営業部門の業務課題とIT活用(2018年)/前編
キーマンズネットは2018年10月に「営業部門の業務課題」に関するアンケートを実施した。それによると、現在営業部門が抱える課題は営業部門の「中」ではない領域にあることが明らかになった。今後のITツール導入意向と併せて見ていく。
キーマンズネットは2018年10月11〜31日にわたり、「営業部門の業務課題」に関するアンケートを実施した(全回答者数163人)。回答者の内訳は営業部門が18.4%、情報システム部門が47.2%、製造・関連部門が14.1%、全社・事業部・スタッフ部門が12.3%、その他8.0%。
SFAの登場により、ITツールによる営業業務の効率化が期待されているが、実際の営業部門の現場ではITは業務に貢献できているだろうか。また、現場の課題はどこにあるだろうか。
前編である本稿では、営業部門が主体的にITによる業務改革を行う権限を持つかどうか、あるいはその予算範囲はどうか、実際に取り組んでいる業務改革がどういったものかを見ていく。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値は丸め誤差のため、一致しない場合がある。あらかじめご了承いただきたい。
営業部門の独自予算44.7%が「ある」と回答も、裁量権は他部門に
企業の継続的な成長には商品やサービスの設計や品質も重要だが、これを市場に展開する営業部門による継続的な販売努力も重要な要素だ。
変化の速い市場ニーズへの対応や競合との差別化を考えると、いかに早く課題解決に取り組めるかが重要だ。このため、多くの企業では営業力を強化するべく、顧客情報や市場動向を把握する目的で営業支援ツールの整備や顧客管理、マーケティングの高度化などに取り組む。
しかし、ことITツールを使うとなると、「どの部門が主幹となるか」が課題となる。営業部門の課題解決において、営業部門はどこまで主体性を持って調達できているのだろうか。
そこで今回の調査では、まず「営業部門が独自の裁量で業務支援ツールを調達することがあるか」を聞いた。その結果、営業部門独自の裁量でツールの調達ができるとしたのは全体のわずか20.2%にとどまった。過半数の52.1%は営業部門の裁量によるITツール調達はできないと解答しており、24.5%は情報システム部門などの承認を得てから部門予算で調達すると解答する結果になった(図1)。
つまり、全体の44.7%で営業部独自の予算はあるものの、その約半数の20.2%しか「独自の裁量」でツール導入ができていないことになる。
ところで、営業部門独自の予算でツールを「調達できる」としても、その予算規模はどの程度だろうか。
調達できると解答した方を対象に、どの程度の裁量があるかを聞いたところ、「1〜10万円」とごく少額にとどまるとした回答が50.9%と過半数を占め、続いて「10〜50万円」24.5%、「100〜300万円」12.3%と続く結果だった。
ビジネスシーンでのIT活用が必要不可欠となりつつある昨今、営業部門の裁量で業務支援ツールの活用を検討できるようになりつつあるものの、その予算感は10万円以内にとどまる企業が多いことが明らかになった。こうした予算の制約から考えると、部門が主体となった業務改革ではSaaS型業務支援アプリケーションなどが現実的な選択肢となっているのだろうと予測できる。
次ページでは、各社の営業部門が、今取り組むIT活用や業務改革がどのようなものかを見ていく。ここでポイントとなるのが営業部門の「内」と「外」の進捗(しんちょく)度合いの違いだ。
"営業力強化"の不足要素は営業力の「周辺」問題
ここまでは営業部門の業務改革における裁量や予算を見てきた。では、実際に既に取り組んでいるIT活用や業務改革はどういったものだろうか。また、今後、何を課題として、どういったIT活用を検討しているのだろうか。
調査では、既にITツールを利用する業務として「営業状況管理、売上目標管理」「営業支援(契約書類、伝票の作成など)」や「営業部門内のナレッジ共有、コミュニケーション」「営業活動報告」などが多く挙げられた。つまり、純粋に営業部門の「内」の業務効率を良くするための仕組みが一定数普及していることが明らかになった。
一方で「今後ITツールの利用を検討している業務」では「顧客、パートナー管理、顧客分析」が挙がった(図2)。
ここから推察できるのは、営業部門の既存業務を効率化する目的のITツール類は既に導入している企業が多数であり、現段階ではさらに高度なセールス体勢を整備しようと検討する企業が多いという点だ。例えば、アフターサポートやコールセンターなどのように、別部門が抱える情報を元にした、より詳細な市場動向把握に期待を寄せる営業部門が多いと考えられる。
なお、この設問でこれらの次に回答が多かった「場所にとらわれない業務環境の実現」については、営業部門の喫緊の課題である可能性が高い。というのも、2019年4月からは「働き方改革関連法」が施行され、時間外労働の上限規制が始まる。大企業だけでなく中小企業もこの規制の対象となる。取引先などへの往訪が多い営業部門にとって、テレワークに代表される「場所にとらわれない業務環境の実現」は、生産性向上の鍵になることから注目されているものと考えられる。
この設問に関連して、「営業部門が“営業力”を強化する上で不足していると感じるもの」について調査したところ、1位は「市場予測・顧客管理の能力不足」(52.8%)が挙がった(図3)。
仮にSFAのようなツールとCRM(顧客情報管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツールなどの連携が実現したとしても、その情報をつなぎ合わせて意味のあるデータを見いだす能力がなければ営業力強化には結び付かない。この点を支援する取り組みとして、昨今ではAIを活用して過去の受注データや今後アプローチ予定の営業先リストを分析したりするアプローチも生まれている。
具体的には「受注確度の高い営業先リスト」を自動生成したり、見込み客のオンラインでの問い合わせに提案のメールを自動送信したりするなど、ベテランの経験に頼らずに機会損失を最小化するような機能が実際に、SFAの機能として搭載され始めているものもある。これらの多くがIT部門の運用管理工数に依存せず利用できるSaaS型の提供であることも注目したい。
ちなみに、この項の2位以下の回答には「ナレッジの共有ができていない」42.3%、「営業部門内でのコミュニケーション」34.4%、「部門外との調整能力」33.7%などが挙がり、主に社内でのコミュニケーション、ナレッジ共有部分で課題を抱える企業も少なくない様子が伺える。
MA、BI/BAツールは今後数年で導入数が増加する
ここまでは、営業部門の業務課題や業務支援ツールとしてIT活用する際の裁量権や予算感、現在の課題がどのようであるかを見てきた。その際、SFAなどの営業部門内の業務支援につながるITツール類の導入は、既に一定程度普及しているのではないかと推察した。
そこで次の設問では、実際の各種ITツールの導入状況と、今後のITツール導入移行がどのようであるかを聞いた(図4)。設問では、業務効率化を軸に、ソフトウェアやサービスだけでなく、業務端末の利用状況を含む包括的な状況を確認した。
まず利用デバイスではデスクトップPCよりもノートPCの導入率が高く(77.3%)、スマートフォンやネットワーク機器(モバイルルーターなど)も過半数が導入済みであることが明らかになった。持ち出し可能な端末が一定程度普及していることが分かる。
一方で営業部門からのニーズが高いと予測されるCRM(顧客管理)やSFA(営業支援)の導入率は4割ほどにとどまり、低い状況にある。市場分析や新規顧客開拓に有効なツールとされるMAやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールについてはさらに低く、導入率は2割弱だった。これらのツールは先の推察の通り他ツールと比べて「導入予定」が比較的高い割合を示した。このことから、営業部門におけるMAやBIツール類の導入はこの数年で増加するものと考えられる。その際、営業部門の裁量範囲内での導入が想定されるため、SaaSあるいは「SasSと同等の価格帯で利用できるソリューション」に注目が集まると予想される。
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