400人の知人が採用候補――サイバーエージェントが挑むリファラル採用の軌跡
従業員に知人を紹介してもらう「リファラル採用」。サイバーエージェントでは、この手法によって半年で400人の採用候補を集めている。なぜ、多忙な従業員が紹介を“惜しまない”のか。その背景には、地道すぎる取り組みとあるツールの存在があった。
採用コストが低い、企業にマッチした人材を採用できる、離職率が低い――多くのメリットを持つ、リファラル採用に多くの企業が熱い視線を注いでいる。
リファラル採用とは、従業員の人脈を活用した採用手法のことだ。しかし、成功を収める企業がある一方、効果が出ないという悩みをもつ企業も多い。リファラル採用は、従業員がリクルーターとなって採用に関わるだけに、全社の認知度やモチベーションをどう上げるかという課題が多くの採用担当者を悩ませている。
人脈と欲しい人材がマッチしない、どう乗り越えた?
サイバーエージェントもこうした課題を抱えていた。なんとかして、リファラル採用を自社の文化として根付かせたい――こうした思いからリファラル支援ツールの導入や、地道な試行錯誤を行い、現在は半年で数十人もの人材をリファラル採用で獲得している。
しかし、その道のりは決して平たんなものではなかった。今、多くの人事担当者が「参考にしたい」と注目する、同社のリファラル採用のトライ&エラーの軌跡を紹介しよう。
サイバーエージェントはインターネット広告やメディア運営を主力事業とする企業。創立から20年目を迎え、社員数は約5000人、120社以上のグループ会社を有する。平均年齢は31.9歳と若い働き手の多い会社だ。
多様な事業を展開している同社グループは採用ニーズも多く、特に中途採用を受け入れる数は年間600人以上にのぼり、全体の採用しているポジション(求人ポスト)は約380を数える。多くの採用を短期間に実現するスピードも求められる。
従来、同社は中途採用の1つの手段としてリファラル採用を推進してきた。しかし、同社は従業員にリファラル採用の制度が周知されない、求人にマッチしない人材の紹介が多い、部門間やグループ会社間の連携がスムーズにいかないといった課題を抱えていたとサイバーエージェント 中途採用チームの桑田友紀氏は話す。
「メールを使った認知方法だけでは、従業員にリファラル採用の意義が届かず、紹介のアクションにまで結び付かないという障壁がありました。また、従業員が紹介する人材が、実際は採用ポストにマッチしていない問題もありました。他にも、当社グループ内での連携ができておらず、一部門で惜しくも採用に至らなかった人材を他の部門の選考フローに渡すことができないなど、機会損失につながっていました」(桑田氏)
桑田氏は、リファラル施策を推進できる土壌やカルチャーができていないことが大きな課題だったと振り返る。こうした課題を受け、2014年に各事業部の人事部門とは別に、中途採用を専門に担当する中途採用チームを立ち上げ、リファラル採用の促進に本腰を入れた。
コンサルティングとツールによる支援を重視して、パートナーを決定
リファラル採用を促進するに当たって、2015年にリファラル採用ツールの導入を決定した。リファラル採用ツールは、従業員への制度告知から選考に至るまでのフローを一元管理でき、リファラル採用に掛かる工数を削減できる。「どのような施策が、どう結果につながったのか」を可視化できるため、PDCAを回す際にも有効だ(詳しくはこちら)。
当時はSaaS型のツールが幾つか存在していたが、その中からリフカムが提供する「Refcome」を選定した。その理由を桑田氏は次のように語る。
「機能の側面だけでなく、密なコミュニケーションを取った上で、リファラル採用が促進される組織を作るためにどのような施策が必要なのかを助言いただけることが決め手になりました。また、当社では採用を迅速に行わなければなりません。機能追加をリクエストした際に、早ければ即日追加してくれるようなスピード感も重視して導入に踏み切りました」(桑田氏)
導入後は、リフカムのコンサルティングを受け、ツールを使ったオンラインの施策およびオフラインの施策を試行錯誤で行った。また、半期ごとのKPIを設定し、振り返りと新たな施策をリフカムとともに考案し、次のアクションにつなげるというPDCAの仕組みを整えた
桑田氏は「むやみに採用目標を掲げて従業員に強制しても紹介数は増えません。人を動かし、リファラル採用が定着する文化を作ることが大切です」と話す。具体的にどのような施策を行ったのだろうか。
ただのメールでは開封されない、送信者名に工夫
同社では、リファラル採用を認知させる方法の1つとして、メールによる施策を行う。現在は週に1回、従業員約2000人を対象に、年齢、新卒および中途、入社歴などに応じてセグメントを分け、それぞれ内容の異なるメールを配信している。
メールの配信の壁は開封率が低いことだ。もともと同社はメールよりもチャットやメッセージツールでのコミュニケーションが主流でメールをチェックしない従業員が多かった。しかし、今は開封率が50%以上にまで向上しているという。
開封率を上げるための工夫として、文面をカジュアルにすることを心掛けた。求人案件の紹介は、応募しやすい文面を意識した。また、従業員の紹介に対するハードルを下げるため、紹介された人物はすぐに選考フローに入るのではなく、まずは気軽に人事担当者と話せる「カジュアル面談」から始まることを強調した。さらに、メールの件名には統一性を持たせて、従業員が後から検索しやすいように気を遣った。
サイバーエージェント 中途採用チーム 中富氏は「効果が高かったのは、送信者の名前に変化を持たせて、マンネリ化を防いだ施策です」と語る。例えば、グループ会社の社長の名前を送信者として配信したメールは、6〜7割が開封され、数件の返信があったという。
入社オリエンテーションでもリファラル採用の認知を促進
入社したばかりの従業員に対しても、確実にリファラル採用が認知されるよう工夫している。月に1度開催する中途入社の従業員に向けたオリエンテーションでは、リファラル採用の紹介を必ず行うようにしている。併せて、リファラル採用ツールであるRefcomeのアプリをダウンロードさせたり、ブックマークをさせたりと、ツール活用の促進にも余念がない。オリエンテーションの後は、リファラル採用を印象付けるためにメール配信などを通じて制度のリマインドを行い、制度の定着に気を配る。
こうした工夫が功を奏し、直近2カ月のリファラル紹介の内、2018年入社社員による紹介が全体の約4割を占めているという。
2000枚以上のチラシ、ポスターを配布――リアルな接点を重視
オフラインの施策でも制度の周知を図る。例えば、社内報では、「自分のまわりのいいやつ採用」という連載を設け、紹介者と入社者それぞれのインタビュー記事を作成している。従業員が紹介のイメージを持てるよう、「どういうタイミングで声を掛けたのか」「なぜ入社を決意したのか」「紹介の際に感じた不安感」などの話題を盛り込んだ。
ポスターを使った施策も行った。少女マンガのタッチで描いた紹介ポスターを作製し、事業部のフロアごとに掲示したのだ。掲示の場所は通路の壁などではなく、コピー機の上やカフェといった目に付きやすい場所を選び、デジタルサイネージも活用した。
ちなみに、ポスターをA4サイズのチラシにしてピザの箱に貼り付けるという地道な作業も成果につながったと中富氏は振り返る。同社では福利厚生の一環として月に1度従業員にピザを配布しており、その制度に着目したアイデアだ。手作業で1枚1枚貼り付けるという苦労が実を結び、配布日とその翌日には紹介数がぐっと増えた。最終的に、配布したチラシは2000枚にも上り、従業員への周知を促進するとともに、同社がリファラル採用に力を入れていることを印象付けたという。
桑田氏は、こうした地道な活動を振り返り、ツールだけに頼りすぎてはいけないと注意を呼び掛ける。「車に例えるとエンジンがRefcome、ガソリンが社員のモチベーションです。ガス欠が起きては、何も始まりません。そして、人を動かすのは人だけ。従業員とリアルな接点を持ち、対話することで制度の認知が進み、紹介が増えていくのです」と語り、オフラインも含めた施策の重要性を強調した。
知人を紹介するハードルを下げる
従業員の紹介数を上げるためには紹介しやすい仕組みを整えることも大切だという。中富氏は「知人を紹介することに対する、従業員の心理的ハードルは高い。紹介しても自社に合わなければどうしようと考えてしまいます」と話す。
同社は、従業員が紹介した人物に対して、選考には直接関係ない“カジュアルな面談”を設けている。カジュアル面談の場では、応募者が自社のことを十分に理解してから選考に進めるよう、自社の仕事のつらい面も忌憚(きたん)なく伝えることを意識している。入社前と入社後のイメージにギャップがなければ、早期の離職率も下がり、紹介活動にも結び付くと中富氏は語る。
さらに、選考の結果で不合格になった場合のフォローアップにも気を遣う。人材を紹介してくれた従業員には、チャットやメッセージ、直接面談を通してフォローを行うことで、できる限りモチベーションが低下しないように配慮している。
高額なインセンティブで選考通過率が10分の1に
トライ&エラーを繰り返す中で、失敗した施策もある。リファラル採用を行う企業では、しばしば従業員のモチベーションを上げるために、人材の紹介を行った従業員に対してインセンティブ(報奨金)を用意するケースが多い。同社では、紹介率を上げるためにインセンティブの金額を引き上げたことがあったが、結果的にニーズにマッチしない紹介が増えてしまった。
「高額なインセンティブを設けたことで、紹介数は増えました。しかし、自社との相性といった紹介の”質“が低下し、選考通過率は10分の1にまで低下しました」(桑田氏)
桑田氏はこの失敗を振り返り、インセンティブはモチベーションを引き上げる要素にはなるが、従業員の動機付けを行うには「自分たちの会社は自分たちで強くする」という考え方を根付かせることが重要だという教訓を語った。
リファラル採用が採用実績の30%を占める
リファラル採用に尽力する中途採用専門チームが立ち上がって4年が経過した今、従業員からの紹介数も着実も増え、2018年の上半期だけの成績を見ても、全従業員約5000人で、紹介数は約数百人、応募者はその半数、採用者は数十人にのぼっている。リファラル採用は年間の採用実績全体の約30%を占めるという結果も出た。
「子会社との連携の取り組みも進めており、リファラル採用を積極的に行い、実績を作っている子会社にはRefcomeのアカウントを発行し、人材の機会損失が起こらないようにやりとりしています」(桑田氏)
リファラル採用の機動力となった中途採用専門チームの存在感は大きく、桑田氏も「リファラル採用を成功させるためのポイントの1つは、中長期的な目線で戦略を立て、取り組みを進められる専任のチームを設けることです」とコメントをしている。同チームは、現在カルチャー推進室とともに、リファラル採用を促進させるための土壌づくりにも専念する。
「社員が情報交換をできる場を設けたり、20年間の事業の中でどうやって成長してきたかという歴史書、エピソードを本にして自社の理解を進めたりといった取り組みによって、従業員がより『他人に紹介したい』と思うような組織を作りたいと思っています」(桑田氏)
桑田氏、中富氏ら中途採用専門チームは、リファラル採用だけでなく、ダイレクトリクルーティングなどの手法によって、現場と応募者のミスマッチの少ない選考を実現すべく尽力する。2021年までには、「直接採用を100%にする」目標を掲げ、日本一の採用チームを構築するという抱負を語った。
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