成させることはリスクも伴う。例えば、ロボットのシナリオ作成時にオペレーションミスを組み込んでしまったり、開発者の異動や退社によってメンテナンスが困難になったりするデメリットも予想される。
古澤氏はこうした課題に対して、「本番適用前の判断ルール」「アカウントやパスワードの管理ルール」といったロボット管理のためのルールを作り対応する。またドキュメントによるロボットの管理も重要だという。すなわち、ロボットの棚卸しができるように、どの部署でどのような業務を行うロボットを作成したか「名簿」を整備し、そのロボットがどのシステムにアクセスするのかといったことを記載した「プロフィール」を作成する。
「社内システムの改修などによりロボットが止まってしまうケースは多いでしょう。しかし、ロボットの名簿やプロフィールを文書として整理していれば、あるシステムの改修がどの自動化プロセスに影響するのかを事前に突き止められます。もちろん『野良ロボット』発生予防にもつながります」(古澤氏)
同社では今後、RPA導入において各社との情報連携を強化し、継続的な改善活動に取り組んでいく考えだ。サーバ型だけでなく、デスクトップ型RPAツールの利用も含め、さらなるRPA活用を検討するという。
GMOクリック証券におけるRPA導入の重要なポイントの1つは、現場でのRPA内製化には部署を超えたナレッジの共有および横展開と、現場スタッフのコミュニケーションの活性化だ。RPAテクノロジーズおよびRPAホールディングスは、ユーザーコミュニティーなどを通じて会社を超えたナレッジ共有を促し、RPAの普及推進にアプローチしている。ユーザーコミュニティーを中心に、ますますRPAの実践的なノウハウが活用可能な形で共有、展開されることを期待したい。
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